ウルトラデンジャーワンダーラブリーハッピーハッピーグラフィティ

紺ユキ

第1話 白玉の陰謀 (1)

『ハローエブリワン! 皆さんいかがおすごしでしょうか? ハッピーワイドTVのお時間でございます。司会はわたくし、アルパカのジニーが務めさせていただきます。それでは、さっそくですが今日もハッピータウンの中継からいきましょう。現場のダニエルー?』


『やあ、ジニー』


『ハーイ、ダニエル。調子はどう?』


『サイコーの気分だよ! ジニー、もちろん君もサイコーにキレイさ!』


『あら、ありがとうダニエル。それで、街の様子はどうかし……』


『まあ、確かに昼の君もサイコーだが、ボクは夜の君の方がはるかにサイコーだと思うね』


『ダニエル、仕事に集中なさい。首をちょん切るわよ』


『おっと、ソーリーソーリー。では、さっそく街の様子を見てみるとしようか。天気は快晴! ハッピータウンは今日も平和そのものさ! おや、言ってるそばから、あちらでは窃盗が起こったようだ』


『あいつを捕まえて! 結婚指輪を盗まれたのヨ!』

 

 マダムのプードルが叫んでいます。


『向こうでは交通事故かな?』


『アクセルとブレーキを踏みまちがえただけじゃ!』


 老人のカメが必死に弁解をしています。


『あの喫茶店では例のテロリストが立てこもっているようだぜ!』


『危険だから下がってろ!』


 喫茶店の前で、刑事のブルドックが怒り交じりに野次馬を追い払っています。


『ハッピータウンは今日も平和さ! じゃあジニー、夜にまた会おう!』


『ありがとうダニエル。それではいったんCMです』


 番組がCMに切り替わったのを確認すると、ジニーはスタッフに言いました。


「ダニエルをクビになさい」


 ザッツ・放送事故!


 さて、実は今のテレビ中継に本作の主人公が映りこんでいたのですが、おわかりになったでしょうか? 少し難問かもしれませんね。ちょいと巻き戻してみましょう。


『まあ、確かに昼の君もサイコーだが、ボクは夜の君の方が』


 ジニーとダニエルの関係性は気になるところですが、今回は関係ないのでスルーします。余談ですが、ジニーもダニエルもバツイチです。余談でしたね。


『あいつを捕まえて! 結婚指輪を盗まれたのヨ!』


 こちらの結婚指輪を盗まれたマダムのプードルが主人公でしょうか? いえ、主人

公にしては化粧が濃すぎますね。ちがいます。


『アクセルとブレーキを踏みまちがえただけじゃ!』


 交通事故を起こしたカメのおじいさん? 若さが足りません。


 いやはや、なかなか見つかりませんね。他には、ティッシュ配りのラッコのにいちゃん、うっかり見切れてしまった番組ADのブタ君、あるいは、たまたま近くを歩いていた正義のヒーロー、ジャック・ブライトが主人公でしょうか? いいえ、みんなちがいますし、ジャック・ブライトにいたっては、どういうわけか、正義のヒーローであるにもかかわらず、酔っぱらっているみたいです。正義のヒーローとしてあってはならない醜態ですよ、まったく。


 気を取り直して映像を見てみましょう。


『あの喫茶店では例のテロリストが立てこもっているようだぜ!』


 テロリスト……ちょっと怪しいですね。店の中を見てみたいところです。が、おあいにく様、テロリストによって店はシャッターが下ろされていて、中の様子はよくわかりません。同様に、窓もブラインドが下ろされています。


 いや、待ってください。


 ブラインドの隙間から、わずかに中を見ることができるではありませんか! さっそく拡大して見てみましょう。なにやら全身に黒いマントをまとい、真っ黄色の仮面をかぶった人たちが見受けられます。手に持っているのはおっかないライフルですね。彼らこそ、喫茶店に立てこもっているテロリストたちでしょう。でも、彼らも主人公ではありません。


 ちょっとアングルを変えて店内を見てみましょうか。テロに巻き込まれた人質たちの様子が見えますね。彼らは手足を縛られ、壁に沿って並ばされていました。ウサギと、カエルと、あら、ニンゲンもいますね。三・五頭身の、小さな、十才の、ニンゲンの、ポニーテールの女の子です。


 彼女です! とうとう見つけました! 彼女こそ、この物語の主人公・ポニコです!

 

 ですが、いったいどうしたことでしょう。主人公であるにもかかわらず、最初からテロリストの人質になるという大ピンチ。十才の女の子には酷な状況ですが、もちろん、こうなったのにも深いワケがありました。


 ポニコがどうしてこんな目に遭ってしまったのか、最初から振り返ってみるとしましょう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る