第四章 少女刑事その後、プラスアルファ(旧稿の分)
■第四章/少女刑事その後、プラスアルファ
「一年前は、力をコントロールできなかったの」
(『魔夏少女』より)
●第一節の一/『セーラー服刑事』(八七年)
一部で、カルト的に愛好されているらしい作品。理由は後で説明する。ビデオソフトから、簡単な手段でDVD化されたらしく、見ていると画面下にフレームノイズが入る。全5巻。
巻頭、こういうテロップが出る。
「この物語の主人公達はあくまでも君達にいる素人の娘達(原文のまま)を起用、制作の途中にテレビ番組のレギュラー出演の話が決まったりはしても決してスターきどり(原文のまま)はしません。勿論、アイドルになっても自殺なんてもってのほか、生きる尊さを知っています。この世に生まれた以上思いっきり生きましょう」
スター気取りは誰か知らないが、アイドルで自殺した人と言えば、『スケバン刑事』の遠藤康子*(八六年三月二九日没)か、こちらのほうがより妥当らしい『禁じられたマリコ』の岡田有希子(八六年四月六日没)ということになる。いずれにしても八六年で、それから間もなく作られたものらしい。
死者を冒涜する権利は誰にもないし、その上、素人の芝居を見せられてはかなわない。しかし、そのまま見ていると、次には走る車窓から見える空をバックに、ナレーションが入る。
「この物語は、ある日、超能力を身につけたエスパーとして、三人の女子高生、AYU、YUKA、KAZUの、セーラー服刑事誕生の物語です(原文のまま)。もしも、君たちに超能力が身についたとしたら、まずは、何をする?」
言いたいことは置いて、その女子高生が何をするのか見守っていると、三人の女の子がひとりずつ、たぶんAVのように*、自己紹介をする、イメージビデオみたいなものが六分四〇秒入る。お断わりしておくが、AVではないし、一切、お色気のシーンはない。
それはまあいいとして、ドラマがいつ始まるのかと思っていると、三人がショートパンツ姿で、三分一六秒、延々、走る。剣道の修業中らしく、次には道場でのけいこが四分……。
で、とにかく(「とにかく」としか言いようがない)三人はなんらかの超能力に目醒めるのだが、すかさずナレーションが入る。
「そのときAYUは、自分が超能力を身につけたエスパーであることを自覚した。そして、正義のために戦う戦士になる決意をするのであった」
そんなシーンはどこにもない。彼女ら*が刑事として活躍する場面もない。
結局物語は、だらだらとした日常の映像と、映像で実現されないストーリーのナレーションによる説明に終始し、謎の日本刀を巡る攻防が、起きたのかこれから起きるのか分からないうちに、唐突に五巻で終わってしまう。制作が中断したらしい。
脚本・監督は山前五十洋。彼自身の、現実の娘は倉木麻衣。そう、このビデオのまさしくカルト的な評判は、幼児の倉木麻衣が出る「微笑ましい」シーンがあるからなのだ。
もうひとつ挙げるとアドリブの天才と言われた声優の広川太一郎がなぜか第三巻だけ、ナレーションをしている。なぜこういう作品に参加したのか。謎は深まるばかりだ。
*遠藤康子――斉藤由貴の『スケバン刑事』で、海鎚三姉妹の末子を演じた新人アイドル。定説では、売り出しに当たり、彼氏との絶縁を迫られ自殺した、と言われる。
*たぶんAVのように――信じてくれなくてもかまわないが、私はAVというものを二本しか見たことがない。あの編集センスについていけないのだ。
*彼女ら――ほんとうに素人を使っているらしく、巻ごとに「女優」が変わり、役名も変わる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます