24
翌十月十七日は、朝からぼんやりとした
デイゲームとなった試合の開始前、ブルペンで暫し、肩慣らしも兼ねた壁役に精を出していた藍葉は、その休憩がてら、自軍のダッグアウトへ出て来ている。最前列ベンチに座りながら眺める、昨日の猛雨が嘘のようにからりと乾いた人工芝に、細かいことは知らねども、彼なりに、グラウンド整備士の技術や職務意識への素朴な感謝を覚えたのだった。
こんな情動に、しかし、藍葉は形而上的な思いをも得ている。皮肉ではない素直な感謝を、真摯に覚えたと言うことは、こんな矮小な三次元世界に、自分は、すっかり染まってしまっているに違いないのだ。もし今日敗北したらば、元の世界も含めて何もかもが破綻して終わってしまうのだからそれはそれで最早どうでも良いが、しかし、もしも、もしも首尾よく生き延びることが出来てしまったら、今日からずっと後、老衰か別の破綻かで結局この世界を去る事になった時の自分は、帰還後、すっかり一盆栽世界に心の根を張ってしまった虚け者として、死の絶望にも値する、大きな喪失感を得るのではなかろうか。
つまり、……もしかすると自分は最早、今日勝とうが勝つまいがどうにもならない、一種の詰みに追いやられているのではあるまいか?
そう、暗く思い馳せつつ、
急な寒さを感じつつ、つい眉を寄せて顔を上げると、グラウンドから忍び寄って来ていたらしい、眩しい笑顔の紫桃が、人差し指に掛けた巨人帽をくるくると回している。
「よ、」
そう言いつつ、空いている方の左手を軽くあげた彼女へ、藍葉は尋常な挨拶を返す代わりに、腕を伸ばすだけで帽子の返却を求めた。
投げ渡されたそれを、座ったまま被りながら、
「随分、元気そうじゃないか、」
こう、強気に返した藍葉であったが、しかし紫桃は、駱駝のように、首を伸ばしつつ目を眇めて彼を暫く見詰めると、彼の全て、特に、今起こったばかりの憂鬱を見透かし、失笑を漏らすのだった。
それを嚙み殺す努力を嘲弄的に演じた彼女は、真っすぐな姿勢に戻りつつ、
「ま、少なくとも見た目上は、殊勝な御様子で結構なんじゃない? 扇の要として、がっかりとか緊張とかしている姿見せている場合じゃないでしょうし、」
「それは、……自戒の言葉かな?」
これを聞いた紫桃は、一瞬顰めたが、すぐに勝ち気な表情へ戻って、
「お互い、大変ってことだね。」
紫桃はそう述べてから、おいピーチじゃんあれ、と、藍葉の背負う辺りのスタンドから漏れ聞こえてくる方向へ、手を振って見せる。
その隙を衝くかのように、
「どうせ挑発に来たんだろうけど、まぁ、負けないからさ。……ちゃんと、眼鏡は持って来たのか?」
裸眼の魔王は、皮肉げに笑みつつ、
「ええ。ロッカールームに有るから、第一打席に立つ時はちゃんと掛けますとも。」
「つまり、今日も君は出場してくると言うことだね?」
「何それ?」少し逸らしていた視線を、藍葉へとしっかり合わせながら、「もしかして、語るに落ちたな、とでも言いたい訳? 私が今日も出場するだなんて、ウチの
昨日の夜に取材されてそのまま深夜にウェブ発行された記事のことを、彼女は言及していた。何も打てていない上に守備でも精彩を欠き始めた紫桃を、そのまま最終戦でも使うのか、という記者からの問い掛けに対し、ラミーロは、四冠王に代わる戦力は無い、と端的に述べ、彼女への信頼と、そして彼女と心中する覚悟を表明し、多くの読者からの称賛を得たのである。尤も、同じくらいの数の非難も寄せられてはいるのだが。
「分からないだろ、アレックス・ラミーロならば、ブラフくらい掛けてくるかも知れない。」
「別にあの人、先発オーダーで奇を衒ったことなんか無いでしょうに、」
「夏の対楽天戦。三番、ピッチャー丹菊。」
この皮肉を受け、流石に紫桃は藍葉を凝然と睨み返した。
彼は、ここぞと畳みかけるように、
「どうなんだ? 一日有ったけど、丹菊さんの球、必死に練習して少しは打てるようになったかな。」
紫桃は、丹菊相手でない打席の時の如く、息詰まる威と共に、何も聞こえておらず、或いは時が止まっているかのように微動だにせぬまま暫く藍葉を睨め続け、気折れた彼がつい、不安げに腕を動かしてしまうと、それで満足したように相好を崩してから、
「野球は、九人で点を取るものだよ。藍葉君。」
そして
好機で歩かされるからとは言え、147安打の108本でたった(?)201打点しか上げてない癖に、何を馬鹿なことを、と、藍葉が思っていると、ヴィジターのスターティングメンバー発表が厳かに――或いは地味に――開始された。
一番ショート坂元に続いて、読み上げられたのは、
二番、キャッチャー、藍葉。
殆ど向こうのダッグアウトへ到達していた紫桃は、わざわざくるりとその場で回転してから、瞠目しつつ藍葉を指さし、(マジ?)の形に口を動かした。
藍葉は、これ見よがしに肩を竦めてから、立ち上がって裏へと戻って行く。かつて六月七月と四番に座っていた蝶野を、下位六番へ押し退けてまでの、二番藍葉。彼の対横浜打撃成績が芳しいことに気付いた首脳陣の、賭けのような作戦であったが、自分と丹菊と言う、紫桃の目に対抗しうる打者が連続することは、なにかプラスに働くのではないかと、彼自身も少し期待しているのだった。
藍葉は全く詳しくなかったが、かつて女子野球の振興に大きな役割を果たしたと言う、町田シャイナーズのOGだか指導者だかが、紫桃を捕手、丹菊を打者として始球式を演じた。初めてNPBに入った、しかも大活躍中の女二人、という人選は分かるのだが、あんたらついこの間まで全員身内だったんだろ、と彼は思いつつ、真面目に握手を交わしている彼女らをぼんやり眺めたのである。
そんな彼女らが撤収した、殆ど直後、14時の僅か前、ベンチから整然とグラウンド方向へ立ち並んだディアーナの作った一本道を、横浜ナインが一人ずつ、レールガンで射出されるかのように走り抜けつつフィールドへ散らばって行く。守備番号の逆順で、柁谷、鍬原、三合、倉元、代崎、宮咲、ラペス。
そして、最後の二人、捕手紫桃と投手今長が飛び出てくる。野手等と違って同時に走り出て来た二人は、最後の決戦を待ち兼ねて茹だった大歓声の中、彼女の右手の甲と彼の左手の甲とを打ち合わせてから散開して、本塁や投手板の元へそれぞれ向かって行った。紫桃はこの、ルーキー二人の同時出現と言う逸脱行為を、球場側と全く打ち合わせていなかったらしく、DJの語りやオーロラビジョンの映像は実に混乱したが、とにかく最終的には、堂々と投球練習を始める今長の名が殷々と呼び立てられつつ、その姿も大写しとなったのである。その、どちらかといえば愛嬌の有る、そしてそもそも若い顔が、今ばかりは凛乎と引き締められていた。
二番打者としてダッグアウトから放り出されている藍葉は、少し前に立つ主将へ、
「あの今長が、中四日、……気合、入ってそうですね。」
と声掛けて見たものの、聞こえていないのかそれともそれどころでは無いのか、特に返事は無いままに坂元はバットを素振り続けた。
仕方なしに藍葉は、雨天が一日有ったとは言え、六連戦の第三試合から続けて登場してきたルーキー、横浜の実質のエースの投げっぷりを眺め始める。今長は今年、リーグ唯一の1点台である防御率1.78と、勝率.765で、美事二タイトルを射止めており、もしも紫桃や丹菊がこの世に居なければ新人王確実という成績であった。勿論、横浜の全投手の成績には、紫桃の目の寄与が多く含まれている筈であり、そんな彼らの中でも今長は不気味なまでに飛び抜けて絶好だったので、もしも実際に紫桃が居なかったら、それはそれで彼は新人王を逃したのではないかとも、藍葉は訝しんでいる。つまりどうやら、恰好だけでは無く、紫桃は本当に今長を気に入っていて、シーズン中特に彼を手厚く助けたらしいのだった。そんな二人組がこの大一番に登場してくるのであるから、その恐ろしさは推して知るべしと、藍葉に少し武者震いが起こる。
最優秀バッテリー賞セリーグ部門を――発表までに世界さえ崩壊しなければ――間違いなく受賞するであろう、最強のコンビの待ち構える打席へ入った坂元が、恰も投手板のような制約が有るかの如く、打席の最奥区切り線へ右足をしっかり掛けつつ尋常に構えると、まもなく球審からプレイが掛かった。どうにかして元気を取り戻しているらしい紫桃は、昨日までの沮喪と一転、寧ろ意気揚々と今長へサインを送って見せる。
藍葉を相手にしなかった辺り、やはり坂元は気負っていたらしく、そんな精神状態を、狙い球と共に見抜かれた彼は、半端な速度のフォーシームを何かの変化球を勘違いして上っ叩き、サード代崎正面への無用に鋭いゴロを放って斃れた。
