第1話 白玉の陰謀 (2)
ある日の昼下がり、ポニコはともだちのウサギの女の子・エマといっしょにハッピータウンのメインストリートを歩いていました。ハッピータウンはこの星一番の大都市で、毎日たくさんの人でにぎわっています。ぼーっとしていれば、あら、ごめんなさい。ほら、言ってるそばからリーマンにぶつかってしまいました。ポニコはとほほって感じ。
ポニコとエマは喫茶店・タピーズに向かっているところでした。そこでなにを飲むかといえば、それはもう今話題の白玉ハイボールに決まっています。ポニコもエマももう十才です。さすがは最近の女子小学生! 二人とも流行には敏感なのです。
「最近ね、アクセサリー作りにはまってるの! これも自分で作ったんだ!」
歩きながら、ポニコは左腕につけたお手製のブレスレットをエマに見せつけまし
た。青いビーズでできたブレスレットがおひさまの光をきらりと反射させました。本日の気温は四十一度です。夏。
「へえ、よくできてるわねえ」
ウサギのエマはオシャレが大好きです。ピンク色のモコモコした毛並みに似合う服を求めて、ファッション誌をめくる毎日。お金はあまりありませんから、ブランドものには頼りません。手作りのアクセサリーとなれば、つまりは安価ですから、エマは興味津々でした。
「かわいいだけじゃないんだよ。ほら、このビーズよく見て。爆弾に改造してあるの」
護身用として超小型爆弾をアクセサリーに内蔵するのは、今や主流になりつつあります。
二人の憧れ、カリスマザリガニモデルの高橋カロリーナは、雑誌の取材でこのように述べました。
『運命とファッションは爆発で切り開くものよ!』
「すごいわ!」
ポニコの話を聞いて、エマはもうすっかり興奮していました。彼女もスタンガンくらいは装備していましたが、時代が時代ですから、爆弾はほしいところでした。
「エマのも今度作ってあげるよ! ビーズなら大量に余ってるから」
それは誇張でもなんでもありません。ポニコの部屋の扉を開ければ、ビーズの波が押し寄せてきます。そのレベルです。ポニコは毎晩、ビーズに体を埋めて眠るのです。それが原因で、窒息しかけたのも一度や二度じゃありません。
「楽しみにしてるわ!」
なんて話をしている内に喫茶店・タピーズにつきました。タピーズはハッピータウンで一番オシャレな喫茶店です。ですから、店内はそれはそれはたくさんのお客さんでいっぱいでした。二人は白玉ハイボールを注文すると、歩道に面した一番オシャレなテラス席にすわりました。白玉ハイボールはハイボールの底に白玉が沈没しています。それをストローで吸う快感といったらたまらんのですわ!
「ではでは、修学旅行のお話でもしましょーか」
ポニコは白玉ハイボールをちょびと飲んで、テーブルの上に修学旅行のしおりを広げました。二人がタピーズにきた目的は、実は白玉ハイボールを味わいにきたからではありません。本当の目的は、あと一ヶ月にまで迫った修学旅行について話し合うことでした。
「まだ買いだしが済んでないわ。今度、ハッピーマートにいきましょ」
エマは白玉ハイボールを飲みました。アルコールがちょっと強めで、のどがピリッとしました。
「うん。特にエチケット袋と、命綱、呼吸器、あと、ハッピーな粉も」
ポニコは持ちものリストを読みあげます。
「それと、ポニコお手製のアクセサリーがそろえば完璧ね」
「わたしのアクセサリー?」
はて? しおりの持ちものリストには、ポニコの爆弾つきアクセサリーは載っていません。しおりを上下逆さまにしてみても、載っていません。エマはどういうつもりで言ったのでしょうか。ポニコは不思議そうにエマを見つめました。
「二人でおそろいのアクセサリーをつけていくのよ。それで、修学旅行を回るの。どう? なかなか素敵じゃない? もちろん爆弾つきで」
その発想はポニコにはありませんでした。彼女は「おそろい」とつぶやいてみました。なんともくすぐったい響きで、同時にうれしくなりました。ポニコは、エマとおそろいのアクセサリーをつけているところを想像してみました。
学校にいるときもおそろい、公園でお花見をしているときもおそろい、宇宙船に乗るときもおそろい、社長に会いにいくときもおそろい、です。なるほど、悪くありません。
「作る! すぐに作る!」
ポニコは三・五頭身の小さな体を前のめりにしました。ポニコの気持ちを表しているかのように、彼女の黒くて大きなポニーテールは元気にゆれるものですから、これにはエマもニッコリです。
「うん、楽しみにしてるね」
「任せて! 素敵なブレスレットを作るから!」
ポニコは興奮のあまり両手を天高く上げました。その拍子、持っていた白玉ハイボールを放り投げてしまいました。白玉ハイボールは綺麗な放物線を描き、たまたま近くを歩いていた正義のヒーロー、ジャック・ブライトの頭に命中し、その中身はぶちまけられてしまいました。
「私の禁酒計画が台なしだ!」
ポニコとエマは、喚くジャック・ブライトを申しわけなさそうに見て、すぐに視線を戻しました。
「もう、興奮しすぎよ!」
エマがじっと睨みます。
「ごめん、でも、あまりに楽しみだったから……」
ポニコはしゅんとしてしまいます。何故なら、白玉ハイボールはもう手元にないからです。
「あーあ、全然飲めなかった……」
エマは自分の白玉ハイボールをちらと見て、そして、
「少しあげるわ」
ポニコに譲るのでした。ポニコはぱっと顔を明るくさせて「ありがとう!」とお礼をすると、すぐにストローに口をつけるのでした。ポニコのうれしそうな表情を見るだけで、エマもハッピーで、やっぱりスマイルニッコニコ!
「さっきから変だと思ってたんだけど、よく見たらこのストロー、細すぎて白玉が吸えないよ」
ポニコに指摘されて、エマははっとしました。確かにこのストロー、シャーペンの芯くらいの細さしかありません。そうなのです。不思議なことに、さっきからエマは白玉の食感をまるで堪能できていなかったのですが、とうとう謎が解けました。
ズバリ! ストローが細すぎて白玉が吸えないんです!
「どうりで白玉が飲めないはずだわ! やっぱりあんた、天才ね」
ポニコは照れて、顔を赤らめました。その瞬間のことでした。
パン! と音が響きました。
「な、なに……?」
ポニコとエマは思わず顔を見合わせます。お互いに目を点にして。音がした店内にゆっくり顔を向けると、そこでは、全身を黒いマントで覆い、真っ黄色の仮面をつけた集団が、店員やお客さんにライフルを向けているではありませんか。
「あ、あれ、ニュースでやってた……」
それが最近うわさのテロリスト集団であることを、二人はすぐに気づきました。こうしちゃいられません。
「に、逃げようっ!」
そう言って、走りだそうとしたのも束の間、
「どこへいくつもりだ」
二人の目の前で、銃口が不気味に黒光りしていました。いつの間にか、仮面集団はテラス席にいる客にもライフルを振りかざしていたのです。逃げる隙を見失った以上、ポニコたちは両手を挙げて、テロリストに従うしかありませんでした。
「この店は我々が占拠した。我々はこの世の白玉、すべてを破壊する」
仮面は銃口を向けたまま宣言しました。
そう、彼らこそが、あの白玉テロリスト「白玉を狩る会」でした。
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