12

「全く、今すぐ二人きりで会いたいなんて、情熱的だこと。それも、藍葉君の家でだなんて。」

 招き入れて早々、そうやっていつものように揶揄からかってくる茶畑を、ソファー代わりのベッドへ腰掛けさせてから、藍葉は、懇々と、丹菊の演じた大暴れや、その後彼女が垣間見せた弱さ、そして彼への親愛について語った。最後のものについては、気恥ずかしさと彼女への遠慮から、全く具体性を欠いた大要のみに留めたのが。

 当初退屈げにしていた茶畑だったが、話が進むと目を輝かせ始め、真剣に手帳へ何か書き留めていたので、藍葉が、

「一応言っとくけど、君がだからこそ話したんだから、まるでただの記者みたいに、記事にしたり他言したりしたら承知しないからね。」

 茶畑は、油断なく化粧された顔から口を尖らせると、音高く閉じた手帳を自身の腿へ半ば叩きつけた。

 宙を見上げつつ、

「はいはい、言われなくとも分かってますよ!」

 本当に分かっていたのだろうか、と、彼は訝しみながら、

「で、此処から先が大事でさ。それこそ丹菊に、『他言したら殺すよ』って言われた話なんだけど、」

「何?」

「紫桃の、異能の正体。」

 茶畑は、冷房ですっかり汗を搔いた、藍葉の出してやっていた烏龍茶のグラスへ漸く口を付けていたのだが、彼の言を聞くや否や、それをしたたかにせ返した。酷くきつつ、左手を何とかローテーブルへ伸ばしてグラスは始末したのだが、右手の方では顔の下半分を懸命に押さえており、届かなかった鼻からは逆流した茶が流れ出て、不様極まりない様相となっている。さぞかし爽やかな中国茶の香りを、嫌みったらしく感じているのだろうな、と、藍葉は思った。

 彼の手渡した、花紙を受け取りながら、

「憶えでなよ、藍葉君、」

「……知らないよ。」

 顰め面で、未だ噎せながら顔や手を拭いつつ、

「で、……藍葉君、マジ? 本当に、(げほ、)紫桃の異能のことが分かったの?」

 落ち着いた色のルージュが付着した花紙を見て、トタンの赤銹のようだなと、藍葉は感じながら、

「うん。多分、かなり正確に。」

「そっか、」彼女は未だ渋面であったが、その原因は、今演じた不恰好よりも、自責や恥じ入りに移ろうていた。「そうだよね。丹菊なら、紫桃のことを何でも知っていて良くてさ、そうしたらつまり、……チームメイトくらいの信服を彼女から得られれば、そうやって単純に聞き出せたのか。あー、……なんか、馬鹿みたい。こんなことにも気付かず、これまで何万年も、私達、」

「一応、横浜に入るのは大変な偉業だったのだし、更にそこから奇跡的なまでの信頼を彼女から得られたからこその成果だったんだよ、別に簡単ではなかったんだよ、……って、言い訳というか弁護はしておくよ。」

 茶畑は、もう諦めたのか、ブラウスに付いた茶を面倒臭そうに花紙で叩きつつ、

「ま、確かに、どうせの世界観に全くそぐわない話なんだろうし、頭おかしい奴と思われる可能性考えたら、よっぽどの相手にしか話してくれないよね。或いは、紫桃との間にも、秘密を守ることによる友誼も有っただろうしさ。」

「……そっか、それと、心臓の件とで、彼女らの中では等価の交換になっていたかも知れないね。」

 すると、丹菊が自分へ色々話してくれたことには、自分藍葉が彼女の方だけの秘密を知ってしまっており、よって、紫桃のそれも垂れ込めねば釣り合いが破れるではないか、という、あまり道理の通らなそうな危惧も有ったのだろうか、と、藍葉が思っていると、茶畑は、彼へぐっと近い位置へ、勢いよく座り直して来た。

