第二節の2 『あずみ』『あずみ2』

●二節の四/『あずみ』(〇三)『あずみ2』(〇五)


(ご注意・「あずみ」「あずみ2」の詳細に触れています)


 女性が主人公で活躍する時代劇には、釈由美子主演の『修羅雪姫』などが先駆けとしてあるが、例えば『修羅雪姫』で釈が扮する雪は二〇歳、実年齢が二五歳なので、敢えて取り上げず、『少女』と設定にある『あずみ』二部作について書くことにした。

 第一作の『あずみ』は、『愛・旅立ち』の山本又一朗のペンネーム・水島力也と桐山勲の脚本、『ゴジラFINAL WARS』『ルパン三世』の北村龍平が監督した。当然というべきか、プロデューサーは山本又一朗である。

 主人公のあずみ(上戸彩)たち十人の若者は、幼いときに親を亡くしていたのを、爺(原田芳雄)に素質を見出され、山の奥深くで刺客としての修行を積んでいる。一見、苛酷な運命だが、刺客とは何か、いや、人の死とは何かを知らない彼らは、無邪気そのものである。

 いよいよ刺客の使命を果たすため、山へ降りるその早朝に、しかし、爺は告げる。

「(前略)よく聴け。この先、お前たちに与える使命は、全て苛酷を極める。刺客というものは、殺す相手を選ぶことはできん。ある時は幼い者を、ある時は人望厚き者も、その使命において、殺さねばならん時が来る。鋼の心を持って鬼と化す、それが刺客の道である。ならば、お前たちに、最後の試練を与える。……斬り合え。いま組んだ者同士、殺し合え」

 いま組んだ者とは、最も仲のいいふたり同士である。こうして彼らは、鋼の心を持った……というのだが、映像だけでは納得できない部分が、私にはある。現に彼らは、豊臣側の家臣・浅野長政(伊武雅刀)を斬り、更に策士・加藤清正(竹中直人)を斬るが、その夜、あずみは言うのだ。

「こないだの長政も、きょう闘った相手も、ほんとに悪い奴なのかな。だって俺たち、斬った相手のこと、なんにも知らない。あいつらにも、俺たちみたいな仲間がいるんじゃないかな」

 私も、そう思う。

 しかし、物語はそこで泣きの芝居も入らず、スピーディーに進む。斬り合いのシーンも、そこから思い直すと、生理的にはついて行けないが、納得はできる。

 さて、清正は影武者だった。その清正と、腹心の部下・井上勘兵衞(北村一輝)は、フリーキーな佐敷三兄弟を、また殺人狂・最上(ルビ「もがみ」)美女丸を繰り出してくる。旅の女芸人・やえ(岡本綾)に惹かれたひゅうが(小橋健児)は、美女丸によって惨殺される。

 この映画で問題なのは、美女丸を演じたオダギリジョー、また、佐敷三兄弟の長男である遠藤憲一が、時代劇に、まったくはまっていないことだ。この時代、まだアイドルだった上戸彩が、刀を差して歩くときの腰の落とし方など、時代劇を一から訓練を受けているとおぼしいのに、美女丸はいいところ、ドロンジョ様並みの演技で、特にヒステリックにわめくとそっくりだ。これにはげんなりした。

 何も、新しい時代劇を作るのに、仰々しい台詞や芝居が必要だ、とは言わない。しかし、竹中直人の、腰のすわった演技はどうだろう。一カットで存在感を示しているのだ。竹中直人は、例えばドラマで豊臣秀吉役を三度も演じた人だ。いまさっき流行った「自然体」とは明らかに一線を画する。

 結果的にオダギリジョーは、周囲の演技とは溶け込めず、「自分だけが目立てばいい」(さすがにそうは思っていないだろうが)芝居に終始している。

 閑話休題。闘いに疑問を抱いたあずみは、ひゅうがの代わりにやえを送って行く。途中、やえはあずみに晴れ着を着せ(それまでは、パンツルックに近い衣装である)、唇に眉を引いて、あずみの女としての部分を見せてくれるのだが、その夜、ふたりは野盗に襲われ、危機を迎える。あっという間に数人の賊を倒して、あずみはつぶやく。

「いくら逃れようとしても、(宿命からは)避けられぬ。斬りたくなくても、斬らされる」

 そしてあずみは、晴れ着の代わりに、『木枯し紋次郎』風のマントをやえからもらい、再び闘いに赴く。やえは言う。

「あたし、待ってるね。あたしが、あずみの帰ってくる場所だから」。

 あずみは答えない。

 この一連のシークエンスは、まさに少女ヒーローそのものだ。


(★以下、ネタバレ)


 清正のいる砦には、作戦に失敗した爺が、はりつけになっている。そこへあずみは、大砲で攻め込み、更にやぐらの柱を刀で切り落として、やぐらを崩す。興奮する美女丸。「すごいよ、あの子!」

 更に、勘兵衞が雇ったならず者たち(まあ、ヤンキーと言いましょうか)と、清正の兵たちも、仲間割れを起こし、画面は殺戮で満ちる。ついに一対一の闘いになったあずみと美女丸。激闘の末、美女丸の首が飛ぶ。

