第六節の2 テレビのつみきみほ(2)
●テレビのつみきみほ(二)
八九年の『わたしは武蔵』は、中部日本放送が制作したスペシャルドラマで、東京では日曜の昼に放送された。剣道の強い粗暴な少女(またか、とお思いでしょうか)が、根っからの風来坊である父・伊東四朗の生き方を理解していき、剣道も強くなっていく過程で、剣道の歴史などのノンフィクションがからむ、という構成はいいのだが、「犯す」(レイプの意味での)という言葉が頻繁に出てくるのには辟易した。脚本・佐々木守。
九〇年の『小春日和 インディアンサマー』は、ややコミカルな二時間ドラマで、つみきみほは、上京してきた女子大生として、母の妹で作家の大原麗子の元に転がり込む。つみきみほの役柄はいいのだが、セクハラやゲイといった当時としてはまだ世に周知されていない問題を扱う、その描き方が非常に不快、早い話がもの珍しさを強調して、半ばからかうかのように取り上げられているのである。少なくとも現在に通じるドラマではない。なんでこんな話を、と思っていたら、金井恵美子という純文学者の小説が原作だった。ブンガクならご自由に。
九一年の『昭和の説教強盗』は、実話を元にした昭和初年の話だ。片岡鶴太郎が、世間を騒がせた説教強盗に扮するが、つみきみほは、彼が刑務所で出会う、思想犯(昔は、社会主義思想を持っているだけでつかまったのです)の女性として登場する。後に出演する『新・唐獅子株式会社』の前田陽一が監督を務めている。かなり長い時間をとって、つみきみほの役が丹念に描かれている。
同年の『離婚仕掛け人が走る』は、市原悦子が離婚調停専門の弁護士を務める話で、つみきみほは市原悦子の娘として登場する。素っ頓狂な声の親子だ。普通の役なのだが、この二人は相性がいいのか、その後『女引っ越し屋』シリーズでも親子として共演している。
また、同年の『市川準の東京日常劇場/放浪癖の妹』は、数分のミニドラマである。眼鏡を掛けた、いかにも固そうな姉・田中裕子の元に、家出をした妹のつみきみほが転がり込んでくる。二人の、ぼそぼそとした東北訛りの会話が、独特の雰囲気を出している。
九四年の『廻る殺人』は、佐野史郎が、ふだんは和服を着て観葉植物をかわいがっている、変わり者の刑事として主演する二時間サスペンスだ。つみきみほは、少年課から配属になったばかりの新人刑事を務める。役としては比較的普通だが、事件そのものが凝っているので面白い。佐野史郎に協力的なつみきみほと、すぐつっかかる西村和彦の刑事トリオの取り合わせも面白いので、シリーズ化する気があったのかもしれない。
ドラマ以外でも、つみきみほは九〇年代に、バラエティ番組にいくつも出演している。90年には深夜番組『でたらめ天使』のレギュラーとして、高嶋政宏・みのすけらとコントを演じた。内容を紹介したいが、ビデオテープがかびて見ることができないのは残念だ。
また、正確な年代が分からないが、タモリのバラエティ番組『今夜は最高!』にも出演し、あの『ソバヤ』*を「歌って」いる。やはり異能の人である。
面白かったのが、八八年に、フジテレビの日曜8時から放映された『ニュースバスターズ』である。露木茂、猪瀬直樹といった出演者による硬派のニュースショーで、つみきみほは、こういう番組にありがちなマスコットとしてキャスティングされたと思うのだが、あまりに発言が鋭いので、ついには彼女もコメンテーターの役割になってしまい、本来コメンテーターである四方義朗*のほうがマスコットみたいになってしまった。
九五年の連続ドラマ『輝け隣太郎』*の後、つみきみほは休養に入る。翌九六年に結婚し、すぐに産休になったのだ。彼女に心酔する私は、動揺……しないわけはない。これでもう自分のものにはならないのだなあ、と淋しさに暮れたのだった。身勝手な思い入れでしかないが、当時は大真面目だった。そういう経験にも意味はあると、いまは思うが。ストーカーになるわけでもないし。
この産休は、長く続いた。というのは、子どもが二人産まれていたからだ。その間、二時間ドラマなどにちょっと出演するぐらいで、私はつみきみほをほとんど見ることができなかった。
*古尾谷雅人――『丑三つの村』での狂気に充ちた演技から、『教祖裕子の憂うつ』に見られる温かい役柄まで、できない役はないのではないか、と思ったほどの名優。
*『ソバヤ』――タモリの初期の持ちネタ。「アフリカ民俗音楽」と称する、架空の言語・ハナモゲラ語による即興音楽。
*『輝け隣太郎』――唐沢寿明主演のドラマ。唐沢寿明の同僚で仕事もばりばりできる彼女・つみきみほが途中で事故死し、家庭的な江角マキコと新たな恋愛が始まる、という、つみきファンの神経を逆撫でする物語だった。
*四方義朗――ファッションプロデューサー。今ひとつ職業がつかみづらい。『野生の証明』ではテクニカルアドバイザー、『蘇える金狼』ではスーパーアドバイザー、『悪魔が来りて笛を吹く』では音楽プロデューサー、ってだからいったい何の職業なんだ!(半ギレ)
(この節、続く)
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