「でさ、」ベッドのスプリングによって上下している、前のめった顔は、湿りつつも爛々と、達成の喜びと好奇に輝いている。「教えてよ、ピーチ姫の秘密。」

「あ、うん。……端的に言ってしまえば、直感応テレパス系だね。」

直感応テレパス!」

 そう叫んでしまってから、はっと、口を押さえる茶畑へ、

「ね? 表で会わなくて正解だったでしょ?」

「……うん、そうかも。」

「まぁ、ウチは狭いけど、壁は分厚いからお構いなく。

 それで、そう、紫桃は、受信系の直感応テレパスのようなんだ。ただ、僕が今直感応テレパスと付けたように、少し変種で、思考や記憶、情感だけでなく、随不随に拘らず、躰の動きまでどうなるか予測出来てしまうらしい。

 つまり例えば、……まぁ、制球ミスも含め、どんな球がどんなコースで来るのか、投手からして予測出来ちゃう訳だよね。」

「それが、〝ハマの大魔王〟の秘訣?」そう、茶畑は反射的に述べてから、「確かにそう言われてみると、打撃以外も色々説明は付くんだよね。あんま強くない肩の割に、一線級、四割前後の盗塁阻止率、アレも、相手が走ってくるのか来ないのか、常に分かるからだったってこと? 走者の思考を、して?」

「或いは、一塁コーチからもしていたかもね。ベンチの方は、捕手をやりながら覗くのは難しかったろうけど。」

「……あー、対象へ顔を向けないと駄目なタイプ?」

「っぽい。丹菊曰く、だけど。

 で、本当に、色々説明出来ちゃうんだよね。例えば盗塁阻止以外にも、防禦率を1.5前後低下させてしまう、奇跡的なリード術は、実は、打者の狙い球を常に把握していただけだったんだと思う。投手には失投も有るし、狙い球を絞らない打者も居るから、ノーラン試合連発とまでは行かないみたいだけどね。」

「えっと、じゃあ何? ぺちゃくちゃ喋ってバッターへ駆け引きを挑んだり、集中を途切らせたりって言う、キャッチャーボックスでの小細工、あれ、ピーチ姫なりの目眩しだった訳? 本当は全然必要ないんだけど、不自然な守備成績の説明付けを与える、みたいな、」

「それも有るだろうし、実益も有ったんだと思う。つまりさ、色々話しかけた方が、思考を読んだり制禦せいぎょしたりしやすいよね。例えば、『インコースにしようかなー、どうしようかなー、』って呟くだけで、心的反応から、打者の狙いや苦手意識を把握しやすくなるんじゃないかな。

 そして今思うと、あの、人懐っこさも狙いが有ったんだろう。試合前に相手選手へ絡んで、性格とか打撃への姿勢を知られれば、捕手としてどう攻めるべきなのか組み立て易いしね。」

「あ、」そう呟いた茶畑は、スマートフォンをってから、「……やっぱ、そうだよね。言われてみるとさ、紫桃がTwitterでツーショット写真あげている相手って、東京山多とか西武那珂村、成る程、強打者ばっかり、」

「写真撮影は無くとも、話しかけに行く相手は、やっぱり花形打者が多かったよね。何せ、初試合で早速、巨人の坂元と叢田が絡まれたのだし。」

「あー、そっか。確かにそうだったね。そういう、特に気をつけないといけない打者の情報を、重点的に集めてたのか。……叢田の方は、今シーズン始め不調だったからちょっと不思議だけど、紫桃が横浜ファンを自称していた手前、特に抑えたかったのかな。」

「かも、しれないね。

 で、こういうことを可能にしている紫桃の社交性は、逆に、その、直感応テレパスとしての力を利用していたんだと思う。だって、投手陣を散々破壊しつつ一勝も許さない、最悪の敵を演じている中で、誰も彼も打席や試合前のお喋りに応じてくれるだなんて、ちょっと尋常じゃない。多分、思考をカンニングして、都度、相手にとって好もしそうな言葉を吐いていたんじゃないかな。」

