第7話 変幻自在、トリックonトラップ

「お疲れ様、春野君……ごめんなさいね、ノートを運ぶのを手伝わせてしまって」


「いえ、僕はただ会長の手伝いがしたかっただけなので……」


 僕は今、学級委員の仕事をしていた。レナさんの強い勧めに負けて始めたんだけど……実際仕事をしてみたら……本当に疲れた。そして今年度の生徒会役員等の紹介が終わった段階で僕は会長の三葉みつばさんの手伝いをしていた。


「春野君ってレジーナさんとはどういう関係なのかしら。今学年中の女子達の間で噂になってるわよ……2人の関係」


「べ、別にレナさんとはただ隣の席で、良く喋る位の関係だよ……だから、あまり期待するだけ無駄だと思うよ?」


「そう……ふふっ、その割には顔が赤いわね。まぁ、レジーナさんって凄く綺麗だからドギマギしちゃうのも分かるわ。あ、ノートはそこに置いてくれればいいわ。本当にありがとう」


 三葉さんはそう言うと僕に向かって小悪魔みたいな笑顔を見せるとそのまま職員室へ入っていった。


「うん、じゃあ僕はこの辺で」


「またね、春野君!」



「遅い……!」


「ごめん、ちょっと三葉さんの仕事を手伝ってたから……」


「春野君が優しい人なのは私も知ってるけど……せっかく一緒に帰るって約束したんだから、そこは守ってよね」


 怒るのも当然だよね……役員会の後は2人で近くのCDショップに寄る約束してたんだから。


「本当にごめん!今度何かご馳走するから!」


「……」


 頬を膨らませて静かに睨みを効かせてるから余計に怖いのと罪悪感が凄い……


「分かったわ……その代わり、週末私と2人で出掛けましょ。その時にまた色々ご馳走してもらうから」


「わ、分かった……」


「ふふっ、春野君は本当にいい反応するわよね。お陰で毎日退屈しずに済むのだけれど」


 レナさんは僕をからかいながら一緒に歩き始めた。


「そういえばさ……三葉さんが言ってたけど、僕ら2人の関係について色々と噂してるんだって」


「そうみたいね……私も昼休みとかに良く皆から聞かれるわ。別に私はただ友達だって思ってるだけなのに……皆すぐに恋に結び付けないで欲しいものだわ」


「あはは……でも、僕らって傍から見れば友達以上の関係に見えるのかもしれないね」


「そう言う春野君は私の事どう思ってるのかしら?」


 レナさんは何かを期待するように僕の方をじっと見つめてきた。


「えっと……僕は……もっと仲良くなりたいと思ってる。特に最近は怪獣騒ぎとかも多くあるから……」


「そう……もっと仲良くなりたいんだ……うふっ、意外な答えが聞けた気がするわ。それじゃあ、また明日」


「うん、また明日」


 妙だな……今日は朝から今までずっと怪人も怪獣も出てない。いつもならレナさんといい感じに話してる時に邪魔する感じで出てくるのに……



『クックック……拙者を倒せたなどと思っているのだろう……だが、拙者の恐ろしさはこの瞬間にも既に表れておるぞ、英雄共!』



「カップ麺生活も今日で終わりか……明日からはコンビニ弁当にしよっかな。バイトをしてるとはいえ、家賃その他引き落としでまともな食費なんて用意できるもんじゃないからなぁ……」


 と愚痴をこぼしながら最後の1つとなった味噌ラーメンを食べていると不意に左手のブレスレットが熱くなったので慌てて外を見てみた。


「な、何でゲンジが……!?呑気に食べてる場合じゃない……!」



『来るのが遅かったな、ルクシア。寂しい夜景に色を添えてやったというのにお褒めの言葉も無しか?』


 僕が変身して街の中心地に駆けつけた頃には夜景に反するように炎を上げて崩れゆく家屋だらけの光景が広がっていた。そしてその中心にはこの間照太君が倒したはずのゲンジが立っていた。


『何で生きてるんだよ!』


『拙者のカラクリが分からぬか……フフフ、それもそうだろうな。あれ程までに派手に散ってみせればお前達の目を欺くなど造作もない!』


 カラクリ……忍者……まさか!?