やはり、厳しいな。続く藍葉はそう思いながら打席の線を跨いだのだが、ふとここで、弱気な自分に腹が立ち、つい、思いついた行動を衝動的に取ってしまった。
構えるついでに、バットの先端で、マウンドの方を指し示し、
「さぁ来い今長!」
ぎょっとする今長、肩を揺らして失笑する紫桃。
「何? 詠哩子の猿真似?」
揺さぶりのつもりかも知れぬが、一々歯牙に掛けるのも鬱陶しい、という語り口の彼女だったが、しかしその実、初球を大きく、立ち上がらねばならぬ程に外させたのである。同じ捕手として、走者も無いのに初っ端からこんな球を、非力な自分へ要求する意味などないと看破した藍葉は、「今長、慌ててくれたのかな。……新人だしな、」と聞こえよがしに呟いたが、彼女からの返事は無い儘に第二球が投ぜられた。
紫桃の目に対抗する為に、事前に山を張らず、投手が動き始めてから心構えを決めるようにしている藍葉だったが、しかしそれでも漸く公平な勝負にしかならない訳で、この打席も、生涯打率二割弱の彼と、怪物ルーキー今長の対決らしく、つまらないポップフライが二遊間に打ち上がってしまう。一応祈りつつ一塁へ駈けるも、打球は宮咲のグラブに危なげなく捕まった。
撤収中に、どうよ、と、すれ違う丹菊に訊ねられるも、いつも通りキレキレ、と、役に立たない言葉を送るしか出来なかった彼だったが、その背を、通り過ぎた筈の丹菊の掌によって健か打たれた。
「
「まあ、見てなさいな。……死んでも繫げるから、」
そう言い残し、左打席に入った丹菊は、短い方のバットをクローズド、それもいつもよりやや深く構えつつ、
「さぁ来いやぁ今長、……
普段より明らかに大きい、藍葉の倍ほども有りそうな声量でそう宣告した丹菊を、窘めようかと球審は少し悩んだようだったが、莞然としている彼女と苦笑いの今長とを見て、取り敢えず見逃すことに決めたらしく、少し奇妙な動作をしてから仁王立ちの姿勢へと戻った。
こんな逡巡を知ってか知らずか、紫桃が平然かつ莞爾とサインを送り、第一球が投ぜられる。ど真ん中の直球を、丹菊が微動だにせず見送ってストライク。続く第二球も同じように見逃されて、あっという間にナッシングツーとなった。
しかし、ここからが、此方は今長と違って紫桃が居なかったら確実に過去最高記録で最高出塁率と新人王を獲得していた、出塁率.537(なお打率は過去最低記録の.121)の、丹菊の真骨頂である。長い方のバットに持ち替えて、オープンに構えた彼女は、そのまま打席を外すことなく、今長の球を淡々と弾き続けた。三球、四球、五球、六球。何か紫桃に言われたらしく、欣然と言い返してから、七球、八球、九球。
誰のものよりも長い、つまり、単純に極めて重い筈のバットを、天稟の筋力にものを言わせて操り、全て三塁ベンチ方向やバックネット方向のファールにしてしまう丹菊の妙技も見物だったが、捕手たる藍葉は、眺めながら、ストライクを要求し続ける紫桃と、球種を織り交ぜつつそれに応え続ける今長らの胆力にも驚かされている。しかし、第十球、とうとう今長のカーヴがすっぽ抜け、通常の打者で言う、頭の辺りへの大外れとなった。
実際には、身長の足りぬせいでしゃがむのみで済んだ丹菊が、再び背筋を伸ばしつつ、ボール一つ目ぇ!、と、口を楽しそうに動かし、紫桃の首を憮然と傾がせる。最終試合だから投手を総動員出来るとは言え、しかし、折角最高に仕上がっている――そして彼女のお気に入りの――エース今長を、無為に消耗させられていることに苛立っている筈の紫桃は、少し悩んでから、十一球目のサインを出した。そうして投ぜられた、外角から逃げるカーヴへ、丹菊はバットを出してしまったが、しかし、短い腕を懸命に伸ばし、一米バットの先端に何とか引っ掛けて見せる。ファールボールの行く末を少し目で追った紫桃は、何かうんうんと頷いてから、上体を逆海老に反らして球審からボールを受け取った。
打っ殺すと言いつつ、その実に消極的な遣り口だよな、と、丹菊の打席がいつ終わるか分からないので
このように繊細な――といっても大したことではないが――読みに基づく配球が叶わないのが、紫桃枝音と言う女の
「しゃあ!」という欣喜が、鋭い女声と言うことも有り、濁りげな喧騒を貫いて藍葉の元まで届く。唸る速度の打球は、高さは無くとも、二塁手宮咲が一歩も動けぬまま、左中間深くを突き破る、
筈だった。
ダイビングでグラブの先に好捕したのは、名手、中堅手鍬原!