「うわぁ、……良い性格してるなぁ。」

「両輪のごとく、って感じだよね。直感応テレパスの力で可愛げを演じ、そうした可愛げを活用して、逆に直感応テレパスによる有利を確乎たるものにしているんだ。」

「ますます、良い性格、」

 そう毒づいた後、茶畑は急に顔を上げて、

「ちょっと待ってよ藍葉君、こんな話、聞かされると不味いんだけど!?」

「え、何が?」

「いや、だって私、紫桃の番記者みたいなもんなんだよ? 或いは、そういう役目を演じているんだよ? 『此奴良い性格してるんだよなぁ、』みたいな思考読まれたら、記者としても、藍葉君の同僚としても、商売上がったりというか、」

「ああ、それは大丈夫。……というか、これまででも茶畑さん、心中を読まれていたら紫桃には嫌悪されていた筈でしょ? 『自分たちは上位次元の者で……』、みたいなこと読み取られたら、普通、気がれていると思われてお終いだよ。」

「確かに、そうはなってないけど、」

 目を、ぱちくりさせた茶畑が、

「というか、それってまるで、」

 藍葉は、深く頷いた。

「そう。かつての生涯で、僕が紫桃の番記者だった時が、正しくこうだったんだよ。君はよく、僕を、記者としての才能が皆無だと評してきたけど、実際にはそういう問題じゃなかったんだ。きっと彼女は、僕の思考を読んだ結果、妄想癖か精神分裂者の襲来だと思って、球団から僕への出禁を命じさせていただけだったんだよ。

 つまりさ、僕は紫桃に思考を読まれていた訳だけど、君は、決して読まれないんだ。」

「ああ、……何か、直感応テレパスとしての『条件』が有るの?」

「その通り。」

「でもさ、いや詳しくは知らないけど、でも、沖縄キャンプでの藍葉君って、普通に紫桃と仲良くして、そして、今も遣り取りしているんでしょ? ということは、頭の中読まれていないんじゃないの?」

「それなんだけど、……奇蹟だったんだよね。」

「は?」

「紫桃が直感応テレパスとしての力を発揮するには、二つの条件が有るらしいんだ。一つは、対象の性別。男の精神は読めるけど、女は全然無理。」

「成る程。それなら、私の無事と、過去の藍葉君の悲劇は分かるよね。それに、町田時代の紫桃が今一だったのに、NPBに入ってから、つまり相手が男になってから国士無双になったのも、説明出来るのか。

 ……でも、の、沖縄で彼女と散々対面した、藍葉君が読まれていないのは?」

「それが、二つ目の条件。紫桃は、関東近郊でしか力を発揮出来ないらしいんだ。」

「あ、」茶畑は、反射的にそう叫んでから、「なに、じゃあ紫桃がやたら遠征嫌がるのって、そういうオチ!?」

「うん、……毎恒例の、彼女の、福岡ドームオールスター戦での醜態って有るじゃん? ようは関東外から出されると、直感応テレパスの力が発揮出来なくてああなっちゃうらしいんだよね。それで、息子の存在を言い訳にして、遠征を断っているらしいんだ。オールスターだけは、球団と言うよりNPBによるペナルティが有るから、已むなしって感じで、」

「へえ、……ほお、ふぅん。」

 そう、唸ってから、

「あー、何で気が付かなかったんだろ。悔しいというか、恥ずかしいというか、」

「と言う訳で、今の僕が紫桃から嫌われていないのは、奇蹟だったんだよ。本当に、助かった。……ちょっと運命が違っていたら、例えば僕がバチバチに一軍ベンチに定着していたら、何もかも台無しになっていたかも。」