『あの時、分身の術みたいな事をしたんだね……ゲンジさんは』


『ほう……僅かな時間で我がカラクリの基本に至るとは……その叡智に敬意を表すると同時に我が真の姿を拝ませてやろう!変化抜刀……影迦楼羅かげかるら!』


 ゲンジはそう言って僕を嘲笑うかのように姿を変化させ、それと同時に怪しげな音色で音楽を奏で始めた。


 すると周囲に忽ち無数の落雷が発生し、何発かはまだ無事だった建物を破壊した。


『我が術、我が力……その極地はここにある!お前は拙者に肉迫しうるだけの剣の才と冷静たる頭脳を併せ持っている……ならば拙者もそれに応えるのが世の定めというものだ』


 ゲンジの奏でる旋律は落雷から爆発に変わり、今度は僕にもダメージが発生するようになった。


『フフ……まともに近づけまい……拙者の笛こそが拙者最大の武器である……拙者の手からこれを剥がせぬうちはお前に勝ち目など無い!』


 ゲンジさんの言う通り、あの笛をどうにかしない限りは例え僕が倒れなくても街がどんどん凄惨な様になっていく……!ジリ貧承知で……前に出るしかない!


『うおおおおおおお……!』


『なっ、急に何をするかと思えば……気でも狂ったか!』


 前にもう1人の僕が教えてくれた事を思い出せ!心を光に変える……それが僕の力なら、ゲンジさんが使う笛の術もイメージを経由して形にすれば……斬れるはずだ!


 僕は剣に全てを斬るというイメージを流し込みながら自分に襲いかかってくる雷やら炎やらに剣を振り下ろした。


『馬鹿な……我が術を物理的な要因で破壊するとは……!』


 斬れてる……全部じゃないけど、今の勢いを保てばゲンジさんの死角に飛び込める……!


『笑止……』


 あと一歩という所で僕の視界は突如暗転し、一気にゲンジさんから引き離されてしまった。


『森羅万象を笛で操る拙者の術を奇怪ながらも実に素晴らしい手法で破ってくれたものだから……奥の手を使わせてもらった。大人気ないが、許せ』


 視界が元に戻ったけど、僕の体は宙を舞った後に地面に叩きつけられていたらしく、痛みで立てないながらも彼の方へ目線を向けると、その先にはさっきまでいなかった紫の大蛇の姿があった。


『巧妙な罠を仕掛け、ずる賢い鼠を狩る……それこそが拙者の目指す殺しの果て。故にお前も例外無く罠に嵌めて確実の元、息の根を止めてやろう』


 前に和也君の家でゲームで遊んだ時、怪物を笛で呼ぶ行動をする敵がいた……じゃあ今僕が相手にしてるのは……1体だけじゃない!?


『状況を察して怖気づいたか……』


『確かに、少し怖いとは感じるよ……でもさ、君はさっき僕に勝つ為の手段を教えてくれたよね?』


『あぁ……確かに道は示したな。だが、それを為せる状況に置かれている訳では無いだろう?』


『そうだね……これじゃあ僕のイメージを以てしても敵いっこないのかもしれない……なら、がむしゃらでも何でも試す他に選択肢が無いって分かった今、僕はとことんそれを突き進む!』


 僕は痛む体に無理を言わせて立ち上がり、再度ゲンジさんの懐を目指して駆け出した。途中で大蛇による妨害があったけど、その大蛇も一撃で首を撥ねて前へひたすら走った。


『刃こぼれを頭に入れてないのか……!』


『君から笛を取った後で考えるよ!』


 すると、3体目の大蛇を斬り倒したタイミングで突然僕の体から青色の光が溢れ出した。

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