第3話 明日をかけた咆哮

「最近やけに望海のぞみさんと仲いいよな、お前」


「えっ、そっ……そうかなぁ……」


「クラスで話題になってんぞ?こないだ怪人が街で大暴れした時も一緒にいたのを見たって奴がいる位なんだし」


 うっそぉ……なんでバレてるの……


「確かに望海さんって凄く綺麗な人だけど、あまり男の人と一緒にいるのを見た人なんていなかったからね」


 今日もいつもみたいに3人で仲良く喋りながら歩いていると、後ろから来たレナさんに声をかけられた。


「あっ、春野君……おはよう」


「へっ、あっ……あぁ、おはよう……ございます」


 急に出てこないでよレナさん!


「何動揺してんだよ、光瑠!」


「動揺なんかしてないって!ほら……早く行かないと遅刻するよ!」


「へいへい……」



『はぁあ、青い剣士にズタボロにされたぁ!?尻尾巻いて帰って来いなんて一っ言も言ってねぇだろこの役立たず!』


『も、申し訳御座いません……テネブル様ぁ!どうか……どうか私にもう一度機会をぉ』


『いいでしょう……ルクシアの覚醒は確かに私でも予想していませんでしたし、今回ばかりは仕方がありませんよ。ですが、次は無いと言う事は忘れないで下さいね』


『は、はい……今度こそ必ずやご期待に応えてみせましょう!』



 学校に着いた僕らは席に座るとニュースサイトを見ながらいつも通りの何気ない会話で盛り上がっていた。

 

「ところで……最近ニュースで話題になってんだけどさ。街の英雄像が4体とも消えてんだとさ」


「でも、確か去年は3体しか消えて無かったよね……なんで今年になって最後の一体も消えたんだろう………」


 とは言え昨日あんな事があったばかりで英雄像に関係する話を振られたから少しだけお腹が痛いような気がするのは……何でだろう。


「た、多分さ……英雄達が昨日みたいな騒ぎを無視出来なくなったんだよ。知らないけど!」


 やってしまった……自分で墓穴掘ってるって、今の発言は!


「あー……確かに一理あるなこれは。昨日の騒ぎも現場にいた青い剣士が鎮めたってSNSでも話題になってるし」


 それ僕です!……なんて言える訳無いじゃん!事実だけどさ!


「光瑠君……何かさっきから顔が青いような気がするけど、大丈夫?」


「う、うん……この後の授業、ノート取っといてくれる?ちょっと、保健室行ってくるよ」


 真っ赤な嘘だけど、このまま話が続いたら間違いなく何処かで僕の正体と一連の騒動に関与した事が浮き彫りになっちゃうよ!


 僕は内心でそんな悲痛の叫びを上げながらひとまず廊下へ出た。すると、屋上の方に銀髪の少女……レナさんがいた。


「Спи, младенец мой прекрасный,

Баюшки-баю.

Тихо смотрит месяц ясный

В колыбель твою.

Стану сказывать я сказки,

Песенку спою;

Ты ж дремли, закрывши глазки,

Баюшки-баю……」


 気になってレナさんの元へ来てみると、何やらよく分からない言葉だけどとにかく綺麗な声で歌っている様子が目に写った。


「あっ……き、聞いてたんですか?今の私の歌」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!すぐに教室戻るので!」


