第10話 闇を払え、我が翼

『うおおおおおお……!奴が憎い……憎いいいっ……オレの全てで奴を必ず倒してやるぞ……ルクシアァァァァア!』



「ごめんなさいね、朝からノートを借りちゃって」


「ううん、気にしないでよ。あ、でも僕なんかのノートでいいの?」


「この教室には今、春野君以外に誰かいる?そういう事よ」


 僕は今、レナさんと一緒に学校にいち早く来て数学のノートを見せていた。正直な事を言ってしまうと、お世辞にも僕のノートは普通に板書しているだけなので、真面目に勉強してる人が遅れを取り返せるだけの事をまとめている訳ではなかった。


 それでもレナさんは何処か嬉しそうな様子でそのノートを見ながら自分のそれに内容を書き写していた。


「そういえば、もうすぐ4月も終わるね。遠足の時のバスの席順……どうする?」


「そうね……それもそろそろ決めて学年主任の先生に提出しないといけないわね。あ、そうだ……放課後いつもよく行くスイーツショップに行きましょう!そこで相談しましょうよ!」


 レナさんは僕の小さな独り言に対して席を勢いよく立って僕に迫りながらそう答えた。


「わ、分かり……ました」



「おっし、皆集まったな……じゃっじゃーん!俺の作った小型の発明品だ!」


 昼放課に屋上に集まった僕らは和也君が徹夜で作ったという発明品を見せてもらっていた。


「これって何だ……おぉっ、銃か!」


「そ、これはコンパクトショット!普段はこんな感じで折り畳んで携帯する事が出来るんだ。ただ、先生にバレないようにってのを重視したから光弾の威力は怪人クラスじゃないと意味が無いかもな」


「あれ……銃っていう割には何だかそう見えない感じだけど?」


「良く気づいたな!コイツは今開発中の追加パーツを合体させるのを視野に入れてるんだ」


「その追加パーツ次第では怪獣に太刀打ちする事も出来るって訳だな!で、コイツを俺様達にくれるってのか?」


「そ、俺も含めて皆でコイツを試験運用したいんだよ!てな訳で、よろしくな!」


『緊急警報、緊急警報、市民の方は至急シェルターに避難して下さい……』


「早速テスト運用出来そうだな……よし、行こうぜ!」


 僕らはアタッシュケースからコンパクトショットを取り出すとそれぞれ街へ急行した。



『ガァァァア!』


 僕らが街に着くとそこではゲンジさんが変化したのとそっくりな外見の烏のような怪獣が暴れまわっていた。


「チッ……好き勝手しやがって……よし、和也と優人は避難するように皆を誘導してくれ……この辺はアミーゴ、お前に任せるぜ!」


「おう!」

「任せて!」


「気を付けてね……照太君」


 照太君の指示で再び散り散りになった僕らは各自行動を開始した。


『おりゃぁっ!お前……倒されたんじゃなかったのかよ……!』


『ガァァアッ……!』


『まさか、コイツは別個体……だってのか!?』


『何処見てんだよ、英雄様よぉ!』


『おわっ……お前はテネブルか!?お前も確かルクシアがぶっ倒したはずじゃ?』


『ルクシア……ぐぁぁぁぁあ!俺が探してるのはそいつだ、お前じゃない……!』


 まずいぜアミーゴ、今のコイツは……何か違うぜ!