思わず歎声が上がる巨人ダグアウトの向こうで、丹菊も、一塁を回ったところで頭を抱え、何か親しげな恨み言を叫んでは、引き上げつつある横浜の内野陣を苦笑させていた。
この鍬原という男は、藍葉等の介入しない正史では全く目立っておらず、イレギュラーな丹菊の離脱によって漸く出場機会を得た若手の外野手だったが、その結果この周回では、好打堅守の選手、特に守備では早くも柁谷を凌駕すると名が高く知られていた。つまり、丹菊は自身の離反によって、あの好捕の機会を与えてしまったのである。
防具を身に付ける準備をしていた彼の下へ、戻ってきた丹菊が、
「上手かったんだね、彼奴。手足の長い分、捕るまでは私より凄いかも。肩は負けないけどさ。」
「ナイスバッティング。……色んな意味で。」
「ええ、ありがと。
しかし、あれが捕まるんだから、やっぱりフェアゾーンへ打つのは正気の沙汰じゃないよ。」
丹菊が、会話すら交わした筈の紫桃に関して、何ら語らずただ道化て見せるのは、特に理由は無かったのかそれとも何か含みが有ったのか、藍葉には、今一摑みきれないでいた。
攻守翻っての一回裏、此方は今長と違って休養充分なエース須賀野が行う投球練習の間、当然に野手陣もそれぞれボールを投げつ受けつしていたのだが、その中でも、右翼の丹菊だけは様相を異にしていた。浴林をファールゾーンに屈ませた上で、しっかりと間を置いたセットポジションで、唸り声を漏らしつつ彼へ球を投じるのである。数日前から始まったこれは、言わば、即席の投球練習だったのだが、距離もいい加減で高さも無い胡乱さによって逆に調子を崩すのではないかと心配した藍葉へ、丹菊は、「神宮のブルペンみたいなものでしょ、」と、訳の分からない返事をしていたのだった。
その後、肝腎の先発須賀野は素晴らしい立ち上がりを見せ、一番鍬原から二番柁谷と、横浜打線の劈頭を危なげなく叩き落としてみせる。そうして、二死で三番三合、紫桃には及ばずとも今年44本放って大きく名を上げた若き大砲を迎えたのだが、藍葉は、ここで、自軍ベンチの方へ窺うような視線を送ることになった。丹菊の進言を採用した、事前の申し合わせの儘で良いのかと、念の為に監督らへ確認したのである。
無言の肯定を受けた彼は、すくりと立ち上がった。
敬遠。
横浜側のベンチやスタンドから、手厚い野次が飛んで来る。藍葉は、「お宅の四番の前にわざわざ走者を供えてやるのに、何の文句が有るんだ、」という論理で毅然を保ちつつ、須賀野の緩い球を一球一球叮嚀に受け取った。
直前打者が無走者敬遠されるという至極な屈辱を浴びた、四冠王は、何を藍葉へ言ってくるでもなく構えようとしたが、当然にタイムが掛かって守備位置交代が知らされた。
右翼からやって来る盟友の、軽い足取りすら忌まわしく感じているかのように、紫桃は、憤ろしげに彼女を睨め付け続ける。
「取り敢えず、一旦どけよ。」
そう、藍葉が呟き掛けて、漸く魔王は次打者円の辺りまで退いた。
投球練習が終わり、改めて紫桃の登場曲が、秋の空気に鳴り渡る。かつて自分も同じ曲を指定していた丹菊は、この曲について、まるで自分まで鼓舞されるようだ、と冗談めいて述べていたが、しかし、マウンド上で軒昂としている様子を見ると、それなりに本気の発言だったのではないかと藍葉は思った。
プレイが掛かり、顔を引き締めた丹菊は、どうせ掠りもしないと紫桃を嘲弄するかのように、また、どうせ走れないだろと三合を挑発するかのように、またも、ワインドアップの構えで佇んだ。これを受けて、糞が、と呟き棄てる紫桃は、恢復していた泰然を毀たれつつあるように藍葉には見られたが、しかし、この場で彼が何を思おうと完全に無駄で、何せ、丹菊は、勝手な球を勝手に投げてくるのである。
奇策として、ワインドアップからの牽制でもするんだろうか、と彼は一瞬思ったが、そんな器用な真似を付け焼き刃投手の丹菊が出来る訳も無く、そのまま素直に腕が持ち上がった。身が躍った後に放たれた、彼女の喘ぐ声と競い合っているかのような豪速球は、何とか藍葉に捕まって、163キロの表示と共にストライクがコールされる。
続いての第二球も、皆が驚かされたことに、丹菊は、ワインドアップに足を置いた。そこから悠然と動き始める彼女を見た、三合或いは横浜首脳陣は、流石に痺れを切らし、二塁へのスティールを仕掛けてくる。
藍葉が外角へ飛び出すようにして何とか体で止めたボールを、拾い、躰を開こうとした瞬間に、
「構うな!」
丹菊の一喝。
藍葉は、つい応じてしまい、とうに塁上で立ち上がっている三合を認めてから、二塁では無く彼女へ向かって、ゆったりと返球を為した。
確かに、あんな大きいフォームから走られたのだから、投げても無駄だったろう。……しかし、それだけか?
