第五節の4 『千年王国三銃士ヴァニーナイツ』

●『千年王国三銃士ヴァニーナイツ』(九九)テレビ朝日、円谷映像


(ご注意・『千年王国三銃士ヴァニーナイツ』の展開と、特に結末を書いています)


『ヴァニーナイツ』を制作したのは、『仮面天使ロゼッタ』の畑澤和也プロデューサーであり、その個性が存分に発揮されている。しかし、それは決して、視聴者に優しいものではなかった。

 VHSソフトの第一巻(一話しか入っていない)では、パッケージに一話のあらすじが書いてある。


 藤田和幸はアニメ、パソコン、フィギュア好きのちょっとオタクな青年。中3の妹、愛美にバカにされながら平凡な生活を送っている。そんな和幸がリストラで会社をクビになり、酔っ払って帰宅すると、ホームヘルパーの格好をした見知らぬ美少女が「お帰りなさい」と迎えてくれた。驚いている暇もなく、愛美に「カレシを紹介したい」と呼び出される。しかし待っていたのは見知らぬ黒服の男だった。男は和幸に「君のミレニアムセイバーを俺にくれ」と怪しく迫ってくる。ミレニアムセイバーとは何か?


 ……長い。

 いや、長いのが全部悪いとは言わないが、まとめる能力への疑問がある。実際、この物語の縦軸となる、ミレニアムセイバーや、謎の組織アゴル・モア(関連書に記述の通りの表記)は、ガイドブックを読んでも頭に入らないほどの、細かい設定がなされている。テレビを見ただけでは分かりづらい設定なのだ。

 そのせいか、また、『仮面天使ロゼッタ』でもかいま見られた、映像の印象の暗さのせいもあってか、せっかくの、三人の美少女がおたく青年を守るラブコメ特撮(この一文だけで、作劇上は殆ど充分だ)という話が、なんとも言えない、のどに刺さった小骨のような感覚に邪魔される部分がある。

 それでも、毎回の敵のユニークさや、迫り来る巨大な悪の予感につられて、見ていると、終盤から物語は驚愕の展開を見せる。

 以下、ネタバレがはばかられるので、ちょっと気になる人は、次回へ飛ばして下さい。


(★以下、ネタバレ)


 コメディリリーフとして活躍していた、和幸(渡辺慶)の妹・愛美(山川恵里佳)が、全二〇話の一六話「フジタ・マナミ」の結末で、いきなりそれまで関わらなかったヴァニーナイツたちとアゴル・モアとの闘いに巻きこまれ、死んでしまうのだ。なんの伏線もなく。

 ホラーなら、思いつくような展開だ。それはそれでよしとしてもらわなければ、ホラー書きの私としては困る。しかし、『ヴァニーナイツ』は特撮ヒーロー映像であり、ヒーローものにカタルシスを求めるのは、無理な注文ではないだろう。こちらにも、心の準備をさせてもらわねば、到底受け容れがたい展開である。しかも、続く一七話では、墜死した愛美の死体まで見せている。

 映像はその後も陰鬱な展開を続け、愛美同様コメディリリーフ的存在だった大家さんは敵の魔術師に変じて……これ以上は、書くに忍びない。まるで違うシリーズを見ているかのようだ。

 そして最後の三話が訪れる。これを読みたくない人は、ほんとうに飛ばしていただきたい。


 負の力に目醒めたアレスト・ホルンこと和幸は、敵の虐殺を虚ろに見つめる。三銃士のラビエル・ヴァニーこと加賀美あいり(永井流奈)が倒され、アリエス・ヴァニーこと守野ありす(栗林みえ)とラハミエル・ヴァニー、浅木あきら(益子梨恵)はアゴル・モアの拠点である超高層ビルへ向かう。なぜかあいりは病院で孤独に死ぬ。

 グランドクロス(黄道十二宮上で四つの惑星が十字形に並ぶ配列)のときを迎え、ありすとあきらは塔の中で戦うが、そのとき、死んだはずのあいりがラビエル・ヴァニーとなって現われ、敵、アモルを倒す。しかしもうひとりの敵、テリエル・ヴァニーの正体は、あきらの姉、あずさであり、あいりによって自分を取り戻す。

「これ以上、取り返しのつかないことを起こさないために、私は来たの……最後の力で」、と告げてあいりは今度こそ、ほんとうに死ぬ。

 そのまま、あずさを加えた三人は、アレスト・ホルンとして覚醒した和幸を止めに向かう。あきらとあずさは小者の足を封じ、ありすを先に行かせるが、自分たちは刃の前に敵と相討ちになって倒れる。ありすだけが塔の最上階へたどり着くが、和幸は異形の者に変貌している。あわやというときに、和幸は普通の人間に戻る。なんの記憶もないようだ。ありすは変身を解いて近づくが、和幸は無邪気そうに言う。

「エクスカリバーに千人の血を献げなければならないんだ。あとひとり分の血が必要なんだよ。……ありす」

 ありすを刃で刺す和幸、いや、アレスト・ホルン。

 そして最終話「わたしだけのアレスト」。この最終話は、難解極まりない、と言われている。物語を実質上構成した畑澤プロデューサーも、明快な回答は避けているようだ。公式ガイドブック『千年王国三銃士ヴァニーナイツ大百科』(ケイブンシャ)には、畑澤氏の考える結末の意味が載っているが、それが「正解」ではない旨、記されている。

