第七節の1 日テレ土曜九時枠と、『聖龍伝説』

●日テレ土曜九時枠と『聖龍伝説』


(ご注意・『聖龍伝説』の内容に、ある程度、踏み込んでいます)


 それまで連続ドラマシリーズとして、『池中玄太80キロ』や『ポケベルが鳴りたくて』などで知られた日本テレビの土曜午後九時枠が、九五年の『家なき子2』のヒットから単発のジャンル映像作品だった。それまで、家庭向きのドラマが多く、放送回数もまちまちだったのが、若者向きのドラマを年四作放映するようになったのだ。

 その傾向は、『家なき子2』の後に『金田一少年の事件簿』が入ったことで、この方針を盤石のものにする。『銀狼怪奇ファイル』、『透明人間』、『サイコメトラーEIJI』……その傾向は、明らかである。

 この傾向は、〇一年の『明日があるさ』(浜田雅功主演)から変わり、迷走を始める。その中から、いくつかの快作も生まれるのだが、さすがの私も全てを見ているわけではないので、少女ヒーローの観点で、知っている中から選んだものを紹介しよう。


 まずは、九六年一〇~一二月の『聖龍伝説』(脚本・大石哲也、羽原大介)だ。この枠で、『家なき子』の大ヒットにより一気にブレイクした安達祐実が、『家なき子2』の後に主演した作品である。

 冒頭は、このようなナレーションから始まる。

「森羅万象、この世の全てに光と影があるように、表裏一体の拳法が、武術の聖地、中国に存在した。その名を幻龍拳と聖龍拳。邪悪な幻龍の野望が、正しき(「その?」*)聖龍拳の教えを闇に葬り去ろうとした。そして世紀末、天が割れ、地が裂け、その混乱を治めんとし、中国三千年の歴史に語り継がれた奇跡の救世主がいま、甦る。世に言う聖龍伝説の幕開けである。」

 このドラマ主演のとき、安達祐実は一五歳。安達祐実というと顔が大きい印象があるのだが、このときにはまだ、きりっとした顔立ちと、体とのバランスが取れている。また、本人がアクションの訓練を受けているらしく、顔が本人と判別できるショットでも、素顔でアクションを演じている所が多い。よって、映像のアングルなどに、ヴァリエイションが生まれている。エンディングでは、太極拳らしい型を見せているが、さまになっている。

 また、このドラマは、敵の幻龍拳の刺客と闘いながらも、安達祐実分する冴木聖羅はぎりぎり学園生活を送っているのだが、学園内での騒動(主に、高飛車な女、神楽坂佐織こと榎本加奈子によるもの)は、あまりしつこくなく、本筋を邪魔してはいないように、私は思う。

 ところで、このドラマを楽しむためには、痛い描写を我慢しなければならない。痛い、と言っても、いわゆる「イタい」ではなく、言葉の通りの痛みだ。第1話にのみ登場する聖羅の父(千葉真一が、「J.J.SONNY・千葉」という名前で特別出演している)は、相手の急所を鍛えた指でえぐって殺し、敵は血を噴き出して死ぬ。安達祐実本人は、直接に人を殺す描写は殆どないのだが、怒りが頂点に達したとき、敵の女の、顔と筋肉を断ち切り、もう二度と元へは戻らない、という非情な制裁を加える。

 正義の側がこれだから、敵の攻撃も容赦ないもので、聖羅などは、ふつうの顔より敵の爪で切り裂かれた顔でいるほうが多いぐらいだ(誇張です、念のため)。血しぶきが飛び、顔が傷だらけになる。遊び気分で見るには、ハードかもしれない。

 その聖羅は、冒頭で説明した聖龍拳の唯一の伝承者だが、敵の幻龍拳一味が狙っているのは、彼女の命ではなく、彼女が持っている聖なる水晶玉と、聖羅の母・聖華(五十嵐淳子)の喪われた記憶である。それが揃ったとき、大いなる宝「天使の涙」が手に入るのだという。そして聖華は、行方不明になっている。水晶玉の謎と、聖華の行方を捜すために、父と娘は旅をしてきたのだ。

 その父も、幻龍拳の刺客に殺され、入れ替わるように、僧侶の格好をした老師(片岡鶴太郎)が現われる。老師は聖羅を鍛え上げていく。その過程で、次々に刺客が現われ、そのたびに特訓を繰り返して、聖羅は敵を倒していく。しかし、廃車置き場に住み、ほんとうの住所を隠している聖羅の居場所を、数少ない友人の美咲(遠藤久美子)は、親から継いだラーメン屋の借金、四千万と引き替えに売ってしまう。聖羅は老師に助けられるが、美咲は幻龍拳の刺客・百舌(又野誠治)の手にかかって、意識不明の重態に陥る。

 闘いの過程で知り合った先輩、速水麗一(鳥羽潤)との友情(愛情ではないところが清々しい!)、上杉祥三ら魅力ある敵たちとのハードなアクションによって、この物語は、正しい道を進んでいく。必ずしもハッピーエンドではないが、芯が通り、圧倒的に正しいのだ。

 こういう物語は、一話完結で定型化されることも多く、事実、聖羅は自分が倒した相手に、「さあ、懺悔の時間だよ」と言って、秘密を吐かせたりはするのだが、そのフォーマットを前面に押し出さないのが、東映との違いである。しかし、この物語を通して見ることができれば、その爽快感を味わえるだろう、と思う。

 全ての事件と謎とは、収まるべき所にきれいに収まる。もっと評価されていい作品だと思うが、これ以降、安達祐実は、この枠に出ることはなかった。残念としか言いようがない。

 しかし、このドラマは、正しい少女ヒーロー作品と、私は断言するものである。


*「その?」――実際には、この部分が何と言っているのか、私には聴き取れない。いちばん近そうなことばを当てはめておいた。


(この項、つづく)

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