そう怪しんだ藍葉を支持するかのごとく、丹菊は、更に続けてワインドアップの構えを見せ、不敵に笑んだ。三合が二年振りの盗塁を見せても、なおセットに切り替えない彼女は、藍葉の思った通り、横浜への厳しい挑発を狙っていたのである。二塁へでも三塁へでも、好きなだけ走れ。……どうせ、お前等の主砲は何も出来ずに終わりだ。
そうして投ぜられる、第三球。ここで漸くスウィングした紫桃は、折よく、ど真ん中コースの直球を迎えていたのだが、しかし、166キロの速度に全くタイミングが合わず、ワンボールツーストライクと追い込まれる。
第四球、尚もワインドアップとしての足の置き方を止めない様子を見せられ、紫桃は、露骨に肩の力を籠めた。打席での力みは、通常は悪い仕草だが、しかし、シーズン中はそもそも力み満点の打撃フォームから98試合で108本を放った紫桃にとっては、寧ろ有益な技巧なのかもしれぬなと藍葉が思っている内に、丹菊が投球動作を始める。足が引かれ、腕が持ち上がった、……が、
持ち上げた右手を、組むでも無く、彼女はそのまま、キャッチボール、或いは外野守備時の要領で、平然と投げ込んで来る!
この、得点圏に走者を置いた四冠王を、舐めきったような一球は、120キロも出ない棒球となり、しかも、突然妙なことを演じたせいで制球も失って、高目へ大きく外れようとしていたのだが、しかし、完全に調子を狂わされた紫桃は、硬いアッパースウィングを、不様に空振らせてしまったのである。
スリーアウト、チェンジ。
勢いのまま崩れ、呆然と膝をついた魔王は、荒い息を暫し繰り返し、球審に促されて漸く打席から退いた。
とっくに引き上げていた藍葉は、ベンチからこの異様を窺っていたのだが、遠い彼の目には、紫桃の顔が、
そこで、彼は一つ
三合への敬遠を除いて共に三者凡退で終わった一回の表裏は、如何にも投手戦を予測させる立ち上がりであり、となれば、横浜勢にとっては、文脈も無しに突然点を捥ぎ取る紫桃の打棒は頼もしいものであった筈だが、しかし勿論、こんな夢想の前には、彗星の如く現れた難投手丹菊が立ちはだかっているのだった。
そうして、結局いずれのチームもまともに味方の得点を期待出来なくなった結果、互いのエースは闘志を燃やし、二回と三回も、それぞれ美事三者で切って見せたのである。そもそも傑出した大投手である須賀野と、紫桃に助けられて実績と自信を得た今長は、共に堂々と力投を重ねていた訳だったが、しかし、彼ら各〻に、憂慮が一つずつ存在してもいた。須賀野においては、紫桃を迎える度に丹菊がマウンドへやって来るので、間を開かされてしまうことがどれだけ毒になるか、と言う懸念であり、今長においては、精神上のことである。つまり、本来なら頼りになる筈の紫桃が、再び
というより、事実その後、今長は首を振った。四回表先頭、坂元への初球について、彼は、紫桃の命じた球種に肯んじなかったのである。次打者円近くに居たとはいえ、右打ちの坂元が障碍となる藍葉からは、紫桃の様子は十全に窺えなかったが、魔王は大分驚いたと見えて、ダッグアウトからの指示を確認する素振りを演ずるかのように――そんなタイミングで横浜ベンチがサインを出す訳が無いと、藍葉が知っていたからこその、演技と言う看破だったが――首を曲げて、間を少し置いたのだ。その後紫桃の出したサインには今長も
別に今長だって、何か意地の悪い真似を試みた訳ではないだろう。彼なりに、勝つ為に必要なことを真剣に考えて、その挙句首を振ったに相違ないのだが、しかし、結果としては、ただでさえ弱っている紫桃の誇りを、手酷く傷つけたに違い有るまい。妖怪の如く打者の裏を搔くリード術や、多少の失点は埋め合わせてしまう打棒によって投手陣から絶対の信頼を得ていた彼女が、一度とて疑われたと言う事実は、裏を返して、彼女の、文字通り人ならざる力そのものが、疑られているということになるのだった。
