第2話 宇宙の帝王いらっしゃ~い(3)

 ポニコとエマはカオス星人に案内されて、聖堂の奥へと進んでいきます。カオス星人は全宇宙を支配する生命体です。人型で青い瞳、耳はとんがり、肌は真っ白です。その体格は性別問わず屈強で、彼らのパンチ一発で並の生き物はぺしゃんこです。脳も格段に発達していて、テクノロジーの面でも他の生命体の追随を許しません。まさに宇宙最強のカオス星人ですが、それを束ねる人物こそが、ポニコたちがこれから会う、バンジャル・ドル・ガッハ・デン・カオス・ギリュネレート・ホルフスタリン・デイン・カフ・ハイル、そう、宇宙の帝王なのです。


 まず二人はたくさんの機械が並ぶ部屋に通されました。そこでは厳重な身体検査がおこなわれます。よくわかわらないまま、ポニコたちは機械に体を通されました。機械が体をスキャンすれば、二人の健康状態は丸裸です。モニターに体重が表示され、エマはちょっぴり恥ずかしいのでした。


 次に二人はシャワー室に通されました。体を洗え、と。


「帝王様は大変な綺麗好きでございます。隅々まで洗ってくださいませ」


 そういうこった。


 それがおわると、二人は地下の格納庫に案内されました。中に入ったとき、二人は目を丸くしました。その格納庫はハッピー聖堂の敷地を上回るほど広かったのです。が、二人が驚いたのはそこではありません。それは、そんな格納庫をほとんど埋め尽くしてしまうほどの、大きな大きな宇宙船でした。白く光る機体、無数の砲台、まちがいありません。これこそ、宇宙の帝王の宇宙船でした。


「帝王様がお待ちです。どうぞこちらへ」


 先を歩くカオス星人を、二人は慌てて追いかけます。格納庫の中は制服をまとったカオス星人によって、厳重な警備が敷かれていました。ブルさんたちとはちがって、カオス星人は誰一人としてベビーシューを食べたりなんかしません。ポニコとエマは不必要なまでに警戒の目を向けられて、あまり居心地がいいとはいえませんでした。びくびくしながらも、いよいよ二人は宇宙船の中へと入ります。


 いわずもがな、宇宙船は広大です。三人は宇宙船の長い廊下をカツンカツンとわたりますが、あまりに先が見えないことから、それはどこまでも続いているようにも思われました。船内にはいくつもの扉があって、ひとたび案内役のカオス星人を見失ってしまえば、もう二度と帰ってこられないのではないかとポニコは不安に襲われました。廊下を歩き、扉を五つ開けて、廊下を歩き、階段を上り、また廊下を歩き、七つの扉を開けて、おまけに廊下を歩いたところで、カオス星人はようやく足を止めました。


「こちらが帝王様の部屋になります。どうぞお入りください」


 カオス星人は深々と頭を下げました。まぎれもない直角九十度でした。


「すっごい……」


 ポニコとエマは目の前の扉を見上げました。これまで見かけたどの扉よりも豪勢な装飾が施されていて、なによりも、あまりに大きいのです。ポニコが十人に分身して、全員で肩車をしても届きそうにないほど大きかったのです。エマでも同じです。

ポニコとエマが扉の前に立つと、それは自然に開きました。鉄のこすれる音とともに、扉はゆっくりとせり上がり、帝王の部屋が二人の視界に広がりました。それから、恐る恐る歩を進めました。


「ようこそ、我が宇宙船へ」


 部屋の奥から低い声が届きました。帝王です。


 宇宙の帝王は玉座から立ち上がると、その前にある階段をゆっくりと下りてきました。宇宙の帝王を生で見るのは初めてのことで、二人は返事をするのも忘れてしまいました。ただでさえ巨体なカオス星人よりもさらに一回り大きく、白いひげが腰のあたりまで伸びていて仙人様のようです。が、ポニコとエマをなによりも圧倒したのがその風格です。これまで味わったことのない威圧が二人を襲ったのです。体がびりびりと痺れるような、そんな感覚。それは、白玉テロリストの比ではありません。


「ふむ、今年は子どもか」


 帝王は腰を大きく曲げて、二人の顔をそれぞれ覗きこみました。青い目玉をぎょろぎょろさせて。


「ウサギは一昨年にもきていたな。どうも運が強いらしい。しかし」


 帝王はポニコに目を向けました。


「貴君は、ニンゲンか? 珍しいな」


「あ、はい、そうです。えっと、絶滅危惧種の……」


 ポニコがしどろもどろに答えると、帝王は少し考えて、ニッコリ微笑みかけました。


「よくぞきてくれた。歓迎しよう」


 帝王は二人の手をそっと取りました。


「貴君らは選ばれたのだ。遠慮するでない。思う存分、楽しめばよいのだ」


 帝王の手が二人の手をあたたかく包みこみました。ポニコとエマは帝王の顔を見つめました。もう、さっきの威圧的な気配は感じられません。代わりにあるのは、母親に抱きしめられているようなあたたかさ。全宇宙を支配しているとは思えないおだやかな表情は、ポニコとエマの緊張をすっかり吹き飛ばしてしまいました。


「私が案内しよう、ついてきなさい」


 三人は手をつないだまま、帝王の部屋をあとにしました。

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