第六節の3 『光の帝国』
●『光の帝国』(〇一年一二月)NHK―BS 脚本・飯野洋子
前にも書いたように、NHKのドラマは、あまり細かくチェックしていないのだが、このドラマはCSで見ることができた。恩田陸の『光の帝国~常野物語』が原作。
春田家は、旅行関係のフリーライターだが主夫でもある父、貴世誌(小日向文世)、稼ぎ頭の母、大学教授の里子(檀ふみ)、高三の記美子(前田愛)、弟の小学生、光紀(村上雄太)の、のんびりした家だ。それが、貴世誌が取材先で大ケガを負ったのと時を同じくして、記美子は何かの光を、光紀は幻視を見る。貴世誌は奇跡的に蘇生するが、光紀は限りなく物が記憶できる能力に目醒める。記美子は未来を幻視する能力を持つ。
貴世誌は、光紀の力について、言う。「それはね、なるべく、他の人には隠したほうがいいことなんだ」。即ち、力が明らかになると、騒ぎになって危険だ、と。NHKのSFドラマは、超能力を持つことのネガティヴな面を前へ出したものが多いが、このドラマも、その傾向が強く押し出されている。同時に記美子は自動車事故のヴィジョンを見て、実際にそれは現実になるのだが、幼なじみの倉澤泰彦(中村勘太郎。現・勘九郎)は、日本で交通事故は年間八〇万件あるのだから、偶然だろう、気にするな、という。ちなみに、前田愛と中村勘太郎は、このドラマがきっかけとなって結婚した。
姉弟の能力は高まり、記美子は、街角でクマに遭遇する、というあり得ないような幻視をするが、実際に、ラーメン店のマスコットの、クマの剥製に出会う。光紀は学校で特技を披露するが、エロ雑誌を読み上げて見せたもので、担任の大畠先生(酒井敏也)に叱られる。貴世誌は、ドラマの初めから出ている、怪しい老人、ツル先生(笹野高史)に相談をする。ツル先生は言う。
「危険だ。早くに目醒めた者は、それだけ早くポキリと折れて、命を落とす危険性も大きい」。
そして、より深刻なのは、記美子のほうだ、と言う。なぜなら、ツル先生や貴世誌たち、常野の一族で予知能力が目ざめたのは、百年ぶりだからなのだそうだ。
何も知らない里子に、真相を話すべきだ、とツル先生は貴世誌に言うが、貴世誌は気が弱く、なかなか切り出せない。
時を同じくして、記美子の前には、謎の女、矢田部薫(鈴木砂羽)が現われ、「あなたを助けられるのは、私だけ」、と謎の言葉を残して去る。
ツル教授が言うのには、常野の一族が正体を隠しているのは「学習してしまったからだ」、ということである。常野の力は権力に利用される。「人びとは幸せになれない。我々は沈黙した。我々は決めたのだよ。ただひたすら穏やかに、慎み深く、一切の権力からなるべく遠ざかって生きていこう、と」。記美子は反発する。「私はなんのために、この力を持って生まれてきたんですか」。
納得のいかないまま、記美子は薫に誘われて競馬場へ行き、記美子に馬を当てさせ、贅沢三昧を尽くす。しかし記美子は、その生活に、納得はしない。謎の男たちのせいで、自分の殻に閉じこもってしまった薫を助けるために、記美子は薫の記憶に踏み込む。
九〇年代の子役ブームの中で、ひときわマニッシュな魅力を放っていた前田愛が、最後に残した少女ヒーロー映像が本作である。泰彦とのキスシーンはあるものの、物語はあくまで硬派に、常野一族の力を軸に、一度はその力のおかげでばらばらになりかけた家族が、その力のおかげで家族として、より結束を深める、というポジティヴな物語になっている。彼らが今後、どう生きていくかは分からないが、ツル先生は言う。「子どもたちは、我らにつかわされた希望の光だ。我らの流れをくむ者が、進むべき道を探し求めることであろう」。そしてドラマの最後は、記美子のナレーションで終わる。
「みんなで智恵を出せば、未来だって変えられる。私はいま、そう信じ始めているのです」。
本作は、あまりスケール感のない、小粒の話だが、その指し示すところは明るい。超能力は、一概にネガティヴなものではなく、智恵によってポジティヴになり得る、という結論は清々しい。なかなか見る機会の少ない作品だが(ソフトは出ていないようだ)、愛すべき佳作として、記憶に留めたい。
(この節、おわり)
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