第4話 コミュ障ブサイクの悪目立ち
「どう見ました?団長。ロイ・マクエルは。」
「キモい男・・・だな。ブサイクだわ、私の足をねっとりと凝視するわ、気持ち悪いことこの上ない。」
近衛師団事務所では鮮あざやかな金髪をかき払いながら、ルーズリッターは心底呆れた口ぶりで問われた男性にそう答えていた。
「100%主観な感想じゃないですか・・・。私も隠し部屋から見てたのでブサイクはわかりましたよ。直に接してみて、近衛騎士としての素養みたいなものはどうでしたか?」
事務所内で話し込んでいる女性はオズワルド・フィン・ルーズリッター、近衛師団長にして近衛騎士団長も務める女傑。階級は少将。
男性の方は《メルビン・ボリス・ジョンソン 近衛師団参謀長》。今しがた訪れていた少年を観察するため隠し部屋に潜んでいた。階級は大佐。
「まあ個人的な考えを言わせて貰うと、素養よりも皇女様の近習となる近衛騎士が男性など論外とは思っている。」
《近習 王族の側近。近衛師団内での実力者と国内外から招喚されたエリートで構成されている。》
「・・・あからさまな王族批判なら止めて下さいよ?ロイ・マクエルはあのエリザヴェータ様直々に招喚したんです。誰が何処で聞いているかわかりませんから。」
「そうだな。気をつけよう。だがまあ、アレは近衛騎士の候補からは脱落するな。アイツの宿舎はエリザヴェータ皇女様の近衛騎士候補生の宿舎だ。女しかいない。つまり飛び抜けた実力があったとしても同僚の候補生が絶対に認めんだろうさ。」
エグルストン皇国の現皇王(男)に仕える近衛騎士100名は全て男性、エリーナ第一皇女に仕える近衛騎士20名も全て女性だ。それらの近衛騎士は近衛師団の中から近習として優秀な団員が任命されている。
近衛騎士団は戦時に編成される。仕える王族の側から離れず護衛にあたるため、近衛騎士団員は仕える王族と同じ性別が選ばれるのが常だ。
王族が戦に参戦する場合、冷静に戦局を判断する必要がある。仮に男女の情事などが起きるようであれば亡国に繋がるからである。
「エリザヴェータ様ならばこうなる事(男ボッチ状態)を予見出来なかったんでしょうか?巷の《傍若無人の皇女》評はどうあれ、私が見るに思慮深い御方です。ゆえに何か考えあっての近衛騎士団への男性招喚だとは思いますよ。」
「・・・しかし
机を指でカツカツと叩きながらだんだんとグチめいた話にメルビンはため息をつく。団長たるものおかしな嫉妬など起こさずに正当に少年を評価して欲しいところだ。
エリザヴェータ様は幼い頃から英邁であられた。僅か8歳にして高等教育を終えられるとエグルストン帝王学、経済経営学、国家関係学、薬学、海洋商船学、農耕学、戦史研究学など数多の学問を修めて、各地を遊学なされている。
近年では近衛師団の訓練にも参加され、来たるべき乱世にも備えておられる。
時折見せる癇癪めいた言動が人前であることが多く、傍若無人と揶揄されるが近衛師団内ではエリザヴェータ様を次代の王などと捉えている者もいる。ルーズリッター団長もその一人だとメルビンは感じていた。
「・・・僕は面白いと思いましたよ。団長の本気の殺気を当てられて平然としていましたよね。戦も知らない16歳の少年とはおもえませんでした。」
「気に入らん。むしろ殺気の真っ只中こそ、戦場こそが自分の居場所であるかの様な落ち着き方だった。・・・アイツあの時だけ噛まずにスラスラ話していたろう?目も爛々らんらんとしていた。得体が知れん。エリザヴェータ様には近づけたくはないな・・・。」
戦を語ると饒舌だ。ルーズリッター団長は10代の頃から戦場に出ている。戦場が、戦いが、この人の青春時代だったのかもしれない。代わりに戦場以外ではいつもは飄々としていて軍の幹部会議でも皇王がお見えになる御前会議でものらりくらりと話をする掴み所がない人だ。
そんな団長が一近衛兵を取り上げて熱く語る姿は・・・・嫉妬などでなく?・・・いや、まさか。あり得ない想像だ。
メルビンは浮かんだ考えを一笑に伏した、
《コンコンコンコン》
「師団長、緊急の連絡があります。入室よろしいですか?」
「許可する。入りたまえ。」
大隊長のハンセンが少し慌てた様子で入室してきた。息を切らしているところ見るに走ってきたようだ。この大隊長は淡々と任務にあたる男である、なにか想定外の事態が発生したのか?メルビンは真剣に傾聴しようとハンセン大隊長に場所を譲った。
《ドリス・ハンセン 近衛師団大隊長》平民の出自ながら落ち着いた指揮をとるので部下からの信頼が厚く、長く大隊長を務める古株である。
「どうしたのだおやっさん。珍しく慌てているな?夜が弱くて奥さんに逃げられたか?」
「セクハラじみた冗談を言っている場合ではないぞ!今しがた近衛候補生宿舎から連続子女暴行魔が出たと報告が入った。現在はリンダ寮長が取り押さえたらしいが3名の候補生と3匹の軍狼がそいつに被害を受けたらしい。」
団長のいつもの軽口を全く無視するとハンセン大隊長は机に身を乗りだしながら状況を素早く説明した。
「ほほう。あろう事か軍宿舎で3名もの子女を辱はずかしめたか。それは大事だな。犯人は刺殺刑かな?ハンセン?」
「本当に笑い事ではないのだぞ?軍としては前代未聞の不祥事だ。しかも辱めた子女の一人が《ラームット卿》のご息女だとのことだ。」
確かにハンセン大隊長が慌てる事態のようだ。前代未聞の事件の上、ラームット卿は国の重鎮だ。その息女が被害者とあらば隠蔽工作は不可能だ。軍を揺るがす一大事に発展するかも知れない。軍上層部の何人か首が飛ぶようなことも・・・・。メルビンは血の気が引いた。
「クックックックックックッアッハッハッハッハッハッ・・・いや、し、失礼しかしクックックックッ」
「おい!いい加減にしろ!ふざけているのか?」
笑いを堪えきれないルーズリッター団長にハンセン大隊長が怒気を含ませながら告げた。
当然だ。笑って居られる事態ではない。メルビンも少し怒りが込み上げてきた。
「笑ってすまない、暴行魔はプププッ・・さっきココに来ていた《ロイ・マクエル》だ。心配はいらん。エリザヴェータ様とラームットのじさまの腹芸さね、事件にはならんよ。しかし酷い役回りをやらされたな、アイツは。気持ちの悪いブサイクにはハマり役だがたまったものではない・・・クックッ」
「・・・・・?」「・・・・・?」
口角を大きく吊り上げ笑う団長の前で軍の参謀長と大隊長の二人があろう事か事態がのみ込めず、口を開けてポカーンとしてしまうのであった。
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