【新稿】おまけの章【1】『天然少女萬』3作



●「天然少女萬」(映画版)(96)


 ここから先は、旧版では収録できなかった作品を取り上げていく。

 まずは、『天然少女萬』の劇場版。これが旧稿で取り上げられなかったのは、なかなか手に入らないから、だったが、執念で見つけた。

 この映画をひと言で言うと、主人公・香田萬(矢部美穂)がパンチラを見せながら、男を蹴り倒していく映画、としか言いようがない。

 ギャンブル狂の父(大河内浩)が残した(遺した、ではない。失踪しているが、萬の周りを密かにつけている)借金を返すために、萬は新聞配達、クラスメイトで貧乏人の加治屋(北村康、即ち若き日の北村一輝)と同じファミレスで働き、夜は共同風呂で汗を流す所を、アパートの男たちにのぞかれているが、レディースの総長を倒し、……。

 とまあ、延々と話は続くのだが、三十分も見ている内に、話に起伏がないもので、飽きてくる。さまざまな要素が散漫にからまりあいなく続くので、どこを見ていればいいのか、分からないのだ。

 まあ、矢部美穂のファンなら、生理的に受け付けないシーンもないし、がんばってパンチラをご披露している矢部美穂の姿に涙するのもいいのだろうが……。脚本・金子二郎、監督・橋口卓明。


●「天然少女萬」(TV版)(99)ポニーキャニオン、WOWOW


 女の子がどつき合いする以外、ほとんど何も描かれない映像作品を、好きこのんで金を出し、DVDを買うような人間が、どこにいるのか……と思ったのだが、ここだよ、ここにいるじゃないか(自爆)。

 で、『天然少女萬』というのはこしばてつやの漫画なのだが、このTV版では、「アイドルドラマの常識を覆したあの伝説の作品が、完璧にDVD化!」とジャケットに書いてある。大した自信だ、と思うが、このジャケットには、ドラマに出演する十六人の少女が写っている。これは……と思いながら見ていると、案の定、誰がどれだか分からない。

 集団劇としては、『キイハンター』でも九人のメンバーの内、三人は本部にいて後の六人が闘うようになっている(ときどき、本部のメンバーが出張ってくる)し、『サイボーグ009』でも、九人のサイボーグのうち、ほとんど活躍しない員数合わせ、と言いたくなるほど地味なメンバーが最低ふたりはいる。『秘密戦隊ゴレンジャー』ですら、ミドレンジャーはおそろしく地味だ。

 ましてや、十六人ともなると、顔を覚えるのすら難しいレベルであり、結局私も、主役の萬こと松田純と、『千年王国三銃士ヴァニーナイツ』で活躍した永井流奈しか覚えられなかった。

 主役がそういう具合であるから、物語は、第1話「スペイン坂激闘篇」、第2話「公園通り逆襲篇」、第3話「渋谷結線篇」の、本編合計二百十四分のほとんどで、女子高生たちが渋谷の覇権を握るためのどつきあいに終始する。物語が動くのは、第3話に入って、萬が加治屋(袴田吉彦)との愛情に目覚めてからで、それもあっけなく終わってしまう。

 いくら監督が三池崇史だからといって、十六人の女子高生をさばけるはずもなく、それどころか三池崇史の資質さえ疑わねばならないようなドラマだが、まだアマゾンで手に入る作品なので、深追いは避けたい。ネタバレするのが怖いわけではないのだが、私のバイアスがかかった評価が定着すると、問題があるからだ。


●「天然少女萬NEXT」(99)ポニーキャニオン、WOWOW、電通


 なんだかんだ言って、「天然少女萬」はそれなりの評価を得たようだ。私も、さるミステリ作家の大物に、「早見君、少女ヒーローって、『天然少女萬』も入るの?」と訊かれたことがある。(「もちろんです」と応えた。

 その成功を買ってなのか、作られたのが『天然少女萬NEXT』である。これは、原作を読んでいないので何も言えないのだが、「設定&キャスト一新!」とジャケットにあり、更に「禁断のホラーアクション!」ともあるので、オリジナルストーリーなのではないか、と思う。

 今回の女子高生は十三人。うち、私が覚えられた(と言うより前から知っていた)のは主演の酒井彩名の他に、山川恵里佳、安めぐみの三人だった。

 で、「ホラーアクション!」の件だが、この作品は、そのジャンルとしては大規模な、本格的なヴァンパイアものなのである。舞台を渋谷から横浜に移し、女子高生たちを文字通り食い物にする吸血鬼集団と、萬たちとが闘う、珍しいドラマだ。

 前作でも多少はあったパンチラも、ほとんど影を潜めて、戦闘に終始するドラマは、見ていて気持ちがいい。

 ただ、前作との関係で言うと、こういうドラマに慣れない人は、前作も本作も、見ていて違いが分からないだろうが、その違いが分からないのは、『スケバン刑事II』と『花のあすか組!』(TV版)の違いが分からない人であり、それを説得できるか、というと、まだ自信がない──と言っているうちに私も六十になってしまったのだが、その違いが分かる人間であり続けたい。

 とにかく、この作品が撮られたことで、私は三池崇史監督と、『陰陽師II』の脚本(合作)・江良至を見直すことができた。めでたきかな、である。


(この節、終わり)

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