そんなことを思いながら、藍葉は坂元の第二打席の行く末見守ったが、浮いたカーヴを叩いたレフトへの一撃は、不幸にも左翼手三合の定位置方向で、際どいところで捕まって一死となってしまう。此方は運まで無いのか、と、内心歎きながら打席へ赴いた彼は、少しは揺さぶろうと色々聞こえよがしに呟いたが、しかし、紫桃は何一つ相手にして来ず、黙然としたままだった。
返事をしないのはともかく、向こうから何も言ってこない辺り、紫桃は本当に一杯一杯なのかと想像しつつ、藍葉は難敵今長へ立ち向かったのだが、しかし、そんな彼女の深い動揺が彼を中継アンテナとして伝播したかのように、今長の制球が、突如乱れ始めた。結果藍葉は労せずに、巨人の今日初めての出塁として四球を選択する。
一死一塁。丹菊が――呆れることに――楽しそうに、打席へ入ってくる中で、紫桃が此方へ一瞥もくれないことを確認してから、塁上の藍葉は、此処での丹菊の気持ちを想像した。古巣の横浜でこんな場面を迎えていたら、後ろに打撃を如意のものとする紫桃が控えていたのだから、とにかく歩いて、一塁二塁を作らんとすれば良かっただろう。しかしこの場では、別に阿辺や叢田が非力な打者とは言うまいし、何なら叢田に関しては花を持たせたいとすら彼女は思うやもしれないが、しかし流石に彼らも、魔王たる紫桃、手慰みに108本を放った十二次元の悪魔とは比べ物にならない訳であり、――更に言えば、相手捕手が紫桃と言うのが最悪だった。再び調子をおかしくしているとはいえ、しかし、あの目を打ち破ることが出来る男打者は、そう居ないだろう。
こんな彼の思索通り、自分が決めるしかないと覚悟していたらしい丹菊は、今長の初球を全力で叩いた。第一打席と違って追いつめられておらず、長物では無い普通のバットのまま試みられた打撃は、角度も勢いも段違いで凄まじく、そのまま、場外へ悠々飛翔して行ったのである。
しかし、右翼外審の両手は広がった。
ポール際の微妙なファール判定を受け、いつもと違っていとも口惜しげに打席へ戻った丹菊は、二球目も全力で振り抜こうとして、し損ね、バックネット方向へ高々と打球を打ち上げてしまう。自分なら取れるな、と一塁上で思った藍葉であったが、紫桃は、打者の意志の籠もらぬ打球というもの――何せもしも打者の気持ちで操作出来るものなら、スタンドに叩き込まれている――をまともに目で捉えることが、相変わらず出来ぬようで、ここでも、惜しくも何ともなく、エラーすらつかない形で球を取り零してしまった。内野席の多勢を占める横浜勢の溜め息が、束になって彼女へ襲いかかる。
そして、その後、第三球のサインに首を振る今長。
まるで此方の味方であるかのように、紫桃のプライドや傲慢を効率良く破壊するタイミングで行われた、この拒絶を見て、藍葉は、またいつかのように足で搔き乱す好機かとも思ったが、しかし、此処は丹菊の一発に委ねるようと決意した。
そんな彼女は、……バットを、持ち替えていない。
ツーストライクなのに相変わらず普通の長さのバットをクローズドに構えた丹菊は、打ち気であることを最早全く隠しておらず、これも今長に逡巡を齎した原因の一つだったかも知れないが、いずれにせよ紫桃は大人しく別のサインを出し直した。これへは今長も頷き、フロントドア、内からストライクゾーン内角一杯を掠めんとするカーヴが投ぜられる。丹菊は、ぴくりと僅かにのけ反るだけでこれを見送り、今長も喜ばしげにグラブを叩いたが、しかし、球審はこの球を取らなかった。
ナッシングーツーにおいてのみやたらとゾーンを狭く取る球審は、少なくない。おそらく紫桃は、そこまで考えてまずサインを出したのだが、それを今長に拒絶されてしまい、仕方なしに尋常な手、――つまり、長いバットによって短いリーチを埋め合わせようとしていない丹菊は、外角球を空振らんと気をつける筈で、ならば今長はその辺りへストライクを投げない筈であり、ということは、丹菊は結局その辺りを捨てる筈で、さすれば今長は逆に内角へは投げまじ、と、丹菊は予測するだろう、……程度の、フロントドアを提示したのだろうが、そもそも、日頃審判員の心奥を見ることの出来る彼女は、今日背負っている球審は、先述のような、ストライクゾーンを狭める悪癖を持っていると恐らく分かっており、そこまで含めた上で、もともと自分の中でフロントドアを却下していたのではあるまいか? もしもそうだったとすると、今長に生じた疑念、或いは毀たれ始めた紫桃の信頼が、不協和音と実害を起こし始めたということになるだろう。
