第二節の4 実写『地獄少女』

●実写『地獄少女』(〇六年一一月~〇七年一月)


「深夜〇時にアクセスできる地獄通信。ここに、晴らせぬ恨みを書き込むと、地獄少女が現われて、憎い相手を地獄に堕としてくれる。……子どもたちの間で広まった都市伝説のような噂は、実はほんとうだった。」。

 オープニングのナレーションである。

 怨みを持つ者が、インターネットのサイトで〇時にアクセスし、憎い相手の名前を入れると、「あなたの怨み、晴らします」の文字が表示と共に、相手の名前を書く欄が現われる。入力すると、「受け取りました」と地獄少女からメールが届く(このメールは、ない回がある)。そして、この世ならぬ空間(黄昏の草原で、樹が一本生えている)で、地獄少女こと閻魔あい(岩田さゆり)が現われて(これも省略される場合がある)、赤い糸を結んだ、黒いわら人形を渡してくれる。

「受け取りなさい。……あなたがほんとうに怨みを晴らしたいと思うなら、その赤い糸を解けばいい。糸を解けば、私と正式に契約を交わしたことになる。怨みの相手は、速やかに地獄へ流されるわ。……ただし、怨みを晴らしたら、あなた自身にも代償を支払ってもらう。人を呪わば穴二つ、契約を交わしたら、あなたの魂も地獄へ堕ちる。極楽浄土へは行けず、あなたの魂は痛みと苦しみを味わいながら、永遠にさまようことになるわ。後は、あなたが決めることよ」。

 そして、被害者は、更に酷い目に遭って、ついに糸を解いてしまう。あいの部下・輪入道(小倉久寛)の声で、「怨み、聴き届けたり」と声がして、わら人形は飛んで行く。

 そこから骨女(杉本彩)、一目連(加藤和樹)、輪入道の報復が始まる。それでも加害者は反省の様子がない。そこへ、地獄少女・あいが現われる。

「闇に惑いし哀れな影よ。人を傷つけ貶めて、罪に溺れし業の魂。……一辺、死んでみる?」

 そして加害者は、あいの漕ぐ舟で、三途の川を渡っていく。

 実写版『地獄少女』の基本フォーマットである。そろそろ、私が何を言うかお分かりかもしれないが、……長い。サンプルを抽出して測ってみたが、六分四〇秒あった。

 実写『地獄少女』の、第一の問題点はここにある、と私は思う。三〇分ドラマでは、各話のエピソードに時間を割くべきだ、と思うが、正味、約十九分で語れることは、あまりに限られている。なので、各話が物足りない。

 第二の問題は、悪役を「地獄に流す」に足るものとするため、ちょっと我慢できないぐらい、酷いものにしていることにある。第二話で、青年の父を自殺に追い込んだ支社長(神保悟志)は、その青年にこんなことばを投げかける。

「ただ静かに(生きていたかった)ね。お前みたいな甘ったれがいるから、日本経済は駄目になったんだよ。生きるって言うのはな、競争なんだよ! お前のおやじは弱いから間引きされたんだ。……あ、そうだ。いっそのこと、お前も首つって死んだらどうだ。使えないバカ親父と一緒の墓にでも入れよ。姉さん泣いて喜ぶぞ。やっと引きこもりの弟から解放されたってな。ハッ、ハハハ」

 勧善懲悪のドラマでは、悪人が悪ければ悪いほど、善が引き立つものだが、ひどい、と悪い、は違う。悪には悪なりのロジックがあって、初めて善との闘いが成立する。が、ここではもう、加害者の台詞はロジックを超えた、嫌悪しか催さないものだ。

 そして、最終話では、こんなやりとりがある。

輪入道「人はなぜ怨みを抱くのか」

骨女「抱いた怨みを晴らしてみても、再び怨みは湧いてくる」

一目連「お嬢のつとめに、終わりはあるのかな」

骨女「因果だねえ」

輪入道「ま、それが人間てもんか」

 人間てもん? 彼らはヒーローにでもなったつもりか? 地獄少女は人間の味方なのか?

 そうです、と言われたら、とりあえずその点については引き下がらざるを得ない(嫌悪を感じながら)。しかし、更に大きな問題が待ち構えている。あいの決め台詞、「一辺、死んでみる?」である。

 この台詞は、原作となったアニメ版でも使われているが、いずれにせよ、あいが「一辺、死んでみる?」と言ったとき、加害者はもう三途の川を渡っていて、地獄へ流されることが決まっているのだ。死んでみる? も何もないではないか。

 こんな風に人を裁く資格が感じられない。というか、これは現実の異常犯罪者の台詞だ。

 そして、加害者が三途の川を渡った後、怨みを晴らした被害者の胸には、地獄少女の印を形取った刻印が現われる。それがつまり、本人も地獄へ堕ちる印、ということなのだが、被害者たちは、みな晴れ晴れとしたようすなのだ。地獄の怖ろしさは、まるで忘れられたようである。

 というか、被害者も加害者も地獄に堕ちるのなら、そこにハッピーな要素は一片たりとも感じられない。これは文字通りの復讐譚で、あいたちはその手先に陥ってしまっている。

 あいがすっ、と右腕を挙げる動作、三途の川にかかった鳥居、サブタイトルの字体など、この作品はテレビ『吸血姫美夕』に似ているので(特に「パクり」だ、などとは私はまったく思わない)、評が辛くなったかもしれないが、現代において、人間が間接的とはいえ、人間を殺すことをカタルシスとして語るとは*、ホラー作家の私も、思いもよらなかった。



*人間が人間を殺すことを~――これが『必殺』シリーズならなんの問題もない。時代劇は、こうした「幻想」としての、共通理解の上に成り立っている。


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