「あ、そっか。藍葉君がめっきり紫桃と会っていないのって、君が、紫桃の出場してくる、関東の一軍試合に喚ばれていないからだったのか。」

「普段のならそれでも諦めが付くけど、……今回は、本当に大事にせねばならなかったからね、良かったよ。」

 茶畑が、前のめっていた姿勢を解いて後ろへ傾いだ。三角定規のように、両腕で上体を支えている姿勢によって、豊かではない胸乳が珍しく存在を訴えている。

 そうした姿からの、溜め息の後、

「本当、ついてるね。塞翁が馬、って言葉、この世界に有った気がするけど、正しくそれだよ。君が三番手四番手の捕手だったからこそ、今日まで何とかなった訳だ。」

 意地が悪い言だな、と藍葉は思ったが、

「でさ、これからどうするとか有るの? 藍葉君、

 取り敢えず、デイジーちゃんの切ない気持ちは、この曝露で半ば裏切っちゃった訳だけど、」

「……これこそ、意地が悪いね。」

「? 何の話?」

「ああいや。とにかく、折角だから、はこのまま破綻の回避を目指したいと思ってるんだ。こんなにも改変されてしまった展開から、クリエイターの意に沿う物語、或いは、世界が拓かれるのかは怪しいけどね。」

「破綻回避? 勿論面白いと思うけど、どうやって?」

「まず、もうじき僕が丹菊と、何処かへ移籍することになる訳じゃん?」

 これまでの周回数を、惜しむような溜め息の後に、

「勿体ないけど、そうなるよね。巨人か東京かな?」

「で、そこから、……日本シリーズに進出するんだよ。」

 再び、茶畑が噴き出した。先程のような、驚愕に因るのでなく、愉快に強いられた噴射ことを明らかにするかのように、彼女は笑顔で腹を押さえている。

 直に、憮然とした様子の藍葉に気付いたが、「御免御免、」と、御座なりに詫びてから、

「そうか、そうだね。君が巨人だか東京だかを優勝させれば、ピーチ姫と黒瀬の、日本シリーズでの対決は無くなるね。明快で良い感じの方法だけどさ、でも、……可能な訳?」

 藍葉は、むすっとしたまま、

「優勝する必要は無い、クライマックスシリーズを制すればいいだけさ。」

「あ、そっか、御免御免。……でもさ、出来るの? 試合に出ることすら覚束ない君が、移籍先、つまりウェイヴァーのルール上最下位かブービーくらいの球団を、そんな栄冠まで導くだなんてさ。」

「希望は、一応有るんだ。僕というより、丹菊だよ。」

「……ああ、そっか。あの難打者を受け入れれば、確かに得点力は上がるよね。守備も上手いし。」

「しかも、巨人か東京なら、本来横浜に全敗する球団なのだから、横浜が丹菊を失って弱体化してくれる恩恵も大きいよ。」

「大きいだろうけど、……ちょっと、正直それって誤謬じゃない? だって、そもそも他の球団なら、25%くらいはもともと横浜に勝ってきているのだから、横浜が弱体化しようがすまいが、相変わらず巨人や東京なんかよりずっと有利でしょ? 既に済んだ勝敗数は、消えたりしないんだからさ。」

 藍葉は、この正論に応ずる代わりに、次の弾を切り出した。

「それだけじゃないんだ。丹菊はNPBで唯一、横浜に、というか、紫桃に対抗出来る打者なんだよ。だって、……彼女は、女性なんだから。」

「あ、……そっか。丹菊だけは、紫桃の、神業リード術に捕まらずに済むんだね。」

「そう。彼女が居れば、紫桃の無敗伝説に傷を付けられるかもしれない。その気になれば、ファールだけじゃなくて前にも飛ばせるみたいだしね。」

「ええっと、ちょい待ち、」

 茶畑はそう言うと、端末を忙しそうに操作した。

「んっと、今日の試合終わってのデイジーが――ああ、丁度今日四球の日本記録更新したんだっけね――、76試合で打率.126の70三振だけど、160四球で出塁率.538、盗塁成功25の失敗3、併殺1、OPS0.72で、今のRC27が、……9.0。」

「……良い意味か悪い意味で、悍ましい数字ばかりだね。」

「OPSだけは、打ち消し合ってまぁまぁくらいになってるかな?

