第1話 白玉の陰謀 (9)

 空は夕日で赤く染まっていました。タピーズの周りでは、人質となっていた人たちがよろこびを分かち合い、また、店長がストローの件で責め立てられていました。報道陣も集まっています。


「すごいわポニコ! やっぱり、あんた天才ね!」


 エマはポニコの手を取ってぴょんぴょん跳ねます。生きているのが奇跡よ、とはしゃぐエマに、ポニコは大げさだなあ、と言いましたが、やっぱりポニコもうれしくてニッコリです。


「おじいちゃん、ありがとう! おかげで助かった、よ……」


 ポニコがおじいちゃんに向き直ったときには、おじいちゃんはそんな彼女に背を向けて、帰っている最中でした。馬券を握りしめながら。背中は真っ赤でした。


「かっこいいわね」


 エマにそう言われて、ポニコは胸があたたかくなりました。それから、二人は連行されていくテロリストたちに目を向けました。不気味な仮面をつけたまま、彼らはおとなしく連れていかれていきます。


「結局、テロリストが言ってたことは本当だったのかしら……」


 エマはつぶやきました。


 ポニコは、白玉が政府の謀略であるというテロリストの主張を思いだします。視界の端では、店長が報道陣たちに詰め寄られていました。


「わかんないよ。けど、こんな事件が続いてるんだもの。白玉ブームはもうすぐ終わっちゃうよ」


「そして、新しいブームができるんだ。どこからともなく、な」


 二人の間に入ってきたのは刑事のブルさんでした。


「お嬢ちゃん、君とおじいさんのおかげで助かった。恩に着るぜ」


 刑事に褒められるなんて、めったなことではありません。まさか表彰とかされちゃったりして。妄想は膨らみ、ポニコの頬はゆるみました。


「でもよ、俺たちのことが信用ならねえ気持ちはわかるが、今回みたいな無茶は二度としないでくれよ。下手したら……」


「もちろんです。わたしも、テロに巻きこまれるのはもうこりごりです」


 なんて笑っていると、ふと、ポニコは思いだしました。


「リーダーはどこ?」


 ポニコは周囲を見回しました。つられて、エマとブルさんもきょろきょろします。続々とテロリストたちが連行されていく中で、リーダーの姿だけが見当たりません。その事実に気づいたときには、もう手遅れでした。


「しまった!」


 反対側の通りに目をやると、ブルさんは声を張りあげました。そこには、こそこそと歩くリーダーの姿が!


「捕まえろ!」


 と、叫ぶよりも早く、ブルさんは駆けだしました。それを合図に、リーダーもダッシュ! 逃げる彼の表情はどこか楽しげでした。


「ポニコ、大丈夫?」


 ポニコはまばたきもしないで、逃げるリーダーの背中を見つめていました。


 ポニコはずっと引っかかっていました。あのテロリストのリーダーはポニコの名前を知っていました。少なからず、彼はポニコのことを知っていたのです。それが、ポニコにとってはとても居心地が悪く、むずがゆかったのです。


 あのドンドリアーヌ星人の名はギル。しばらくして、彼は再びポニコたちの前に姿を現すことになります。それが幸なのか、不幸なのか、まだ誰にもわかりません。今は、幸であることを祈っておきましょう。プライスレスの祈りに、なんの意味があるのかは判然としませんが。


 ポニコはパパのことを考えていました。ポニコが幼いころに家をでていき、顔すらも覚えていないパパのことを。もしかしたら、あのテロリストが……。


 まあ、ちがうんですけどね。

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