第一節の2 『ルーズソックス刑事』
●『ルーズソックス刑事』(〇〇年二月)TBS
TBS深夜枠『悪いオンナ』の中の一篇である。
『悪いオンナ』は、文字通り悪女を主人公として描くオムニバスのシリーズだが、本作は、警視総監の孫娘で中学三年生の銭形紅子(平山あや。現・綾)が、刑事として悪女を捕らえる、全四話の推理ドラマだ。
脚本家が、若手の新人(とおぼしい)であることも手伝ってか、毎回の事件と推理はあまり冴えているとは言えない。また、紅子が本物の刑事であることを、相棒になる刑事・山中八五郎(岡本光太郎)が認めるまでに、第一話の一三分までかかるのが、なんともまだるっこしい。問答無用の強引な説得力がないと、こういうドラマは成立しない。
問題のひとつは、紅子の決めゼリフ*が長すぎる所にある。
「摘むべき花は悪の華、この世に咲いた悪の華。××××、やっぱりあなたが犯人ね。愛かお金か男のためか、女ってのは貪欲な生きもんだね。けどね、世の中には掟ってものがあるんだよ。たとえ世間が見逃しても、悪いオンナはこの紅子が許さない」
測ってみると五〇秒にもなるこの台詞は、平山あやの滑舌が悪いせいもあり、弛緩してしまっている。また、そのシーンは中華料理店で(一話は)語られるが、照明が消えてスポットライトが当たり花火があがる、というこの分野には欠かせないデフォルメシーンで、八五郎が「この照明はいったいどこから?」といった様子を見せるのも、この手のドラマに必要な『覚悟』が足りない。ヨーヨーを見た悪役が「桜の代紋!」と驚くような強引さが必要なのだ。
それを踏まえた上で、本作はまだ磨かれない少女刑事ものの原石としての可能性が見られる。事件の捜査も、例えば被害者の口から甘酸っぱい匂いがするから、青酸化合物による毒殺だ、と見破るなど、ミステリ要素は高い。日本ではしばしばアーモンドの匂いとされる青酸化合物だが、これは誤訳で、私たちが食べているアーモンドは巴旦杏という植物の種子なのだが、青酸の匂いは、アーモンドの周りの実の匂いなのだそうだ。これを二本で初めに扱ったのは『MASTER キートン』との説もあるが、マニア心をくすぐる描写であることはまちがいない。
本来は、長く説明するほどの作品ではないのだが、この作品が『ケータイ刑事』シリーズの萌芽となったことは確かである。
*紅子の決めぜりふ――二話以降、若干のアレンジが見られる。
(この節、続く)
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