 従って、ここに私が書くのも事実ではなく、ひとつの解釈に過ぎないことを記しておく。

 ありすはヴァニーナイツとして和幸と戦うが、すでに和幸の中からは、魂が消えている。そこでありすは変身を解き、語りかける。過去の和幸との日々、楽しかった思い出を。

「そこまでだ」、と止めるアレスト・ホルン。しかしありすは、なおも思い出を語り続ける。思い出のこもったオルゴールの音色を聴いて、苦しむアレスト・ホルンの顔が和幸に変わり、「俺を殺して! 早く!」と叫ぶ。しかし、ありすには和幸は殺せない。最後のときを覚悟したとき、和幸は自らを刃で貫く。「なんで!」叫ぶありす。「これでいいんだ」、と苦しみながら言う和幸。笑みを浮かべ、和幸はありすの腕の中で目を閉じる。

 魔剣エクスカリバーをグランドクロスに献げた、一連の事件の首謀者、天野蕎生は謎の力によって倒され、超高層の塔も崩れていく。

 そこで画面は、唐突に、物語の最初から流れているアニメ「千年王国記アレスト」の画面へと変わる。寝ぼけている和幸は妹、愛美に起こされる。窓を爽やかに開ける愛美。しかしそこは、なんと、決戦のあった超高層ビルの最上階なのである。ありすの声がかぶる。

「私、バカみたい。なんでもかんでも、なくしてから、それがどんなに大事だったか気づくの」

 あわただしい朝のひととき。テレビでは、あきらが婚約したニュースを流しているが、そのテレビの画面が鏡像であることに、和幸は気づく。テレビだけではなく、新聞も雑誌も、裏返しの文字だ。

 洗面所で歯を磨いた和幸は、大量の虫を吐き出す。再び、ありすの声がかぶる。

「最初は、幼稚園の頃。ママに作ってもらったうさぎのぬいぐるみ。手作りで、みっともなくて、友達にバカにされたから、公園に置いてきちゃったの。そしたらその夜、さみしくて眠れなくて」。

 再び画面が変わると、死体が歩くとどきどきする、という話を友人と和やかにしている制服姿のあいり。和幸は異様な感覚に襲われて、頭をかきむしる。「頭の中で、変な虫が暴れている」。その手は血に染まっている。

 坂の上から、冒頭の通りにバッグを引っぱって降りてくるありすは、バッグを蹴り倒す。和幸の目の前でバッグが開き、アレスト・ホルンと化した和幸が出てくる。「それ、私の一番のお気に入りなんです」。茫然と見ている和幸の首筋に食らいつくありす。だが、ありすの声は語る。「あいりちゃんもあきらさんも、こんな闘いに巻きこむんじゃなかった」。その声に応じて、血塗れのあいりとあきらが愛美を糧としており、そしてアレスト・ホルンに食らいつかれるありす。突如、夏なのに寒さに震える和幸。

 そして映像は、唐突に、地球から離れていく四つの光へと変わる。ありすの声がかぶる。

「次の日、公園に行ってみたんだけど、もううさぎさん、いなかったの」

 ここでエンディングが流れ、そこにまた、ありすの声。

「ママは、笑ってもうひとつ作ってくれたけど、あのうさぎさんは、どうしちゃったのかな。……ママにもっと親孝行しておけばよかった。パパに反抗ばっかりするんじゃなかった。……あいりちゃんもあきらさんも、こんな闘いに巻きこむんじゃなかった。和幸さん、私、自分の気持ちに気づいたの。ほんとうの気持ち。もっともっと早くに気づいていればよかった。……あなたが、……私はあなたが、誰よりも……」

 白い衣をまとったありすが、キスをすると、白一色の世界で裸の和幸が目醒める。そこは、おそらくは千年王国らしい。きょとんとする和幸に、ありすは、にっこりと明るい笑顔で言う。

「あなたは……私は、あなたが誰よりも、……好きです」

 そこへ過去の映像の断片が無数に流れて、千年王国らしい構築物(毎回のオープニングに登場する)に、テロップ『千年後に逢いましょう』。物語は終わる。


(★以上、ネタバレ終わり)


 最初にこの最終回を見たとき、私はほんとうにきょとんとしていた。多くの視聴者の拒絶反応も、まったくその通りだと思う。

 しかし、特に『七瀬ふたたび』(と言うか『エディプスの恋人』)の洗礼を浴びた今、この結末を見ると、これは、ありすの主観による、和幸の死と再生のイメージを表わしたものではないか、と思う。和幸の自我がそこにはなく、頭の中で虫がわき、仲間たちをもダークなイメージでしか見られない和幸は、文字通り、寒い世界に行ってしまったのであって、それを取り戻したありすは、宇宙のどこかにある千年王国で、和幸を目醒めさせたのだ。……と、思う。

 もし私の解釈に妥当性があるとしたら、これは、戦士である少女が、眠れる王子様を守った、文字通り、少女ヒーロー映像とは言えないだろうか。

 この最終回に(特にラストのイメージ映像に)拒否感を表わした人が多いのは、分かる。ただ、私が思うには、ビデオの時代、何度も見なければ分からない映像作品も、あっていいのではないか、と思う。

 私にも、まだ、時間があるかもしれない。


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