第二節 王都開幕

第9話 私、何故か冒険者組合で絡まれる

 私は朝から何でも食べられる方だ。むしろ肉が食べたい。

 朝からむしゃむしゃもりもりと、十日連続朝から肉でも私は問題ない。


 だから私は昨日ネネロアさんに今日の朝ごはんの要望を聞かれた時に「肉!」と元気よく言ったのに…今私の目の前にある長丸の見知らぬ物体は何なんだろうか。

 美味しそうな匂いはするも、どうやって食べていいのか分からない。

 怪訝な顔で謎の物体を見つめる私を他所に、ネネロアさんはそれを美味しそうに食べている。


 ちなみにこれはハンバーグという食べ物らしく、凝った作り方をすればそれなりに面倒だけど、今日はかなり手を抜いた物らしく、焼き方さえ気を付ければ誰にでも作れる物らしい。

 

 ちなみにそのハンバーグを食べた感想は――



 「めちゃくちゃ美味しい!!!」



 私は驚いた。王都の高級料理店で食べられるどの料理よりもきっと美味しいだろう。今まで食べてきた肉系料理の常識を吹き飛ばすそれがハンバーグだ。

 しかも、使われる肉は別に高級の物ではなく、安価の肉でも美味しいハンバーグを作れると。

 それと用意してくれたパンもまた美味しかった。チジェッタのパン屋さんで売られるどのパンよりも柔らかく、そして優しい甘みがあり、こんな上等な食べ物を何の記念日でもない日の朝食として食べて良いのだろうか。と、頭は悩み、しかし私の手や口は止まらない。



 「ふふ、どう考えても普通はこっちのパンの方が美味しいわよね」


 「はい、すごく美味しいです!」


 「でもあの子達は固い黒パンの方が美味しいって言うのよね」


 「あの子達?」


 「ローラン様と一緒にいた子達よ。人は食べ物を柔らかければ良いと思い込んでるって言ってたかしら。それで前に黒パンを試しに食べてもらったらとても美味しそうに食べてたわ」


 「え!このパンの方が絶対美味しいですよ」


 

 美味しい朝食とネネロアさんからの意外な話。私達の朝食の時間は話も弾み、それはとても幸せな時間だった。



▽▼▽


 

 「そろそろ行きましょうか」


 

 私達はこれから王都の冒険者組合に行く。それはチジェッタからマイネルンへと拠点を変えた為、冒険者組合で登録変更を行う必要があるからだ。

 話を聞くとネネロアさんも冒険者登録をしているらしく、あの盗賊達を倒した実力から当然上級冒険者だと考えられる。



 「場所は何所なんですか?それに歩いて行くんです?」


 「此処は南区の南西寄りなのだけど、南区の支部は此処から歩いて15分ほどの距離よ」


 「では、歩いて行きましょう」



 この南区というのは王都の中で人通りはそれなりだけど、住んでいる人はそれほど多くはないらしい。それでも周りの建物に私は圧倒される。

 たしかに王都への予想とは少し違うかもしれないけど、この私が王都の道を歩いている事実に私は興奮気味だったりする。



 「ここって中心街と呼んでも良いんですよね?」


 「そうね。中心街とは外壁内の街を差すわ。何故わざわざ中心街と呼ぶのかは、外壁外の8つの町を含めて王都だから、それらを区分する為よ。そんな事より組合の建物が見えて来たわ」



 南区の冒険者支部。チジェッタの冒険者組合の建物よりも大きく、流石は王都の冒険者組合だ。 

 私は建物の入り口へ小走りし、中の様子をそっと覗く。所謂これは斥候だ。

 どんな人間がいるか分からない。ネネロアさんに危険が及ぶかもしれない。

 まず私がその危険を察知しなければ――


 

 「いくわよ」



 私は腕を掴まれて強引に建物の中へ連れ去られた。こういうのもたまにはイイかも…。

 

