セイシュンフロンティア!

よなが月

第1話 桜ははじまりの合図

 夢を見た。数えるのも忘れてしまう程に繰り返し見続けている……悪夢と言い切れない複雑な夢を。


「何でこんな夢ばっかり見るんだろう……まぁ、気にするだけ体に毒だよね」


 僕、春野はるの光瑠ひかるは今年で高校3年生になる、何処にでも居そうな青年だ。


 スクールは今の所留年無く進級出来たから、いよいよ今年は来年に向けて本格的に決めていく事になるんだろうな……


 僕は内心で少しだけ悩みながら今日もフランスパンを片手に一人で暮らしているアパートを出た。


「あーっ、光瑠君ってばまたながら登校してる!?」


「いやぁ……寝坊しちゃってさ。今から朝食食べてからだととてもじゃないけど間に合わないって思ったから……」


「全く……君のおっちょこちょいな部分は結局3年間そのまま変わらなさそうだね。それより和也かずや君は?」


「ごめん、今はまだ見てないよ。でも、家出る前にメール見たらもうこっちに向かってるっぽいよ?」


 和也君だったり今横を歩いている優人ゆうと君とは高校生活が始まってから出来た友達で、こうしてよく一緒に登校していた。


 しばらく優人君と通学路を歩いていると、後ろからこちらに向かって誰かが走ってきた。


「ひ、ひどいぞお前ら!俺を置いてくなんて……」


 よっぽど急いで来たからなのか、和也君は顔にたくさんの汗を浮かべて息を切らしていた。


「ったく……んな事より、もう3年生かぁ。そろそろマジで進路決めないといけないよな」


「って言ってるわりには結構色んな工業大学の見学会に参加してたよね、和也君って」


「まぁな……これも全部お前ら2人が影で俺に勉強教えてくれたお陰だよ。で、結局2人はどうすんの?」


「僕は音楽関係の学校に進みたいかな」


「僕はまだまだ考え中だよ。でもどちらかと言うと進学かも」


 そう、僕ら3人は同級生達の中ではどちらかというと優等生寄りだからか、去年の夏から少しずつ周辺の大学の見学や体験会に参加していた。


「おっ、見ろよ!桜だぜ、桜!こうして見るのは3年目だけど、この3人で見る桜はやっぱり特別感たまんないぜ!」


「そうだね!」


「う、うん……」


(思い出せ……お前には倒すべき相手がいる……!)


 僕らがこれまでみたいに校門を潜った時、僕の脳内にだけ不意に僕と似たような声が聞こえた。



『つまんねぇ……つまらなさ過ぎるんだよぉ!』


 廃ビルの屋上にいる四人組のうち黒字に赤をあしらったボロボロのロングコート姿の怪人はそんな風に不満を爆発させた。


「落ち着きなさい、テネブル……まだ彼らは目覚めていない・・・・・・・んですから」


『うるせぇ!1日でも早くオレは世界を闇に染め上げたいんだよ!その為にはフォールズを山程生み出さなきゃならねぇのはお前も分かってんだろ、ドゥンケル!』


「そうですね……昨晩作った個体にスクールを襲わせるとしましょうか。ムガク……」


『ハッ、こちらに』


 眼鏡をかけた優男のような雰囲気の青年はテネブルに急かされながらも自身が生み出した怪人を呼び出した。


「早速貴方に仕事を与えようと思いましてね。我々の挨拶も兼ねてフロンティアスクール周辺地区で騒ぎを起こしなさい」


『分かりました……必ずやドゥンケル様のご期待に添えるよう尽力します!』


 ムガクはドゥンケルからの指示を聞くとすぐに姿を消した。



「という事で明日から本格的に授業が始まるのでくれぐれも居眠りしないように。それでは本日は以上となります」


「春野君、少しいいかしら?」


「はい?」


 僕は始業式やら新しいクラス発表やらの後すぐに銀髪のストレートヘアの少女に呼び止められたのでそちらへと向かった。


「私はレナ、貴方も見て分かると思うけど私はロシア人とのハーフよ」


「名前はさっきも聞いたんですけど……何で僕なんですか?」


「簡単な話……貴方が隣の席だったから、次の席替えまでに仲良くなっておこうと思っただけよ」


「そっか……じゃあ、何処でも付き合うよ。僕もこの最後の1年でなるべく友達は増やしたかった所だから」


「ありがとう……行きましょう、日が暮れちゃう前にね」


 レナさんに連れられて街中を歩いている時も今朝聞いた声で何回か同じような言葉が脳に響き続けた。


「んー……この店、一度来てみたかったの」


「奇遇だね……実は僕もこの店は来てみたかったんだ。この辺で大きめのパフェが食べられる店って知ってる限りでもここしか無いからさ」


「意外と春野君って甘党だったりするの?」


「確かに甘い物は好きだけど……甘党かと言われると、そこまではって感じかな」


 2人でしばらくパフェを堪能していると、突然近くのビルが轟音と共に崩れだしているのが目に映り込んできた。


 流石に気付いたのは僕だけという訳でもなく、次第に店内にいた客の何人かは外に出てその様子をざわつきながらも見ていた。


「春野君……どうしたの?」


「何か……よくない気配がする。何というか……化け物みたいな……こっちに来る!?」


 僕は何故か脳内に延々と再生され続ける炎に包まれた街の光景に恐れをなしたのか、気配のする方へ一歩だけ進むと同時にそこをじっと睨みつけた。


『おや……人間なのに闇の気を認知出来る輩がこんな所にいるとはな。これは危険因子故、早急に退場願おうか!』


 僕の睨みに気付いたのか、面影をほとんど残していないビルから黒い靄を漂わせて不気味な怪人が姿を現した。


「ひっ……って、レナさん……!?」


 ふとレナさんの方を見てみると、膝から崩れ落ちて今にも泣き出しそうになっていた。そればかりか、目を見開いて凄く震えていた。


「……走るよ」


 僕は何を思ったのか、震えているレナさんをそっと手を引いて立ち上がらせるとそのまま走った。


『おやおや……私に背を向けてもいいのですか?いつ切られてもおかしくないというのにねぇ!』


 僕は咄嗟にレナさんを軽く突き飛ばした拍子に後ろから飛んできた光の刃をもろに受けて吹き飛ばされてしまった。


「春野君!?」


 痛い……何だか体が冷えてきてる……あれ、意識がっ……


(屈するのか……まだお前は何も守れて無いだろう?)


 分かってるよ……分かってるんだよ……でも、もう……


(諦めるのか……?尽きかける命を、時の流れに晒してもいいのか?)


『さて……そちらで怯えている君も、すぐ彼の元に行かせて差し上げま』


「やめろおおおおおお!」


 僕は薄れかけた意識を気合で現実へ戻して起き上がると、怪人に飛びかかった。すると僕の体が唐突に光に包まれ、見知らぬ空間へ放り出された。


『やっと会えたな……もう一人のヒカルよ』


「だ、誰……!?それに、君も僕って……え!?」


『お前に覚えはないかもしれんが、遠い昔俺達は1つの存在だった。こうして再会できた今、俺達はもう一度1つになって闇に対抗せねばならん……やれるな?』


「やるよ……レナさんを助けないと!」


 僕が決意を固めた途端、目の前に現れた光りに包まれた剣士みたいな人は僕の体の中に入り込んで姿を消した。


 そして再び現実へと戻った僕の姿もまた先程出会った剣士と同じような姿になっていて、勢いそのままに怪人ごと地面を転がった。

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