 で、対する紫桃――こっちは今日、本塁打記録更新したんだよなぁ――が、規定未達だけど、47試合で61本、打率.478、出塁率.602でOPS2.32、盗塁は12回パーフェクトで決めているから、RC27が、……ええっと、34.5かな。」

 堪らずに、苦く噴き出してしまってから、

「まだ、OPSが2を超えているんだ。……化け物だな。」

「五月頭の紫桃は打率六割弱の出塁率七割弱だったから、これでも、一割ずつ下がってんだよねぇ。

 二人共少しずつ攻略されてきたり、或いは紫桃は最初の三試合で10本打った分の貯金が無くなったりして段々低下しているけど、やっぱ凄いね。この上で柁谷、三合、ラペスが居るんだから、そりゃ、横浜首位独走するよ。防禦面だって、寧ろセリーグトップクラスなんだし。

 で、ここからの丹菊が離脱してどうなるか、かぁ。……そりゃ、意味が無いとは言わないけど、でも、やっぱ紫桃がヤバ過ぎるよね。」

「ペナント優勝はしなくて良いからね、とにかく三位に浮上して、あとは何とか気合で、」

「気合、ねぇ。」茶畑は、そう、藍葉の口走りを一笑してから、「藍葉君も、野球屋らしくなってきたってことかな?」

「そうは、あまり言われないけどなぁ。丹菊も、僕が野球選手らしくないからこそ、近しくしてくれているようだったし。」

「……そうなの? まぁ一応、とにかくは応援するよ。でも、クライマックスシリーズの決勝って、間違いなくあの青い屠殺場での六連戦だから、相当キツいだろうけどね。」

「ああ、」藍葉は、つい軽く頭を抱えてしまいつつ、「そうか。あの横浜スタジアムが、今度からは敵の本拠地になるんだよな。しかも、紫桃が絶対に居るというオマケ付きだ。」

 「待ってるゾ」という、巫山戯た紫桃のメッセージが、藍葉の脳裡に想像された。

「御愁傷様。一応望みが有るとすれば、移籍先が巨人だったとして、君が打ちまくるとかかな? 正捕手の浴林、打撃は今年も良くない上に死球で離脱したりしているから、そこが埋まれば、丹菊も合わせて一気に打線が強くはなるよ。勿論、捕手として相応に守れるのが前提だけどね。」

「うーん、……まぁ、精進するしかないかな。」

 こう藍葉が述べると、矢庭に茶畑が、さて、もう充分話したよね、と言わんとするかの勢いで立ち上がった。そうした彼女は、自分の茶色く汚れたブラウスを引っ張って、見よがしに顔を顰めつつ、

「何か、うわっぱれる物借りれる?」

「ああ、うん、」

 戸口へ向かっていた彼女へ、藍葉が追いついてジャージの上を渡してやると、

「ありがと。ところで、一つ、まだ分かってないんだけど、」

「何?」

 捩れていた袖を、えいえい、と通しながら、

「プロ野球選手の藍葉奏也君に、訊きたいんだけどさ、

 ピーチ姫が、相手の投げる球を予測しつつ、あのとんでもない打撃成績を上げていると言うのは分かったんだけど、でもさ、だからって、72安打中の61本が本塁打、11本が二塁打というパーフェクト長打、そしてそもそも、スウィングすると毎回レフト深いところへ運んでいて、ゴロも内野フライもファールも空振りも無い。そんなことって、幾ら投球コースや球種が予測出来たからって、可能なの?」

 藍葉は、首を振った。

「普通は、不可能だね。だから、この世界のクリエイターは多分、異能を与えるだけでなく、同時に、彼女を本物の打撃の天才にしたんだと思う。比較的非力な打者でも、全球フルスイングしていれば幾千回に一回くらいは本塁打に出来るだろうけど、そんな奇蹟を、コースさえ分かれば毎試合起こせてしまう。そういう天才が、あの紫桃なんだ。」

 妙竹林な恰好になった茶畑は、食傷したような顔で息を吐いてから、ノブを回し、

「随分、設定過多でお腹一杯なキャラクターだこと。」

 そう言って、横浜の夜へ消えて行った。

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