 腕を掴まれたままの私。ネネロアさんはそのまま気にする事なく受付へと歩く。

 中には当然冒険者の姿がある。

 私達を見て、特に気にしない人や敵視するような視線を当てる人。嫌らしい顔をする人。


 何所にいっても冒険者なんてそんなところか。



 「此処の組合長に会いに来たわ。名はネネロア、そう伝えて」


 「えっと…ご予約は…無いようですが?」


 「ええ、予約なんてしていないわ。ガダルフさんにネネロアが来たと伝えてもらえたら良いのよ」 


 「そういうのは困ります。それにネネロアさんは冒険者組合に登録はされていますか?基本的にガダルフさんとの面会は上級冒険者のみとなっています」


 「はぁ…、良いかしら?貴女も此方で働く以上は守秘義務はきっちりと守ってもらいますからね」



 私の目の前でネネロアさんが受付の人と揉めている。なんでも組合長と会いたいらしいけど、予約が無いと会えないと。

 ネネロアさんはいつもの表情だけど、受付の人は少し顔を赤くして怒ってる。

 でも、そんな受付の人はネネロアさんが差し出した冒険者証明書を見て悲鳴を上げた。それはもう盛大に、まるで強姦にでも襲われたようなその叫びは建物全体に響く。

 それから分かった事は、この受付の人はミオさんと言うらしい。何で分かるのって?だって、それは…。



 「おいテメー!なにミオを泣かしてんだ!!!」



 そう、ミオさんはネネロアさんに冒険者証明書を見せられて悲鳴を上げ、何故か泣き出してしまった。

 それを見たネネロアさんは頭を抱えている。


 そしてその泣き出したミオさんを庇うように一人の冒険者が現れたという訳だ。



 「聞いてんのかテメ―!おいミオ!何やられたんだ!!」



 ミオさんはアワアワして言葉が出せないでいる。この状況を私は何がなんだか全く理解できない。

 ちなみに…何故か私が文句言われてるんだけど。

 もしかしてネネロアさんが今日もメイド服を着ていて、そんなネネロアさんは私の腕を掴んでいるから…もしかしてネネロアさんの事を私のメイドと勘違いしているんじゃ?私が主だと思われてる?



 「なんとか言えよコラァ!!!」



 私に向かって手が伸びてくる。この状況を誰も止めない。

 ニタニタした顔で見てる冒険者、興味なさそうにして眺める冒険者。


 私に向かって伸びてくる手が私の胸元を捕えようとする。

 その直前の瞬き、私は一つ瞬きをした。


 その一瞬にして目の前の景色が変わる。

 私の目の前には右手を地面に振り下ろしたネネロアさんがいる。

 そして爆発音が頭に響く。

 


 「私の連れに気安く触れるな下衆が」



 何が起きたの?私に詰め寄ってきていた冒険者が建物の天井から降って来た…。

 もしかしてネネロアさんが冒険者を地面に叩き付けて、その勢いがありすぎて天井まで跳ねたんじゃ…こわっ!

 

 周りは時が止まったかと勘違いするくらい固まって動けないでいる。

 口をぱくぱくさせて何か言いたい人もいるっぽいけど、私は特に何も思う事は無かった。


 だって、貴方達は見てるだけの人でなしだもの。もし私だったら…うん、組合長に事情を伝えて仲裁に入ってもらうかな!



 それにしても目の前のネネロアさんの機嫌がとんでもない事になっている。

 見るだけで分かる。額の中央に血管が縦に浮き出るくらい怒っている。そんなネネロアさんに私は話しかけられません。

 むしろそんな怒ったネネロアさんに視線を合わさない素振りをして密かにチラ見して楽しんでいたり。



 そうこうしていると私とネネロアさんの前に一人の男性がミオさんと共に現れた。

 


 「話はミオから聞きました。申し訳ございません」


 「意味が分からないわ。特に意味が分からないのは今此処に居る冒険者達よ」

  

 「申し訳ございません…」


 「私と私の連れのマーリアは組合の整理の為に四日に一度、此処へ来る事になってるの。それは分かっているわよね?」


 「はい、それはもう…」



 え!私そんな話聞いてないよ!もしかして店の休日の初日は別の所で働くって冒険者組合の事だったの!



 「今日は少し此方でやりたい事があったけど…残念だらけでもういいわ」


 「後で私の方できつく言っておきますので…」


 「ダメよ」


 「え?」


 「さっき私の連れのマーリアが襲われそうになったわ。それを此処に居る冒険者達は見ていただけだった」


 「はい…」


 「今いる冒険者全員――。いいわね」


 「は、はい」



 私はただ傍観している。組合長の顔色が会話が続くたびに青くなっていく様を。

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