 瀕死の爺は、あずみに告げる。

「使命は終わった。(中略)生きろよ、ただただ生き抜け」。

 しかしあずみは、奇想天外な方法で、清正を倒した。海上にいる清正の船に跳び上がり、一刀両断、清正を殺して、再び海へ逃れるのだ。

 最後、幸運にも生きていた、ながら(石垣祐麿)が、あずみに訊く。

「これからどうする」

「次は真田昌幸を討つ」

「今度は俺たちも死ぬな」

「俺たちは絶対に死なない。生き抜くんだ、みんなと一緒に」

 あずみの心の中では、まだ、刺客としての仲間たちが生きているのだ。


(★以上、ネタバレおわり)


 とにかくアクション、またアクションで、女に惚れた人間は死ぬ、といういままで語ってきたハードさを、まだ若手の北村龍平監督は、映像美を崩すことなく描ききった、と言っていいだろう。そして、自分を「俺」と呼び(山では女がいなかったので)、次から次へと新しい殺陣を見せてくれる上戸彩には、私は賛辞を贈りたい。


『あずみ』のヒットで作られたのが、〇五年の『あずみ2【早見注・固有名詞なので英数字で】DEATH OR LOVE』。監督は、少女にこだわっている金子修介が務め、脚本はまた水島力也と、なぜか、『妖獣都市』などのアニメ監督として知られる川尻善昭が担当した。

 金子監督は、とにかく少女の描きたい人で、ここでもノリに乗って、あずみと、新たに加わる女忍者・こずえ(栗山千明)を、はつらつとして撮っている。

 しかしながら、私個人は、この『2』には、不安を感じた。冒頭間もなく、あずみは自分が斬った、なち(小栗旬)の夢を見るのだ。夢の中では、なちは告げる(第一作にはない)。

「あずみ、言いたいことがあったんだ。……お前のことが大好きだ」

 それ、ほんとうに、必要か?

 しかし物語は、テンポよく進む。町の居酒屋を、一見、野盗とおぼしき連中が金集めに襲う。長男・金角は、前作では死んだ、遠藤憲一。そして弟・銀閣は、小栗旬なのである。あずみは激しく動揺する。

 真田側は妖しい美女・空如(高島礼子)を中心に、忍び・上野甲賀衆を、更に、野盗を集める。野盗と忍びたちは、廃墟と化した村で一同に襲われるが、斬りつけられたあずみの姿を見た銀角は、「気が変わった。これからは、こいつら(忍び)が敵だ」と言い放ち、忍びを斬り払う。

 そのまま、おね(根岸季衣)の家へ行ったあずみたちは、金角たちがほんとうに、戦で親を亡くした子どもたちを育てているのを見る。子どもたちの世話をする千代(前田愛)は、あずみたちに拒絶反応を示すが、あずみはひとときの安らぎを得る。

 ……と書いたが、このシーンは、ちょっと見過ごせない「ミス」(私がそう思っているだけかもしれない)を持っている。あずみが、乳飲み子のあやし方を知っている、ということだ。いつ、どこで覚えたのだろう。

 また旅に出たあずみたち。しかしこずえは、実は敵対する伊賀の忍者で、間者として甲賀衆にもぐり込んでいたのだ。そのこずえに、ながら(石垣祐麿)は恋愛にも似た感情を抱く。当然ながら、こずえの矢を浴びて、死ぬ。男女の愛に目醒めた者は、死ぬしかないのだ、少女ヒーローの世界では。

 こうして、前作では生き残った真田昌幸(平幹二朗)と、あずみたちを生んだ天海僧正(神山繁)との間で、人物たちは死んでいき、最後の闘いが始まる。

 必要がないのでネタバレはやめておこう。闘いが終わった後、マントを着たあずみは、ひとり、去っていく。その遠景で、映画は終わる。

 この映画のDVDは、一覧に値する。キャストインタビューで、小栗旬は語っている。

「よくない返答で申しわけないんですが、どうしても、ほんと、僕は、自分が出ている作品を、客観的に捉えることがあまりできないタイプなので……ちょっと、こう映画としてすごくよかった、とかいうのが二の次になってしまうんです。だからあんまり、自分の芝居のアラばっかり捜してしまうので、ちょっと、うまく言えないかもしれないですね(後略)」

 また、前作ではアクションらしいアクションシーンがなかったので、『2』を楽しみにしていた、とのことばも頼もしい。

 近年の俳優では、飛び抜けた役者根性があって、ついに自宅に稽古場を作ってしまった小栗旬だからこその、「放言」である。

 また、栗山千明については、上戸彩が語っている。

「逢ってみたらすごく女っぽくて、アクション怖いです、刀怖いです、っていう女の子」

 実際、そうなのだろうが、映像にそういう苦労を見せないのが、栗山千明たる由縁だ。ちなみに栗山千明は、『あずみ』の第一作が上映された〇三年に、『キル・ビルVol.1』に、凶暴な女子高校生・GOGO夕張として出演している.私が思うに、作品に自分を合わせる術に長けているのだろう。

 少女ヒーローのことはさておいて、いま、小栗旬や栗山千明のような、役者らしい若手役者が生まれているのは、心強いことだ。それが育つ場が確保されるよう、祈る。



(この節、続く)


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