そう思いを馳せる藍葉の見守る中で投ぜられた第四球は、インローの際どいところだったが、丹菊はどうにかバットを止め、二つ目のボールカウントを捥ぎ取った。脅威の数値、IsoD.416を記録した彼女の、日頃、歩く為に発揮されている選球眼が、今ばかりは、スタンドへ叩き込むまで斃れぬ為に振るわれている。
投げ返してからしゃがんだ紫桃は、この判定を受け、そのホッケータイプのマスクを覆うように右手を当てて、僅かの間逡巡する素振りを見せていたのだったが、一度頷くと、藍葉を酷く驚かせた。
彼女は、立ち上がったのである。
動揺を見せる今長へ、先立って首を振り、今度こそ有無を言わせぬぞという態度を見せる魔王へ、丹菊は、左打席から振り返って何やら言葉を投げつけており、堂々と一塁へ歩いた三合とは対照的な振る舞いだったが、より言えば、打者の態度のみでなく情況自体も対蹠的だった。先の三合は、彼がどうこうと言うよりも次打者紫桃が見縊られたことによって敬遠された訳だったが、この丹菊においては、彼女自体が酷く恐れられたことによっての敬遠策であり、更に違いを言えば、今回は、一死二塁一塁という好機を与えるのが辞されないというのである。
ツーストライクではバットを振って見たりする訳にも行かず、ふわりとした今長の球を仕方なしに見送った丹菊を見ながら、塁上の藍葉は臍を嚙んでいた。此方もシーズン中紫桃との勝負を散々避けて来た以上、文句は言えないが、しかしこの戦い、彼女の打棒を封印せしめられては、
そう口惜しがる彼は、相変わらず紫桃へ何か述べている丹菊の背中ばかり見てしまい、第六球に備える、今長の異変に気が付けなかった。女房役が立ち上がったままなのにも拘らず、彼は、セットポジションの構えを、真剣に取っていたのである。
一応と言う体で気怠げに構えた丹菊へ、投ぜられるは、佇立する紫桃の、前掛けを目掛けるような速球。ど真ん中。
その絶技と目によって、紫桃は、すぐさま腰を落として捕球コースへミットを差し出す。
しかし、――彼女は、躍りかかっていた。
お前らの考えることなんざお見通しだよ、とでも言いたげに北叟笑みつつ、目許だけは真剣に絞った丹菊と、その向こうで、マスクの中の目を瞠る紫桃。一瞬の出来事だった筈なのに、藍葉には酷く印象に残ったこの光景の中で、小さき勇者の白木のバットが、看破された欺瞞、今長のストライク球を、真っすぐ捉える。
快音を置き去りにし、右中間を力強く翔りて行く白球を見上げた藍葉は、一にも二も無く全力で二塁を目指しつつ、三塁コーチを盗み見た。
――回れ。
そう、忙しない腕の動きで指示を受けた彼は、威勢よく二塁を蹴り、そのまま三塁を真っすぐ目指す。後ろで何が起こっているかは、分からない、知ったことではない。全力疾走中にどうにか窺われる球場の雰囲気からするに、本塁打ではなかったようだが、とにかく、彼は駈け続けた。塁間を七分まで走り抜けると、先のコーチが両手を突き出して制止を掛けてくる。そうか、駄目か。ああ、……折角、値千金のチャンスだったのだが、
「止まんな蹴れぇ!」
後ろから、彼の耳を劈く声。
丹菊の声。
彼は、迷わず三塁を蹴った。
おい、と、叱責するような請願するようなコーチの声を後ろに聞きつつ、彼は、本塁を真っすぐ目指す。そうだ。何を躊躇っているんだよ。俺達は、今、本気の紫桃と戦っているんだぞ。丹菊が、彼女が打ってくれた、此処で賭けずに、……どこで勝負するって言うんだ!
