第2話 宿と客引き

城を出た俺は、一人街道を歩きながら、頭の中でこの状況を整理していた。

とりあえず現状を受け入れる事から始めよう。


本音を言えばさっさと日本に帰りたい。

だが帰り方も分からない。いや、そもそも帰れるかどうかも不明だ。

だったら今できる事をしようと思う。


まず今の自分の能力の確認からだ。


「城にいた魔法使いが、ステータスの見方を教えてくれたっけな。えっと、そのまま言えばいいんだっけ?ステータス」


そう呟くと、目の前に半透明の青い鏡のようなものが現れた。

そしてそこには個人情報がビッシリと載っている。


名前 八神 竜馬 男 16歳


レベル1

HP 30

MP 5

力 10

防御 10

スピード 10

技 剣術レベル1

魔力 5



「・・・ゲーム感覚で見るとなんとなく分かるけど、この世界のレベル1がこれで、強いのか弱いのかは分からないな」


剣術レベル1か、つまりレベル2、レベル3もあるって事だよな?

魔力もあるって事は、魔法も使えるわけだ。

ステータルに使える魔法の記載が無いって事は、俺が覚えてないだけと考えるべきだな。レベルが上がれば自然と覚えるのか?それとも魔導書みたいなもんでも買って覚えるのか?


「・・・まぁ、とりあえず町だな。町に行って情報を集めだな」


腰に手を当てて、大きく息を吐き出す。

本当に、なんであの城の連中は俺に何も教えないで放り出したんだ?

普通、こういう事はちゃんと教えるだろ?

魔王を退治して、4つのダイヤとかいう、大事な物を守ってほしいんだろ?


なんでこんな放置プレイなんだよ?


絶対に戻ってやらねぇ。魔王を退治したって、絶対あのデブのとこには戻ってやんねぇから!

今日何度目になるか分からない決意を、堅く心に刻む。



そして街道をずっと歩いていると、やがて見えた立て札の前で、俺は足を止めた。


「なになに、このまま道なりに行けばサイーショの町、か・・・」


不思議な事に、日本語ではない事は分かるのだが読める。

そしてなんだこのふざけた町の名は?シャレか?町のトップは何考えてんだ?


色々思うところはあるが、他に行く当てもない。だから俺はサイーショの町に行った。


町の中に入って最初に感じた事は、活気があって、なんとも賑やかな町だという事だ。


大道芸人もいれば、若者が楽器で音楽を披露している。

子供達の笑い声があちこちから聞こえるし、まるでお祭りのようだ。


「明るい町だな・・・まぁ、まずは今日の寝床を確保するか」


宿はどこだ?と、きょろきょろ首を動かしながら歩いていると、

後ろから服を引っ張られる。振り返ると小さな男の子が笑顔で俺を見上げていた。


「お兄さんこの町の人じゃないよね?宿屋を探してんの?ぼくの家は宿屋だから来ない?」


茶髪で愛嬌のある顔をしている。多分9~10歳くらいかな?

日本だったら客引きなんかに絶対ついては行かない。いや、ここは異世界だし、日本よりもっと危ないと考えるべきなんだろうけど、こんな小さな子がおかしなマネをするとは思わないし、思いたくない。


「・・・一泊いくら?」


「10ゴールドだよ。安いでしょ?」


茶髪の子は、右手のひとさし指を立てると、ニカっと歯を見せて笑った。


「10ゴールド、か・・・」


この子は安いと言うが、俺が城で聞いた相場が一泊10ゴールドだ。

高くもないが、安くもない。平均だ。


この世界でのお金の稼ぎかたを知らないから、今は手持ちの100ゴールドが全財産という事になる。できるだけ出費は押さえたい。


「・・・もう少し安くならない?」


「えー、お兄さん、そんなケチな事言わないでさ、10ゴールドくらい気前よく出そうよ?母さんに夕飯は気合入れて作るように言っておくからさ」


交渉も受けない。あしらい方がうまい。慣れている感じがある。

どうやらこの少年にとって、こんな事は日常茶飯事のようだ。


「・・・う~ん、まぁしっかしり休みたいからな。分かったそれでいい」


「よっし!決まりだ!じゃあこっちだよ!」


少年は両手を打ち合わせると、俺をその宿屋へと案内してくれた。


そして少年の宿屋で受付をすると、この宿の主人で少年の母親は、笑顔で俺にこう告げた。


「では一泊100ゴールドの前金です」


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