「早く逃げて……あ、アイツって……この間倒したはずじゃ!?とにかく、アイツを止めないと!」


 僕は照太君が向かった方向に見えた巨人の姿を見た後で誰もいない事を確認すると変身して彼の元へ合流した。


『がっ……あぁっ……!』


『仲間を痛めつければ少しは本気になるだろう、ルクシアァァァア!』


『やめろおおおおお!』


 僕は上空から巨人に向かって飛び蹴りを放った。けれども僕のその攻撃は寸前の所で足を掴まれ、そのまま投げ飛ばされた為に不発に終わった。


『アミーゴ、何やってるんだ……この間の戦闘の疲れは取れてないんじゃないのか?』


『そっちこそそんな状態で戦ったらだめだよ!ここは僕に変わってくれないかな……コイツの狙いは多分……僕だから』


『アミーゴ……無茶だけは絶対にするなよ!』


『分かった……取り巻きまで用意して、よっぽど僕に負けたのが悔しかったんだね、君は!』


『黙れぇ……!この傷を癒やす為だけに費やした時間……その分の恨みはここではらさせてもらうぞ、ルクシアァァア!』


『今度こそ倒してみせる……!』


 僕は左手のブレスレットから赤い光を放ってその姿を屈強なそれに変化させると真っすぐこちらへ向かってきた巨人に右ストレートをぶつけた。


『傷を癒やす中で更なる力を得た……オレに敵うかな、ルクシア!』


『僕だってこれでも人目につかない所で鍛えたりしてるんだよ!』


『人間の鍛え方でオレを超えられる訳がない……それを今ここで証明してやるよぉ!』


 僕をドロップキックで遠くへ吹き飛ばした巨人はそのまま呻き声を上げながら更に巨大化し、その姿をゲーム等に登場するようなサイにもゴリラにも見えるような異形の怪物へ変化させた。


『闇に満たしたこの地でどれだけお前が保つか試してやるよ……!』



「何て事しやがんだあの化け物……烏みたいなのは黄色い巨人が倒してくれたけど……こっちのシェルターはまだ空いてんぞ!早く逃げろ!」


『聞こえる、和也君!こっちの人達の避難は完了したよ!そっちはどう?』


「悪い……もう少しかかるかも……って、ありゃ……何か不調でも起きてんのか!?」


 東区と西区に分かれて避難誘導の手伝いをしていた和也と優人だったが、突如発生した黒い霧の影響なのか、途中で連絡が途切れてしまった。


「あっ、照太……大丈夫か!?」


「和也か……空が黒くなったのは今アミーゴが戦ってる赤い化け物の仕業だ。アイツが倒れるか立ち去るかしない限り、街のあらゆるライフラインは機能を止めちまうかもしれない……がっ!」


「あんま無茶すんな!俺から優人と光瑠には言っとくから……休め!」


「今、残ってた力で優人に合流するように伝えた……後は任せるぜ」


「サンキュー、照太……チームのエンジニアとして、英雄のダチとしてやらなきゃならない事は最後までやるぜ!」


 和也はテネブルとの突発的な戦闘で負傷した照太をシェルターへ誘導しつつ、コンパクトショットを片手に周辺の警戒へ出た。



『胸の光は尽きかけ、お前自身も立つのがやっと……姿を変えて力をかさ増しにした所で所詮お前はただの雑魚なんだよぉ!』


『ぐっ……!』


 体格から違うから当然なのは分かってるけど……ここまで力を増幅されると、もう……


『無様だなぁ……イタチごっこにすら付いて行けないなんて。1000年前からお前はやはり弱者でしかなかったんだ……よぉお!』


 テネブルと名乗りを上げた怪物はそう叫びながら赤色の太い光線を発射した。街に被害を出すまいと僕は咄嗟に光の壁を作ったけど……残ってるエネルギーの総量が少なかった事もあり、受け止めれても普通に押されてしまった。


『今度こそ消し炭にしてやろうかぁ!』


 相手は巨人から怪獣になったんだ……なら、僕だって同じ事をすればいい……いちいちこんな事をして時間を稼がなくても……!


『僕は……お前らから……皆を守ってみせる……その邪魔は……絶対にさせない!』


 僕は壁が破られる瞬間に全身を光で包み込み、その姿を西洋のドラゴンのように変化させて光線を受けた。


『馬鹿な……オレの光線は万物を焼き溶かすんだぞ……どうして生きているんだ!』


『姿を変えられるのはお前達だけじゃない!今度はこっちからも……いくよっ!』


 僕は光線を受け止めた翼を一旦畳むと、少し腰を落として構えた。

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