第1話 白玉の陰謀 (7)

「落ち着いて、どうされたのか?」


 刑事のブルさんは暴れるおじいちゃんに声をかけます。おじいちゃんは二人の警察に両腕を掴まれていました。それでも、おじいちゃんの剣幕は目の前のブルドッグをも凌駕するすさまじさでした。


「俺の孫がテロリストどもをぶっとばそうとしてんだ。お前らのろまな警察の代わりにな!」


 おじいちゃんは警察の手をあっさり振りほどきました。百四十七才とは思えないほど、パワフルでした。


「あなたのお孫さんが人質になっていると、そういうわけですか?」


「そうらしい。だがな、俺の孫はそこらのイヌッコロよか、よっぽど肝がすわってんだ。そんな状況でも助かる方法を考えて、こうして俺を呼びだしたってわけだ」


「助かる方法って、バカな……」


 おじいちゃんは人混みを掻きわけて、ずんずん前へ進んでいきます。ブルさんたち警察も必死に止めますが、今のおじいちゃんには何人がかりでも太刀打ちできません。とうとうおじいちゃんは店の前へ躍りでました。


「き、危険だ!」


 たまらずチワワが叫びます。そこで、おじいちゃんは足を止めました。


「失礼ですが、お孫さんの考えた作戦なんてっ」


 チワワが言いおわるより前に、おじいちゃんは振り返りました。警察たちを一望し、その眼力で彼らの動きを止めます。口の端をかすかに上げました。


「孫の作戦がどんなものかは知らねえさ。だがな、お前らみたいな棒立ちすることが仕事の連中を信頼するよかはるかにましさ。それに」


 おじいちゃんは馬券をひらひらさせました。


「今日の俺には風が吹いてる」


 おじいちゃんは言いました。


 そして、入り口に向き直ると、一度、麻袋を下ろし、シャッターを上げました。テロリスト側も把握していたからでしょう。ジャック・ブライトのときとはちがって、今度は銃弾が飛んできたりしません。本来、止める役目にあるはずの警察たちは、無力にもその背中を見つめることしかできませんでした。シャッターが開いたことで、店内の冷気がぶわっと外に流れてきました。


「風……」


 おじいちゃんはゆっくりと、タピーズの中へ入っていきました。

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