第5話 パッションを胸に
ルクシア……光瑠の視点が暗転した直後、それを見たテネブルは彼を掴むとスクール近くの空き地に彼を放り投げて姿を消した。
「こんなになるまで無茶して……さて、運ぶべき場所へ運ぶとするか。今はとにかく休めよ……アミーゴ」
赤色のタンクトップにハーフパンツ姿の青年は光瑠をアミーゴと呼んで片方の肩に抱えるとそのまま彼の服から落ちた生徒手帳に記されていた〈保健室〉へ一気に転移した。
「痛てて……って、どうして僕はここに?」
「春野君……!良かった……ちゃんと生きてたよ……」
「レナさん……また心配させちゃったね。あはは……うっ!」
参ったなぁ……あの巨人との戦いのダメージが自分の体にもここまで残ってるなんて。
「前に私が怪獣とか怪人を見たのは初めてじゃないって言った事、覚えてるかしら?」
「うん……僕もずっと気になってたんだ、その事について」
「私がロシアにいた頃……真っ黒な巨人が現れて……私の住んでいた街を襲ったの。お父様は幼かった私と姉と……母を守る為に慣れないながらも戦闘機を駆って……それで……」
レナさんが昔の事を話し始めると、その綺麗な瞳から次第にいくつもの涙がこぼれ出していた。
「レナさん……」
「逃げる私の近くにお父様の戦闘機が墜ちてきて……血だらけなのに……私に一言、可愛い子だなぁって言って……」
だからあの時あんなに震えてたんだね……
「ごめんなさい、あれ………何で涙が止まらないの……?」
「無理しないで……辛かったよね。僕も少しだけ思い出したんだ……1000年前に人を守れなかった事の悔しさを。次に目覚めた時は誰も悲しませないって誓った事も……思い出せたんだ」
僕は気付いたら本人の了承も得ずに勝手にレナさんを抱き寄せていた。
「え……春野君……?」
「あっ……ご、ごめん!泣いてる女の子は優しく抱いてあげるといいって友達が言ってたから、つい……」
僕は自分のしてる事が何だか恥ずかしくなったのか、慌ててレナさんから離れた。
「ふふっ……春野君って優しいのね。お陰で少しだけ落ち着いたわ……ありがとう」
「そう思って頂けたなら……幸いです」
「あははっ……急にどうしたの、春野君。もしかしてあんな事したら怒られるって思った?」
「そりゃ思うよ!だってほら……付き合ってる訳でも無いし、そもそも好きかも分からない相手からそんな事されるなんて嫌じゃない?」
「私、春野君とはもう友達だって思ってるわ……出来れば、それ以上の関係にも……なんてね。今はまだ友達でいて頂戴」
「う、うん……分かったよ」
僕はこの時ほんのり頬を赤く染めていたレナさんの本心に気付く事は出来なかった。
『野郎……光になって回復に出るとはなぁ……へへっ、そろそろ回復も終わる頃だ……今度こそぶち殺してやるぜ!』
年頃の青年と同じサイズに縮小していたテネブルはその言葉と共に再度巨大化した。
「レナさんは……来る気配も無いな。このままやられたままなんて嫌だから……僕は行くよ」
僕は保健室のベッドからゆっくり起き上がると窓を開けてそこに向かってブレスレットを突き出し、変身しながら街の方へ向かった。
『来やがったな……そろそろだと思ったぜ、ルクシア!』
『僕も何となく予想してたんだ……君はもう一度ここに来るって』
『ハッ、何処まで回復したかは知らねぇが……今度こそ息の根を止めてやるよぉ!』
互いに構えるとそのまま戦闘に突入した。僕は正直万全とは言えない状態だったからか、前回同様相手の攻撃をろくに受け止めれずに防戦一方になっていた。
『おいおい回復しきってねぇのか?なら、さっさと始末してやるから大人しくしなぁ!』
ここでやられたらまたレナさんや和也君達を心配させる……ど、どうしたら……!
(己の心を光に変えろ……!光の英雄の強さはそこにある……)
心を光に……よく分からないけどそれで何かが変わるなら……!
『さっさとくたばれぇ!』
『こっ……のおおおお!』
クロスカウンターのような勢いで反撃に出た僕は今度は赤色の光に包まれ、その姿がまた変化した。
気付けば姿が変わる頃には自分だけじゃなく相手も数歩程後ろに下がっていた。
『この期に及んで姿が変わっただと……っ!』
更に驚いた事に左手のブレスレットから生み出された武器も両手で持つような巨大な剣に変化していた。
『こんな大きさの剣が軽く感じるなんて……この力があれば……いける!』
僕は出現するなり地面に突き刺さったそれを引き抜くと、思いっ切り振り下ろした。すると激しい閃光が走って相手の巨人の体が大きく後ろに吹き飛んだ。
『何だと……たかがプロテクターと体付きが変わった位でぇ!舐めるなァァァ!』
『そー……れっ!』
刀身も前使った時より長くなっていた為、とにかく大きな動きをするだけでも相手にかなりのダメージを与えられた。
『絶対……許さねぇ……お前がオレより強いなど、認めてなるものかぁ!』
『はぁぁ……やぁぁっ!』
相手は怒りが頂点に達したのか、全力で僕の方へ走ってきた。対する僕は剣を握っている両手に力を集中させ、ギリギリまで引き付けた所で一閃した。
『ぐ……このオレに……傷が付くなど……!』
巨人は悔しさを滲ませながらも爆発の中へ消えていった。
『心を光にって……これで良かったのかな』
僕はそう呟くと変身を解除して保健室へと戻った。
「あーっ、またいなくなってたでしょ!怪我してるのに何処ほっつき歩いてたんだよ、光瑠君!」
「そうだそうだ!あの赤と青のムキムキな巨人がぶっ倒してくれたから良かったけど、あんま心配させんなよ!」
「ははっ……ごめん」
「にしても凄かったなぁ、あの巨人。自分の背丈程もある剣をあんな風に豪快に振り回したんだからな」
「あの巨人、そう考えると何だか凄く人間味があるなって思うのは僕だけかな?」
あぁもう……ちょっと油断した隙にこれだよ……!
「ちょっと貴方達、もうすぐ5限目の授業が始まる……春野君!?」
「ヤベッ、望海さんに見つかっちまった!んじゃ、改めてお大事にー!」
レナさんが背後に立った時、和也と優人はかなり慌てた様子で教室の方へと戻っていった。
「もう動いても大丈夫なの?」
「お陰様でね。でもまだ少し痛むから、程々に授業を受けるよ」
「寝たら承知しないからね」
「お、お手柔らかにお願いします……」
レナさんは凛とした表情で僕に警告したけど、少しだけ頬を上げて笑顔になっていた。
僕はそんなレナさんの後ろをゆっくり歩く形で教室へ戻るのだった。
『随分酷くやられたみたいだね』
『うるせぇ!次は絶対負けねぇ!』
「少し頭を冷やしなさい……テネブル」
未だに青白く光る傷を抑えながらテネブルは仲間達に不満をぶつけていた。
「貴方のお陰でこちらも新しい怪人を用意する事が出来たんですから。今は大人しくしてなさい」
ドゥンケルはそう言って指を鳴らし、廃墟となった施設の奥から忍者のような風貌の怪人を呼び出した。
『ドゥンケル様の命とあらば如何なる事も遂行する所存です』
「どうやらこの街には少なくとも2人の英雄がいます……こちらが本格的に復活してきている事をアピールしなさい、ゲンジ」
『御意』
ゲンジと名乗った怪人はそう言うと黒い霧になって消えた。
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