「あっ、待って……少し、私の話を聞いてくれる?」


 レナさんは少し顔を赤くしながらも僕のブレザーの裾をくいっと引っ張って引き止めた。


「それは……うん、いいよ」


「私、怪人とか怪獣を見たのって昨日が初めてじゃ無かったの……」


 確かに昨日のあの顔と震え様からしてそんな気はしてた……でも、まさか本当だったなんて……


「怖かった……よね、急に手を引いたりしてごめん!」


「謝らないで……貴方は私を助けようとしたじゃない。その傷、まだ治りきって無いんでしょ?」


「初めてじゃ無いなら……まさか、ロシアでも怪獣が出たの!?」


 僕が質問するとレナさんは静かに首を縦に振った。


「そっか……怖くて当たり前だよね。僕も……昨日見たのは初めてじゃない気がしたんだ」


「え……それ、どういう事……」


「ごめん……何となくだけど、この間の怪人が近くにいるような気がするから……行ってくるよ」


 僕は何を思ったのか屋上から勢いよく飛び降りながら


「ライジング……ルクス!」


 と叫びながらブレスレットを突き出した。


 すると僕の体は落下しながらも光に包まれ、その姿を昨日と同じ剣士に変化させた……けど、その大きさは昨日よりも少し大きく感じた。


『おや……誰かと思えば、この間私に傷を付けた剣士じゃないですか』


『この前の続きが望みなら……受けて立つ!』


 僕は左手のブレスレットから剣を取り出してその切っ先を怪人に向けた。


『私を以前と同じように倒せると……思うなあぁァァァ!』


 怪人はいきなり叫ぶと更に巨大化しながらその姿をかなり歪なザリガニの様なそれへ変化させた。


『さ、更に大きくなった……』


『この私に泥を塗った事……死んで償えぇエ!』


 怪獣はそう言うと何の躊躇も無く僕に向かってその巨大な鋏を振り下ろしてきた。何とか躱せたけど、衝撃波で結局姿勢を崩され、2発目が直撃してしまい、僕はビルに叩きつけられてしまった。


『私はムガク……死ぬ前に己を殺した者の名くらいは覚えて下さいね!』


 何とかめり込んだビルから抜け出せた僕に向かって飛んできたのは物凄い圧力のかかった水だった。


 剣を目の前で回転させて簡易的な盾にしたとはいえ、やはり完全に防ぎ切る事は出来ずにもう一度宙を舞って地面に叩きつけられてしまった。


『体格に差があるし……何より僕は戦闘慣れしてない……でも、ここで僕が負けたら街が壊される……そんなのはもう嫌だ!』


 レナさんに……二度とあんな顔させない為にも……僕が踏ん張らなきゃならないんだよ!


『相変わらず腹立たしくなる程に威勢がいいですねぇ……全くもって不愉快極まりない!』


 そう言って怪獣は2度目となる高圧の水鉄砲を飛ばしてきた。けれども僕はそれを回避せずに真正面に剣を振り下ろしてそれを左右に分断させた。


『ナッ……何だと……!?何故私の攻撃を無効化出来たんだ!?』


『物は試しって事だよ……水でも束になれば質量が発生する……なら、これを無力にするには質量をぶつけて分散させればいい……まぁ、今ので僕の剣はまともに斬れる物じゃ無くなったけどね』


『ならば……もう一度放ってくれる!』


『二度も三度も同じ手は通じないよ!』


 その時、刃こぼれした剣の鍔の部分の装飾が左右に開いて光が僕を包み込んだ。


「えっ……な、何が起きたの!?」


『お前は更なる光を手にする覚悟はあるか?』


「……ある!今のままでも戦えるかもしれない。でも、この先いつまでも相手が自分と同等とは限らないかもしれない……なら、僕はもっとその先へ進みたい!」


 迷ってなんかいられない……思い出すんだ……昨日の事を……レナさんの顔を!


『ならば、秘めし光の全てをお前に託す!使いこなしてみせろ!』


「僕なりにやってみるよ!」


 再び現実へ戻った僕はその姿がより巨大化した上、何だか背中と腰の辺りに違和感を感じるようになった。


『何だと……お前も怪獣になれる・・・・・・というのか!?』


『怪獣……僕が?』


『お前以外この場に誰がいるか!えぇい忌々しい……だが、ここで倒せばいいまでの事!』


 相手も怪獣なのに僕の事を怪獣呼ばわりするなんて……と思いながらも相手の攻撃を上手く受け止めてみた。多少掌に衝撃とそれに伴う痛みが走ったけど、何とか相殺出来たようだ。


『そー……れぇっ!』


 僕はそのまま力任せに怪獣を投げ飛ばし、相手に動けなくさせる程のダメージを与えた。


『う……グッ……何故だ……闇の力を増幅させたというのにぃっ!』


『当たれぇっ!』


 僕は体の底から湧き上がってきたエネルギーを胸部の辺りに集めると、蹌踉めきつつも起き上がった怪獣に向かってそれを放った。


『グァァァァア……!』


『か……勝った……よね』


 戦う為のエネルギーが尽きたからなのか、戦闘後の疲労がこの間の比じゃなかったのか、僕はそのまま光と共に地面に倒れ込んでしまった。

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