第5話 エグルストンの黒鬼VSキモヲタ
「悪いようにはしない、そのカバンをコチラに渡せロイ。しっかり説明すればいいだけだ。」
「し、信用できまれ、ません。その目は僕を連続レ○プ犯に仕立て上げる目ら!カバンを渡すひちゅ、必要ない!断固こうび、抗議しましゅ!」
候補生宿舎では寮長を務める《カムラン・リンダ》と近衛候補生 《ロイ・マクエル》の睨み合いが続いていた。
その側そばでは赤髪の少女 《ラームット・アロエ・クラリネ》と2人の少女達が手負いとなった3匹の狼を抱くようにブサイク男ロイ・マクエルを睨みつけている。
カムラン・リンダはケガのため女性兵士寮の寮長を一時的に務めてはいるが元々は戦地において20kgはある金棒を振り回し、《エグルストンの黒鬼》と敵兵に怖れられる女傑である。
だが今、傍目はためには品のある美女がパンツ一丁でカバンを抱える変態男から少女達を守っているように見える。いや、そうとしか見えない。
寮長のリンダが騒ぎの部屋に入った時にはすでに軍狼3頭が大きくダメージを受けて無力化されていた。そして頑かたくなにロイはカバンを離そうとしない。思いの外、誤算が多い。リンダは内心舌打ちしていた。
「リンダ様!いえ黒鬼様!その強姦魔をここで消してください!私たちのクラリネ様を毒牙に・・・まだ心のキズも癒えておられないのに・・・うう。もっとも惨たらしいやり方を願いますっ!」「ちょっ、ちょっと止めて!もうあの事は大丈夫だから」「ダメ。あいつはクラリネを辱めた。万死に、億死に値する。」「二人とも、私は清い体・・・・・多分。」
なにやら囂しいがこの少年は傷付けずに説得して、エリザヴェータ様の元に連れて行く手筈になっている。だが・・・・・。一筋縄ではいかないかも知れない。
『エグルストンの黒鬼』などと女性として残念な二つ名を付けられてはいるが何も考えないで戦場で得物を振るっているわけではない。
相手の力量ぐらいなら位置のとり方、視線、足運びなどでおおよそ検討はつく。・・・・・この子は油断ならない。
「気をつけて下さい、リンダ寮長。その変態何かおかしいです。リンカが、軍狼が噛み付いても平気な感じです!」
赤髪の少女クラリネが叫んだ。何か少しでも情報を伝えようとしている。軍狼を無力化した手並みを見られなかったのが痛い。・・・知らぬ間に力を計っているのか。リンダは苦笑した。
玄関で彼と別れ手筈通り・・・・にハンセン大隊長に連絡を取り、この部屋に来るまでにおよそ5分強。まだ未熟な若い軍狼とはいえ一方的にやられている。自分なら無傷で軍狼3頭を無力化出来るか?無理だ。必ず手傷を負うはずだ。だがこの少年はそれをやってのけていた。・・・・何故かパンイチだが。
自然とリンダの全身に血が巡り始める。ここは戦場でもないのに抑えられない。いや、話し合いは決裂。事態は妙案なく膠着状態。そして目の前の相手は腕っこきの猛者。戦場と何が違う?
「ぼ、僕はなにゅ、何もしてません!リュンダ寮長!は、裸なのはそこの狼に破られたんです!それとこのカバンはれった、絶対わたれません!」
ロイ・マクエルは噛み噛みながらも潔白の主張を繰り返した。このままでは犯罪者一直線だ。あとカバンは関係ないので渡さない。
例えリンダ寮長が僕にデレてきたとしても、ロイラブリン♡になったとしてもこのカバンは絶対に渡せない。決して知られてはならない。このカバンの中にはアレが、《世界の美少女“100選“大年鑑》が入っている!これを女性が見れば徹底的に弾圧に乗り出すはずだとじいちゃんが言っていた。これが公の場に晒されるのだけは許されない。
「き、きっとそのカバンには女性をもて遊ぶ鬼畜な玩具が入っているに違いありません!そ、それで私たち、いや、私にあれやこれや、い、いや〜〜〜!」「私は負けない。クラリネの為ならどんな恥ずかしい事にも耐える」「だから二人とも落ち着いて!まだなにもされてないから!」少女たちは口くちさがない。
鬼畜な玩具ってなんぞ?あの子たちさっきから妄想が激しくない?妄想だけで子供出来たとか言って親の実家に連れて行かれて紹介とかされちゃうレベル?やだまだ自由がいい。いやいやそうじゃない。ロイは頭を振って切り替える。
このカバンの中の本、年鑑にはじいちゃんや僕の夢がたくさん詰まっている《美少女達の3サイズやセクシィなイメージイラスト、@非処女予想etc》、この年鑑を毎年心待ちにしている同志もいる。死守だ。
『ドン!』
イスが凄い勢いで飛んできた!と同時にリンダ寮長もこちらに飛び込んで来る!
