理解と解釈―第四章ー

Observed ending

 かーっ。歩けど進めど闇は闇。赤い髪のいい男レンゴクに腕を引きずられてるんだが、せめてカワイイ女の子に「きゃあ。天国さんこわぁい」って言われてた方が俺的には美味しかった。しかし、この暗闇は不思議なもので肌に触れる衣服の感覚はするんだが全く温湿度が分からない。寒いとも暑いとも感じないし、不快な湿度ではない。俺は無表情で俺の腕をとるロン毛を観察する。身長は俺と同じくらい。でかい。しかし、俺より細い。おいおい、さてはここに迷い込んでからあんまり食べてないな。ここから出たら俺様が何か旨いモノでも食わしてやろう。天国様に感謝するがいい……とか、一人で悦に浸っていたら、急にレンゴクが足を止めた。なんだなんだ。俺はレンゴクが蛇のように睨む闇の先を隣で眺めようとする。でも、暗いだけでなあんにもない。俺が進もうとすると、ロン毛は俺の腕を強く引き戻して進ませないようにした。


「ここ、先、天国が観測した結末」

 結末だって。ああ、そういえば俺が【No.1224】を読んだのは最後の方だけだもんな。しかし、ロン毛の野郎。なんでそんなこと知ってるんだ。俺は頭のなかが熱くなってくる。自分の髪の毛をくしゃくしゃにいじくりまわす。すると、レンゴクはさっきの機械のような口調はどこに行ったのやら、なめらかな口調で言葉を紡ぐ。

「余白や行間は文字の隙間をぬってつながっている。天国が結末の行間に落ちてきたとき、空色の光が見えた。きっと、誰かに共鳴したんだろうと俺は思った。あなたは結末のどこに『共鳴』したの」

「そんなことあんたには関係ないだろ」

「関係はある。行間の闇からあなたを出して、俺の願いを叶えてほしいから」

 ……は。今なんて言った。『俺の、願い』だぁ。こいつ、一体何者なんだ。【No.1224】には挿絵などはない。登場人物の容姿については想像するしかないのだ。そうすると、こいつは園田啓そのだけいか。いや、まさかの天田うしおの可能性もある。深層心理は男の可能性もあるからな。しゃーねえ。腹をくくるしかないか。登場人物であれば、もし「天田うしお」であれば、なぜ仮面をかぶっているのか・・・・・・・・・・・・・問えばいいのだから。

「俺は、天田うしおの最後の台詞に共感した。いや、俺と似た人間を見つけてしまって同情したんだ。救いたいと思ってしまったんだよ。なあ、レンゴクよお。オメーは一体何者なんだ。天田うしおか、園田啓か、はたまた別の人物か」

 ちょっとだけ、あいつは黙った。でもほんの少しの空白をすぐに歌うように埋めていった。

「俺は俺。自分が何者かわからない。ただ、行間に迷い込んだあなたとツユクサの願いを叶えたいだけの存在」

「俺の願い……そんなものはねえぞ」

「この闇ではあなたの気持ちはだだもれ。さっき、【No.1224】にイシを放出していたから、過去もあらかたわかった。ついでにさっきから脳内でおしゃべりしてるのを聞いてた」

 なんて野郎だ。俺の脳内ボイスを聞くだなんて破廉恥な野郎だ。全く。

「じゃあ、アンタとツユクサの願いってのは」

 レンゴクは俺の腕を痛いほど掴んでいる。真っ赤な艶のない髪と生気のない瞳にほんの少し「生」の色がまざる。


「俺の願いはツユクサが思う形で物語を終わらせること。ツユクサの願いは、けいとうしおのイシの浄化」

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