第2話 宇宙の帝王いらっしゃ~い(4)

 ポニコとエマにとって、宇宙船はまさに異世界でした。


 巨大なタンクやポンプが並んだ機関室、


「ここは第二機関室だ。これだけ大きい宇宙船となれば、機関室の数も多くなるさ」


 多様な戦闘機を完備した格納庫、


「どれもが超高性能な代物だ。貴君らが操縦しても、ちっぽけな星の一つや二つ簡単に壊せるだろう」


 三つ星ホテルとでも呼ぶべき豪華な居住施設、


「ここは我々の職場でもあり、住まいでもあるからな。ならば、金をかけない手がないのだよ」


 そして、司令室。無数のコンピューターが並び、たくさんのオペレーターが忙しなく働いています。前方には巨大な窓ガラスがあり、そこから見る宇宙の景色は、きっと壮大なことでしょう。


「我が宇宙船の顔とでもいうべきか。主砲もここから発射できる。どれ、ためしにこの星を吹っ飛ばしてみせようか。なに、ジョークさ」


 もうなにに驚けばいいのか、ポニコもエマもわかっていませんでした。が、二人はそばに宇宙の帝王がいることも忘れて、ただただテンションをブチ上げていました。そうでもして発散しないと、頭がパンクして倒れてしまいそうだったからです。


「やっぱり、次元がちがうわね!」


 エマはぴょんぴょん飛び跳ねていました。なーに、ウサギの性ってやつですよ。


「こんなこと、キャンディだって経験してないはずだよ! 今日のこと話したら、きっと悔しがるね!」


 ポニコとエマは二人で笑い合いました。と、そこでポニコはある扉の存在に気づきました。扉は他のものとがちがって表面は黒ずみ、なにより、黄色いテープがバツ印に貼られていました。明らかに他のものと雰囲気がちがうのです。気になってうずうずしてしまいます。あの扉はなんですか、そう聞こうとしたのと同時に、帝王は振り返り、


「さあ、ここが食料庫だ」


 と言って、先を進んでしまいました。残念。聞くタイミングを逃してしまいました。


 大きな扉をくぐると、やはり中は広大でした。野菜、果物、肉、それから木箱、色々な匂いが混じり合って、それらが周囲一帯を満たします。


「これがガブガブ草、毒がある。こいつはレインボーシャークの内臓、毒がある。そして、こいつがウマウマの果実、とってもうまい、が、毒がある」


 帝王は目についたものを手に取っては説明をしてくれました。ポニコたちも一生懸命に目を動かします。そのとき、エマの視界にあるものが映り、反射的に、彼女は苦い顔をうかべました。


「エマ、どうしたのっ……あ」


 エマにつられてポニコが目を向けた先には、なんと、大量の白玉があるじゃありませんか。木箱がいくつも積み重なって、一番上の木箱からは白玉があふれでていました。


「ああ、あれは白玉だ。大量に余っているだろう? ここだけの話だが、あれこそが我々の大きな財源となるのだ」


 ポニコとエマは顔を見合わせました。

 

 ――白玉は政府の貴重な財源なんだ!

 

 白玉テロリストの言葉が、二人の脳裏をよぎりました。


「我々の力でな、人為的にブームを作ってやるのだ。そうすることで、我々の財産はうるおい、その惑星の経済もまたうるおう。今や白玉は数百の星ではやっている。そして、ブームが去れば、また新しいブームを作ってやる。そうして経済は回る」


 帝王は自慢げに語りましたが、二人の笑顔はぎこちないものでした。

テロリストの言っていたことは、あながちまちがっていませんでした。ポニコたちはそのことを言おうか迷いましたが、相手が宇宙の帝王では、そんな勇気もでてきません。


「白玉もそろそろ潮どきだろう。次はガムテープブームを作るつもりだ」


 帝王はガムテープを二人に見せびらかしました。二人は複雑な表情をうかべるだけでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る