蹴り飛ばしたイスに気を取られている間に僕を取り抑える。悪くない奇襲だ。なら、
「スッ」『ガツッ!』
イスが体にぶち当たるが僕はリンダ寮長が飛び込んで来るより少し早く前に踏み出しだすとリンダさんの右拳を避け、顔を右手で掴んで勢いを止めた、
「クイッ」『ズダンッ!』
左手で脛裏を払い転倒させる。
「説明を聞く気がないならもういいです。僕はこのまま退団しますので。さようなら、リンダさん」
「うっぐぅ・・・」
転倒させたリンダさんを押さえつけた右手に力を込める。“女性にはソフトタッチ“というじいちゃんの教えには反するが背に腹は代えられない。
勿論退団もブラフだ。このまま逃げたら「連続レイプ魔脱走兵」だ。「見習い兵のヘタレ逃げ」とはわけが違う。社会復帰は奈落の底に落ちて拾えなくなる。
「止めてぇーーー!!!」
凄まじい大声だ!さすがに手が止まった。声を出したのは赤い髪の女の子、クラリネだっけ?
ん?改めて見るとこの娘どこかでみたような・・・
「!!」
そうだよ!この娘“世界美少女100選大年鑑”
の最新号に掲載されてる女の子だ!髪短くしたんだ〜、気が付かなかった。それにしてもスゲー僕!今日だけでエリザヴェータ様、ルーズリッター団長、そしてこの娘。3人から顔名前認知!もうこれ繋がり厨も真っ青じゃね!やっば!テンション爆上げ!ブヒィィー・・・。ま、まあ残念ながらキモい変態男としてだろうけど。
・・・・それって駄目じゃね?
「リンダ様は私の恩人なの。酷いことは止めて・・・悪いのは私だから、ごめんなさい。うっうう・・・」
くぅ・・・なんてすごい破壊力だ、美少女の涙。じいちゃんが言ってた。女の涙は何より価値があるって。「キャッキャッウフフ」なターンに入るスタートだって。どうしよう?なんて言おう「友達から始めませんか?」告白か!「なんでも言う事を聞け」一番駄目やつだ。コミュ障ヲタ脳には良い言葉が浮かばない。
「うおおおっ!」『ブワッ』
顔を右手で抑えられたリンダさんが僕の右腕を両手で掴つかむとそれを起点に身体を起こし、両足で顔をハサミにきた。
「よっと」「!?」
密着されると厄介なので僕はリンダさんの顔から手を離すと右腕を一気に引き抜いた。
『ブゥン、ガッ』「ふん」
起点を失ってバランスを崩して倒れ込むリンダさんを後ろに回って羽交い締めにする。しょうがない説得しないと。
「話の途中ですリンダさん。大人しくしていて下さい。そんなに怒っていては綺麗な顔が台無しです。本気で殺す気なんてありませんから。」
「侮るなよぉ!小僧っ!」
リンダさんの身体がにわかに熱くなる。羽交い締めにされたままでやすやすと立ち上がるとそのまま後ろの壁に飛んだ!壁と自分とで僕を圧殺する気のようだ。
『バキャ!バキバキバキバキ』
リンダさんが僕ごと壁に突っ込むとそのままめり込んでいく。そこで少し力が緩んだ。優しい人だ。本気で殺す気なら息の根を止めるまで力を緩めたりはしない。なら僕も答えないとな。
『バンッ!』
僕は羽交い締めの腕を離すと両足でリンダさんを壁の中から蹴り飛ばす。(痛くないようおしりを蹴った)リンダさんがたたらを踏みながらも驚いた顔で振り返った。「何故動ける?」といったところだろう。
まあ子供の頃なら泡を吹いて気絶してるだろうけどね。
『ガツッ!』
僕はリンダさんの懐ふところに一気に飛び込むと、顎に向けて平手打ちを叩き込んだ。
リンダさんは全身を脱力させ垂直に落下する、、ところを左腕で抱き止めた。よし!上手くいった。
