くしゃくしゃのネルシャツの女の子
虹を眺めていると鳥のさえずりが聞こえてくる。ゆっくり、ゆっくりと時は進んでいっている。1分1秒でも惜しいのだけど、さて困ったことに前情報は何もない。本当は精神接続はきちんと地上で調査したうえでやらないと危ない。だけど、今回はそんな余裕もなかったし、仕方ない。だいたいは天国先輩がいけないんだけど、弥生町さんにきっと叱られるんだろうから僕は笑って迎えに行きたいな。
そんなことを考えていると雨の匂いがほんの少しだけする気持ちの良い風が吹いた。ゆるく桜の花びらが散っている。それを合図にぼくの思考は「これからどうする」という方向に動き出す。ツユクサは「彼らのの思う形で物語を終わらせること」だといった。しかし、彼らとはいったい誰のことを指しているのだろう。彼らってことは複数形だから、二人以上ってことだ。しかし、登場人物が分からない今は手探りで情報を探さないといけない。とりあえず、
ぼくが後ろにある階段を降りようと振り向くと大きなカバンを背負った女の子がぼくを不思議そうに見ていた。女の子は肩くらいまで伸ばしたぼさぼさの髪にくしゃくしゃのネルシャツを着ていた。だぼだぼのネルシャツと髪の毛が女の子にきちんとしていない印象を与えるけど、目元まで伸びた髪の隙間から見える素顔は女の子らしい優しい顔立ちをしている。しばらくぼくと女の子は見つめあっていた。この子は一体誰なのだろう。いままで読んできた本の
「あたし、ここで人を見たことがないんだけど……。きみはだれ」
これってぼくに話しかけてるんだよね。女の子の声からは「不思議」と「好奇心」の色がしている。表情も疑っているものではない。ただ純粋に不思議がっているだけだ。ぼくは全身の緊張をといた。でも、誰って聞かれても困るんだよね。
「ぼくは……ええと……」
「もしかして、高校の子……ですか」
「……ええと。そう。そうだよ」
ぼくはできるだけ柔らかく笑顔を作る。し、心外だ。これでもぼくは24歳だぞ。女の子は不思議そうに声をもらす。
「今日から授業始まるから、学校の近くに早く来たのかな。ねえ、名前は」
「……
女の子はぼさぼさの黒い髪をかき上げる。色っぽい感じは全くしないけど、顔の全貌が見えた。天国先輩が甘やかしてかわいがるタイプの顔だ。女の子はぼくから視線を外さない。
「
天田うしおは静かに笑う。だけどぼくはなんだかこの子に「違和感」を覚えた。表情、声、雰囲気、全てがちぐはぐだ。どれが本当のものかはわからない。でも、そのことを聞いたら、なんだかよくない気がする。ぼくは襟を直した。
「そっか。えっと、天田さん。よろしくね」
「別に、あーちゃんでいいよ、三日月くん。そろそろ学校行かないと」
天田うしお、もといあーちゃんはぼくの作業着の裾を引っ張る。その行為に少しびっくりするけど、この子はお構いなしだ。ぼくはあーちゃんに誘われるがまま高台を降りていった。
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