第4話 ほろ苦い敗北

『何なんだアイツ……オレらみたいに怪獣になれんのかよ!』


「確かに彼の覚醒は私達にとっては危険この上ありませんね……ですが、そろそろ貴方も暴れたい頃合でしょうし……ここは任せますよ、テネブル」


『ホントか!?どういう風の吹き回しか知らねぇが、街1つぶっ壊すつもりで大暴れしてやるよぉ!』


 テネブルはかなり嬉しそうな様子で手の骨を鳴らすのだった。



「なぁなぁ見ろよこれ!昨日の昼頃に謎の巨人が怪獣に変身して、もう片方の怪獣をボコボコにしたってよ。その怪獣は戦闘が終わった後に姿を消しちゃったらしいけど」


 朝から胃が痛いよぉ……というのも、今和也君が読み上げた文章は丸々昨日の僕の事を指しているからだ。というかなんですぐに広まってるのか凄く気になる……


「残念だったなぁ……滅茶苦茶大迫力だったんだぜ?」


「へ、へぇ……」


「何か最近やけに冷や汗多くない、光瑠君」


「そ、そうかなぁ……気のせいじゃない?」


「ちょっとそこ、そろそろ授業始まるわよ。告げ口されたくなければ早くスマホをしまう事ね」


 レナさんは今日もその透き通るような青い瞳で睨みを効かせていた。けど、僕の方を見ると一瞬だけ表情が柔らかくなる為、どうしてもこっちまでニヤリとしてしまうのだった。



「レジーナさんってホント男子を寄せ付けないオーラ出してるよね」


「ちょっと香菜かな、人聞きの悪い事言わないでよ。これでも私なりにクラスに馴染もうとしてるのよ?」


「はいはい分かってますって。それより……最近やけに春野君と一緒にいるよね。去年も同じクラスだったのに」


「なっ……そ、それ位別にいいでしょ!?だって春野君は……春野君は……あぁ、もう!もう……!」


 レナは中学以来の親友である香菜に誂われ、思わず顔を真っ赤にして叫んでしまっていた。


「春野君なら今頃屋上にいるかもよ?」


「そ、そう……」


 レナは口ではスルーするつもりでいたが、結果的に体は自然と彼がいるという屋上庭園へと向かっていた。


「あれ、レナさん……レナさんも今から昼食?」


「ま、まぁね……何だか食堂にいると落ち着かないような気がしたから……悪いかしら?」


「ううん、全然気にしてないよ。寧ろレナさんとゆっくり話せるかもと思うと少しだけ嬉しいかも」


 光瑠からのそんな何気ない一言を受けたレナはまたしても顔を赤らめて下を向いてしまった。


「そう言えば……まだ本当の名前、教えてなかったね」


「へっ……望海レナじゃ無いの?」


「レジーナ·ルキーニシュナ·望海……それが私の本当の名前よ」


「レジーナ……うん、いい名前だね」


「で、でもね……レナで構わないわ。私もその方が……な、何でもないわ!」


 さっきから異様に恥ずかしがってるな……僕ってそんなに人を動揺させられる程饒舌だったっけ……?


「あっ、あのさ……僕があの巨人とか怪獣に変身したって事、誰にも言ってないの?」


「言いたくないの……何というか、2人だけの秘密にしたいっていうか……」


 レナさんからの返しに思わず僕は赤面すると同時に心臓が跳ね上がって早く脈打ち始めた。


「レナさんがそう言うなら、僕も友達に明かすのは止めておくよ。僕としてもあまり口外したくない事のような気がするし」


「お互い秘密を共有してる事になったわね」


「ですね……」


『何処にいやがる……ルクシアァァァッ!逃げ隠れてないで出て来いよ……!』


 レナさんとの会話を楽しみながらサンドイッチを頬張ってた矢先、かなり怒ってる様子の声が聞こえてきた。本能的に分かる……これは僕に向けられた悪意だ!