「リンダさん強いんですね。こんなに長い時間戦ったのは久しぶりです。身体が熱くなりました。また別の機会に手合わせお願いします。」耳元に近づいてそっと呟いた。すると力がスッと抜けた。良かった、落ち着いて話を聞いてくれそうだ。
「わかった。私はどうなってもいい、あの子達に非はないんだ許してやってくれ。エリザヴェータ様や団長には私から上手く伝える。」
「やっぱり優しい人だ、自分より他人の心配ですか。手、ケガしてますよ」
「つっ!」
足元が覚束ないので腰を抱きとめつつ僕はリンダさんの左手をとった。キレイな手だ。節くれだったゴツい手なのは槍や棒を使うからかな?でもしっかりケアされている。それと。
「よっと」「キャ」
この人は左脇腹を痛めている。古傷だと思うけど今のじゃれ合いで痛みがぶり返したのなら責任は僕にもある。僕はリンダさんをいわゆる《お姫様抱っこ》にして抱き上げた。
「・・・大丈夫。左手は骨が折れたりはしてないようです。キレイな手なんですから、早く治療して下さい。あと左脇腹が気になるんでこのまま抱えて医務室まで行きます」
・・あれ?リンダさん赤くなって俯いちゃったな。何かマズかったのかな?親切心からやってるつもりなんだけどって、・・・僕パンイチじゃん。そりゃ赤くもなるわ。
「ぐぎゅう!あの鬼畜!身動きとれないのをいい事にベッドで、私達の目の前でリンダ寮長を嬲り尽くすつもりだわっ!」「次は私達二人。覚悟はできてる」「止めて、止めて下さい・・・」
あの3人のエロい誤解が収まらない。いったいなんなの?欲求不満かなんかなの?それともブサイクでパンイチな見た目のせいなの?・・・ちょっとぐらいは格好つけさせ、まあパンイチだと駄目か。
「ちょっとなにあれ?変質者?」「!リンダ寮長をむ、むりやり・・・」「奥の3人はもう・・・非道い。」「気持ち悪い。何あの男?パンイチじゃない・・・」「早く大隊に連絡を」「連続レ○プ魔・・・」
騒ぎを聞きつけてかギャラリーが大勢ドアから覗きこみ始めだした。もはやまるく収められる状況ではないな。エリザヴェータ様にもこの騒動の話がいくはずだし最低限の要求だけ飲んで貰おう。
「カバンは渡せませんが、みんなを解放してエリザヴェータ様のところに出頭する。それでこの場を収めませんか?リンダさん。」
「・・・・よ、要求はそれだけか?お前は勝者だ。この身体を好きにしても・・・か、構わんのだぞ?」
なんで頬が少し赤いの?乙女っぽい顔付きにドキッとするんだか、この衆人監視の中でいったいナニをしろというの?僕はキモヲタですが鬼畜犯罪者ではないんですよ。
「いえ、要求はそれだけです。リンダさん」
「・・・そのカバンの中身は爆発物や兇器などではないんだな?」
「当たり前です。着替えと本とあと、僕の宝物が入っているだけです」
「わかった。カバンの所持は認めよう。まずは事の顛末を師団事務所に説明しに行こう。ロイ。」
「あとそこの3人。念の為だ、女性医療機関で色々と検査して貰うように。以上だ」
リンダさんなんでワザワザ大声で3人に言うの?僕は何もしてませんよ?衆人監視の女の子達もザワついてるし。これじゃ戻って来てもなんて噂されてるかわかったもんじゃないや。
それによく考えると僕パンイチじゃん。このままこれで師団事務所行くの?露出魔じゃん。まあ、今更か。酷い噂のひとつやふたつ、みっつやよっつ、いやいつつやむっつ、絶望した。
すぐ近く美女がいて、いい匂いがする。もう今日はそれだけが救いだと思った。・・・・これキモくないよね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます