第2話 騒動は続くよどこまでも

『馬鹿な……何故この時代に四英雄が蘇っているんです!?』


 四英雄……何の事だよ……


『僕にも分からない……だけどこれだけは分かる。僕が今やらなきゃいけないのはお前を倒す事……ただそれだけだ!』


 なんて意気揚々と言って構えてはみたけどやっぱりまだ少しだけ怖いし、さっき攻撃を受けた部分が痛む……でも、構えたからには……やらなきゃ!


『どうやら貴方は考える事を放棄したようですね。私の攻撃を真に受けておいてその威勢を保てる事は称賛しましょう……しかし、怖さを隠してまで敵意を向けるのはただの愚行という事を身を以て教える必要がありそうですね!』


『僕が愚かだって……上等じゃないか!愚かなりに足掻くのが僕の性分だ!』


 とにかく怪人をレナさんに近づかせない為にと地面を強く蹴ってその勢いに任せて怪人を殴りつけてみた。


『ぐ……やはり力は段違いか。ですが、剣すらない貴方に私が劣るとでも!?』


 僕は怪人に迫り過ぎていた事もあってか、先端が2つに分かれた剣で斬りつけられてしまった。斬られた胸部から白い火花が散って、僕も少しだけ蹌踉めいてしまった。


『何か……何か僕にも武器とかあるはずだ……うわっ!?』


『その小娘を守るんじゃないのですか?一方的に攻撃されているとは……実に滑稽ですね』


 悔しいけど確かにこのまま一方的にやられてばっかりは敵にバカにされたって文句は言えない……!本当に何も手段が無いって訳じゃ……無いだろ!


『な、何でもいいから反撃したい……その為の力を僕に……!』


 敵からの光弾の雨が続く中、僕がそう叫ぶと再び目の前が発光して目の前に青色の刀身が目を引く剣が出現した。


『なっ……か、完全に力を取り戻したというのか!?』


『なんだ……あるじゃん。よし……改めて、反撃開始だっ!』


 僕は地面に突き刺さった剣を引き抜くと怪人の攻撃を相殺しながらも自分の攻撃を的確に当てた。


『ぐぅっ……やはり英雄ともなれば私では最早戦力に差があるか』


 たった一撃受けただけにも関わらず、怪人は黒い靄を周囲にばら撒いて姿を消してしまった。


 それに安心したからなのか、僕も三度光に包まれると膝から崩れるように倒れてしまった。


「……君、春野君!」


「こ、ここは……」


「私の家よ。あの後いきなり倒れちゃったから心配したのよ」


「そ、そっか……ん、何だこれ?」


 左手首に違和感を感じたので布団から出して見てみるとさっきまではなかったブレスレットのような物が着いていた。


「あの……さっきはありがとう。あそこで春野君が助けてくれなかったら……殺されちゃってたかも」


「あの時は僕も無我夢中だったから下手したら僕も死んでたかも……あはは……うっ!」


「無理しないで……怪我の程度は軽いけど、手当は本当に最低限しかしてないからいつ傷口が開いてもおかしくないの」


 そうだ……僕はさっき、レナさんを守る為とはいえ怪人からの攻撃を直接生身で受けたんだっけ。


「それでも手当してくれたんでしょ?なら、僕からもお礼を言わせてよ。ありがとう、レナさん」


「どういたしまして。あ、今家族とかと住んでる感じ?」


「いや、僕1人で住んでるけど?」


「そう……じゃあ、今日はこのまま私の家に泊まるといいわ。その怪我じゃまだ自力で立つ事も多分難しいはずだから」


 声音で分かる……さっきの一連の事をかなり気にして責任を取ろうとしてるんだ。ここは1つ、何か言おう……!


「ぼ、僕なら大丈……痛ててて!」


 だ、ダメだったぁ……痛くないのはあくまで動いてない時に限るから体起こせば痛くなるのは分かってただろ僕!


「じゃあ、私はお粥を作ってくるからもう少し寝てていいわよ」


 レナさんはそう言って下の階へと降りて行ったので、僕ももう一度寝る事にした。


『やっと会えたな……アミーゴ。オレはルウシア、お前と同じ四英雄の1人だ。ちなみにお前の英雄としての名前はルクシア……そして残る2人の行方は分からないんだ』


「そ、そうなんですか……早く見つかるといいですね」


『更に言うとフォールンっていう闇の軍勢も目を覚まして活動を始めてるんだ。奴らに対抗する為にもお前にも頑張ってもらいたいんだ……協力してくれるよな、アミーゴ』


「勿論、そのつもりで僕もこの力に手を伸ばしたんだ。僕の知らない所で怪しい動きがあるなら、迷わず突っ込んで解決に努めるよ!」


『流石、1000年来のアミーゴだぜ……』


 そう言うと目の前に現れた黄色い鎧の戦士は嬉しそうな様子のまま消えていった。


「よく寝てたね……起こすのも勿体ないくらいだったけど、お粥冷めちゃうから突っついちゃったわ」


 夢から覚めて目を開けてみるとお粥の載ったお盆を片手に僕を確かに突っつこうとしていたレナさんの姿があった。


「あ、ありがとう……って、え!?」


「あーん……ほら、無理に動いたらまたさっきみたいになるでしょ?」


 僕はこの時自分でもよく分からない位にドキドキしていた。けど、とりあえずお腹は空いていたので差し出されたスプーンに口をつけた。


「どう?私普段あまり料理とか作らないから味に自信無いんだけど……」


「うん、美味しいよ。それに、さっき少し寝たお陰かだいぶ楽になってきたよ」


「そっか……明日は学校行けそう?」


「うん、一晩休めば大丈夫そうだよ」


「そっか……あ、もう食べちゃったね。春野君には悪いけど私は風呂に入った後は自分の部屋で寝るから、そこは了承してね。制服は枕元に置いておくから」


 確かに枕元には僕の制服が置いてあった。という事は……今更だけど今の僕ってもしかしなくてもレナさんの家の服を着てるって事!?


 そうだと分かった途端に何故だか凄く心臓がドキドキしてきた……しかもさっきレナさんに食べさせてもらった時よりも心拍数が明らかに上がってる!


 こ、これじゃあ寝れないよ……!


 なんて思っていた僕だけど、慣れない戦闘に加えて布団の気持ちよさが招いた眠気に負けてあっさりと寝るのだった。

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