「レナさんごめん、また話そ……!」


「何処に行くつもり?」


「あんまり話してる暇は無いみたい……!」


 僕は無言で屋上から飛び降りながら巨人へと変身すると声のした方角へ急いだ。



『さっき僕を呼んだのは君でいいの?』


『オレ以外に誰がいるっていうんだ?』


『どうして呼んだ……?』


『ぶっ殺す為だ……この片角と1000年間の封印の恨み……一時足りとも忘れた事はねぇぞ!』


 確かに相手をよく見てみると右側の角が根元から大きく欠けているのが分かった。


『僕に用があるだけなら……街を壊す必要は無かった筈だ!』


『こうでもしなきゃ動かないんだろ……英雄様ってのはさぁ!』


 相手の怪人はそう言うと間髪入れずに殴りかかってきた。


『ぐっ……!』


 おっ、重いっ……!これを何発も受けたらとてもじゃないけど耐えられない……!


『フハハ……痛てぇか?痛いだろうなぁ……何を隠そうこのオレはこの街の8割をぶっ壊した事があるからなぁ!お前1人捻り潰す位造作もない……だが、オレはお前を徹底的に痛めつけてから殺してぇんだ……よっ!』


 敵の攻撃を防ぐばかりだった僕だけど、とうとうその中で自分を防いでいた剣が弾かれ、その重い拳が胸部に命中し、僕は思わず膝をついてしまった。


『ガッハハハ……いいねぇいいねぇ!オレはお前のその反応が見たかったんだよぉ!』


『えっ……う、わぁぁっ!』


 僕の体が瞬間的に浮いたかと思った次の瞬間に僕は背中から地面に落とされていた。ビルを砕きながらだったのか配線のショートによる電撃もあってかなりのダメージになってしまった。


『あ……くぅ……』


 体に力が……上手く入らない……!


『昔も今も変わんねぇなぁ……誰かの為世界の為と光を求めて闇を否定するその姿勢……虫酸が走るんだよぉ!』


『がっ……』


 首を絞められるってこんなに苦しい事なんだ……ドラマとかで見るのよりも全然……


『元は凄まじい力を持っていたのに裏切りやがって……裏切る位ならその力を置いていけやぁ!』


『うぐっ……!』


 締め上げられた上で腹部に膝蹴りが入った事で僕の体は遂に限界まで来てしまった。


『そこで見てろよ……1000年前みたいにお前が守ろうとした物があっさりと綺麗サッパリにぶっ壊れていく様をなぁ!』


『やめろおおおおお!』


 僕は声にならない叫びと共に反射的にスクール方面に向けて放たれた衝撃波へと飛び込んでいった。


 僕が身を呈して庇った事もあって攻撃は全部僕に命中し、僕は程無くして倒れてしまった。


『つくづくバカな奴だなぁ……自分の命を何だと思ってるんだ?自分の身を大事にしねぇなんてホントバカだよ、お前は』



 同じ頃、スクールでは怪人·怪獣出現に伴う緊急事態宣言によって生徒達は皆体育館に避難していた。


「おい、あれ見ろよ……こないだニュースサイトに写真載ってた方の巨人が倒れてんぞ!」


「ほ、本当だ……って、あれ?そう言えば光瑠君は?」


「あーっ、いねぇ!こないだの怪獣騒ぎの時も何故かアイツ学校にいなかったな」


「ちょっと2人共、何見て……!?」


 レジーナは自分の目の前で弱々しく倒れている巨人の正体を知っている為、その光景を見て思わず言葉を失ってしまった。


「おっ、もしかして望海さんも巨人に興味あるのか?」


「別に……」


 春野君……お願い、無茶だけはしないで……



『がはぁっ……!』


『腐れ根性も良い所じゃねぇか!潰しがいがあるじゃねぇかよ!』


 僕は周りの光景が赤一色に染まり、もう立つ事も難しい状態にまで追い込まれていたけど、何としてでもスクールを守ろうと必死になっていた。


『スクールの皆に……手を出すなぁ!』


『だったら死ね……1000年続いたそのクソみたいな意地と共になぁ!』


 そう言うと相手の巨人は先程スクールに向けて放たれたものと同じ赤い衝撃波を飛ばした。


 僕はそれをまともに防ぐ事も出来ずに受けてしまい、視界が暗転して三度地面に伏してしまった。

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