宮咲か誰かからの中継を、本塁の少し手前で受け取った紫桃が、振り向き様、介錯する断頭の一撃のように、ミットを本塁へ振り下ろす。
そのまま、翻りつつ五体を投げ出して来る紫桃の、マスクの中の顔が、ヘッドスライディングに飛び込む藍葉と目を合わせた。互いに、鬼神のような形相で、左手を懸命にホームベースへ伸べつつの落下と突進。破壊の左手と、挑戦の左手。勢いで浮かせ過ぎた藍葉の、白銀のスライディンググローヴが、紫桃の青藍のミットに叩きつけられ、五角形へ一旦釘付けとなる。
しかし、勢い余った彼の体は、魚雷のようにそのまま突き進み、そのヘルメットで、紫桃の横面へ頭突きを喰らわしてしまった。彼女はタッグの勢いによって、胸許を始点とする、独楽のような左回転を描いていた為に、衝撃を半ば受け流すことが出来たものの、それでも、首を無理に捻らされて痛ましい呻き声を漏らす。しかし、そのように痛めつけられても、なお、自身の逞しさと共にそれを誇示するかの如く、ボールを摑んだままのミットを、寝転んだまま高々と掲げたのだった。
そうして雄叫びを上げる彼女を、此方も伏せたままで振り返った藍葉は、絶望的な気持ちで見たのだが、――しかし、
球審の、腕は広がった。
「はぁ!?」
愕然とした表情で紫桃が上体を起こしつつ、ミットの中のボールを彼へ見せつけると、すぐさま横浜からタイムが掛かる。ラミーロが通訳を引き連れてやってくるのを尻目に、藍葉はようよう立ち上がって、次打者の阿辺から一言熱く
彼はそうして、殊勲打を放った彼女と誇らしいアイコンタクトを交わそうとしたのだったが、しかし、丹菊は、その短い背丈と両腕を懸命に伸ばしつつ、沸いた三塁側スタンドへ吼えており、藍葉には全く気が付かないのである。
彼は仕方なしに、苦笑してからベンチへ歓迎されに向かったが、その前にふと、なにとなく、オーロラビジョンの方を振り返った。
四回表。スコアボードに、初めての1が立つ。
結局、衝突プレイや落球の有無がどうこうというよりも、そもそも藍葉の触塁が先であったと
だが、とにかく一点のリードを得た巨人は、士気高く裏の守備へ散らばって行く。藍葉の命じた敬遠を除き、今日パーフェクトを続けている須賀野の球も、ここに来て冴えに冴えた。二巡目の柁谷を討ち取ってからの三番三合には、流石須賀野の好敵手と言うべきか、鋭く引っ張らせてしまったのだが、しかし結局、フェンスへ背を付けつつ見上げた丹菊に、打球は危なげなく摑まったのである。
そんな彼女は、取った球を、ボールボーイへ投げ渡すでもなく自分で握ったまま、本塁の方へ小走りして来る。藍葉がここで、一塁ダッグアウト方向へ振り向くと、紫桃は、次打者円から一歩も動かぬまま、苦々しく友の登板を睨んでいるのであった。
そして、此処の対決でも魔王は、不様な三球三振を喫してしまう。
表の攻防で、クロスプレイ云々の前に、丹菊と共に演じた、卑劣がましい裏の搔き合いに、見事敗れて長打喰らっていた彼女は、露骨に気負いつつ打席へ入って来たのだが、しかし、初球は164キロに掠りもせず、二球目も、外のスライダーをとんでもなく空振った。そして三球目は、外角一杯の際どいコースで、なんとか捕球した藍葉も正直ボールかと思い残念がったのだが、しかし球審は、弓を引いて三振を宣告したのである。
バットを止めていた紫桃は、脣を、屈辱か、瞋恚か、とにかく張り切れんばかりの情感で慄わせつつ、ヘルメットの庇へ手をやった。器量が良いから絵になるな、などと暢気に見上げていた藍葉は、ここで目を剝かされる。
紫桃が、ヘルメットを、本塁へ全力で叩きつけた。
炸音。
「おわ!」と、藍葉が腰を抜かして退き、判定の不満を受けたと感じた球審は逆にむっと乗り出したが、しかし、そんな彼らは、二人して黙り込むことになった。
目を絞って、喰い縛った歯を深刻に慄わせている彼女の顔は、どう見ても、恨みではなく、慚悔を表明していたのである。
その後、目許はそのままに見上げ、魂を吐き出すかの如く、はぁ、と漏らした彼女は、急な脱帽で髪の乱れた頭を少し下げると、失礼、とだけ述べ、ヘルメットを拾って去って行った。
その後、何とか立ち上がった藍葉は、本塁までやってきていた丹菊に話し掛けられる。
「いや、……相当、キてるね。枝音の奴、」
二人でベンチへ戻りつつ、
「まぁ。彼女も色んな意味で、追いつめられてるんだろうけどね。」
或いは、受け手の
ふとそんなことを思って黙り込んでしまった彼の間を、埋め合わせるかのように、
「後一打席、か。……絶対抑えるから、任しといて!」
藍葉は、少しの間の後に苦笑しつつ、
「分かりにくい無茶を、巧妙に言わないでよ。……それ、紫桃に第四打席を回さないって意味だから、残り五回を殆どパーフェクトに抑えろってことでしょ?」
「大丈夫大丈夫、行けるって。あんたと、そして、今日の須賀野さんとならさ!」
こんな粗っぽい鼓舞を、しかし、藍葉はどこか素直に受け入れることが出来ていた。正捕手浴林と相性が良いとされ、そして捕手を指名出来るほどに実績を上げていた須賀野と、シーズン中の彼は、移籍後初試合を除いて全くバッテリーを組めておらず、そこで藍葉は、今日久々に自軍エースを受けていたのだが、こんな素晴らしい球を投げる投手ならば、本当に、このままノーヒット試合すら可能なのではないかと、半ば真剣に思い始めていたのである。
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