第二章の7 『ハイキック・ガール!』
●『ハイキック・ガール!』(〇九年)デジタルハリウッド・エンタテインメント、メーテレ
武術映画を撮っている西冬彦の監督・脚本(は木村好克との共作)による、本格アクション映画である。
この映画には面白い趣向がある。例えば主役の土屋圭(武田利奈)が敵にハイキックを浴びせて倒すのが、一秒とかからない。と、いまの立ち合いをスローモーションでもう一度、見せてくれるのである。私はアクション映画のいい観客ではないが、この試みには、乗った。アクションをフィジカルに見せてくれるからだ。
映画は冒頭、人がビルから蹴落とされる所から始まり、一転して圭が国誠館大学空手部の黒帯を取るべく、「道場破り」(道場ではなく神社の境内だが)をするシーンへつながる。監督は、圭の強さを見せるには、どう撮ればいいか、よく分かっている。
圭の師匠、松村善明(中達也)は言う。
「相手と強さを比べるためではない。人に技を見せるためでもない。ひたすら、基本の技を繰り返し、体の使い方を変えていく。それが型の稽古だ」
「どんな状況、どんな相手でも、必ず守る、必ず生き残る。それがほんとうの強さ、ほんとうの空手だ」
こうして、型稽古を執拗なまでに繰り返す師匠に、圭は反発する。
「実戦で型とか使えないでしょ。っていうか、ピストルとか刀と闘うなんて、ありえない。意味分かんない」
『少林少女』の、「型ではない、心だ」、が頭で考えた台詞であることが分かるだろう。型を極めることによって、心が生まれるのである。
どうしても、師匠に自分の強さを証明したい圭は、金のために人を「壊す」壊し屋のテストを受け、合格するが、松村に恨みを持つ壊し屋のリーダー(誰がどれなのか分からないので、漠然と「リーダー」としておく)は、圭を拉致する。松村は、壊し屋のアジトへ向かう。ここからラストまでの三〇分、松村と壊し屋一味とのアクションが続くのだが、先に述べたような「解説」や、実際の格闘家が繰り広げるアクションの凄みは、私を飽きさせなかった。そして、迫り来る敵を倒す松村を見て、圭はハッとする。「全部、型の動き!」。そして松村は、その型の動きで、ピストルを持った敵を倒し、またしても圭のことばを覆す。
私がこの映画に好感を持つのは、松村が自らの信念、即ち、型の大事さを、そして人を守ること、生き残ることを、あくまで行動で見せた所にある。結果、圭は白帯からやり直し(当初は茶帯だったので、相当強い)、師匠は弟子の姿に、「土屋、強くなったな」、と言う。
この映画には、琉球武術の格闘家が参加しているらしく、劇場で、歓声を上げている一団がいた。しかし、武術をやっていなくても、そのカタルシスと「正論」は、観客に充分、届くものだった、と言える。
ゼロ年代においても、少女ヒーローの魂は、消えずに残っている。その火を大事にしたい。
さて、本書を終える前に、どうしてもご紹介したい、少女俳優がひとり、いる。もともとこの本は、彼女について語りたくて書き始めたのだ。
その名は、つみきみほ。最強のジャンル女優である。
(この章、終わり)
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