第五節の2 『サイバー美少女テロメア』『美少女新世紀GAZER』
●『サイバー美少女テロメア』『美少女新世紀GAZER』
(ご注意・表題の二作品の内容と結末を明かしています)
『アテナ』と同時期に、やはり超能力系の少女ヒーロー映像が作られたが、その出来は物足りないものだった。しかし、拾っておく。
九八年四月~六月に、テレビ朝日で放映された『サイバー美少女テロメア』は、円谷映像ではなく円谷プロダクションが制作、深夜、ウィークエンドドラマ枠で放映された。
この作品、制作協力にグループコダイ*が入っているため、タイトルが実相寺昭雄監督*の肉筆、特撮スーパーバイザーに高野宏一*、美術スーパーバイザーに池谷仙克*と豪華な顔ぶれが揃っているのだが、それらがまったく機能していない。その象徴として、フェミニンなボディスーツを着ている点が挙げられる。
ボディスーツは、『V・マドンナ大戦争』のように、禍々しい戦闘服として描く場合もあるが、このドラマでは胸や太股をいたずらに誇張し、少女を「美少女」に貶めたデザインだ。また、このスーツを通して九条アサギ(つぐみ)、橘レナ(嘉門洋子)、月島イツミ(三輪ひとみ)の超少女三人組のデータが、彼女らを管理する門倉清之助(中丸新将)の元に送られる設定だが、それも物語にあまり寄与していない。つまり、鑑賞用の衣装である。
その身体表現や描写で、コスチュームを超えるべきだった、と私は思うのだが、この放映枠は、古い言い方で言うと「お色気路線」が売りなので、しかたないところがあるのかもしれない。描写でも、三人はふだん制服姿だが、むやみに制服を破られ、ボディスーツ姿にさせられる。その描写が、歯がゆい。
第二の大きな問題点は……いや、こちらが重要なのだろうが、「平凡な女子高生がある日、超能力が覚醒」したアサギたちは、門倉の研究所に幽閉されるのだが、必死に逃げ出す。で、その後どうするかというと、何もなかったかのように高校に登校する。なぜ門倉は、学校で捕まえない? 『アテナ』のような、丹念なカセは仕掛けられていない。理由がないのだ。
学園SFを成立させる上で重要な、この問題を、ドラマはなおざりにしている。『テロメア』に私が乗れない理由は、そこにもある。
細かい所ばかりつついているようだが、一般的に、細部に気を配らない作品は、全体がガタガタになる傾向にある。「神は細部に宿る」、ということわざがある通りだ。
毎度おなじみ、Amazonの中古市場では、『テロメア』は品切れになりつつある。私個人は、このドラマは、見なくても何らあなたの人生には寄与しませんよ、と思っているし、本書の主旨からして、ストーリーを詳しく追っていくのが筋かもしれないが、いまのところ、その気にならないのをお許しいただきたい。少女ヒーローには、煎じ詰めると、エロはいらないのだ。
おなじく、テレビ朝日のウイークエンド枠で放映されたのが、『美少女新世紀GAZER』(九八年八月~九月、円谷映像)、全六話である。
ある日、近所の森林公園に隕石が落ちた日から、主人公・三笠萌(吹石一恵)の平和な日常が壊れ、やがて国家を揺るがしかねない陰謀に巻きこまれていく、といった話だ。
劇画原作者でもある七月鏡一を原作に迎え、学研ムー編集部、UFO研究家・並木伸一郎を協力に迎えた本作品は、その気になればいくらでも面白くなる物語を、脚本が台なしにしている代表例である。
とにかく、話が動かないのだ。『アテナ』が一〇分でやるところを、数話かけて描いていて、実に歯がゆい。第一話の中盤、夜、UFOを見に山へ行った高校生たちに、怪光が迫り、萌だけが何かを感じる。そこへ自衛隊らしい一隊が襲いかかるのを、殺人犯として指名手配されている結城コウ(宇野智史)が助ける。これだけで一話を使っている。悠長すぎないか?
その後、コウは萌を謎の男・キリガミ(堀内正美)の手から助けるために連れて逃げ、キリガミの部下で怪しい力を持つリオ(真野きりな)と戦うのだが、リオは萌の友人たちに取り憑いて萌を殺そうとし、コウは萌を護るために、彼らを倒し続ける。
その間、萌はずっと悲鳴を上げて逃げ惑うだけだ。コウがリオの力によって倒されてもなお、泣き言を言うばかりで、こんな女子護る意味があるのか、と思ってしまうほどだ。
第四話、即ち後半の回に至って、リオがコウを襲うのを見た萌は、唐突に「あなたを信じる」と言い出すのだが、それも泣き言をたっぷり言った後のことだ。そして萌が、選ばれた人間として覚醒するのは、実に最終話、六話のことなのだ。
最終話、話のごく初期から、萌を護ってくれようとしていた親友、ひとみ(須藤温子)が、UFO騒ぎのあった羽衣山でキリガミの部下、紀美子(長宗我部蓉子)に射殺されたとき、不意に怪光が迫り、覚醒した萌はひとみを生き返らせる。そしてリオとコウは相討ちになり、キリガミたちはおそらくコウの最後の力で死ぬ。「おそらく」としか言えない。明確に描かれていないからだ。
ラスト三分というところで、事件は終結した。しかし、UFOに関わる組織が、キリガミの背後にはいたらしい。らしいというのは、萌がナレーションで、自分たちが組織を追って旅に出る、と言うだけだからだが、その組織の名が『GAZER』だ、と示した所で、ドラマは終わってしまう。ラストシーンで、力を得た萌が金色の目になってひとこと。
「ずっと、見守っててね」
見守ってきた結果が、これなのだ。
この物足りない物語の責任がどこにあるか考えてみたのだが、監督が清水厚、上野勝仁の、円谷映像系の深夜ドラマを支えた人たちだ、ということから、やはり脚本に問題があったのではないか、と私は考えている。異論があったら、ぜひ教えていただきたい。
*グループコダイ――円谷プロ系列の人脈によって設立された、特撮プロダクション。
*実相寺昭雄――得意なカメラワークで知られたカリスマ的監督。『ウルトラセブン』など。
*高野宏一――円谷プロ生え抜きの、特技監督、監督。『ウルトラ』シリーズなど。
*池谷仙克――同じく円谷プロ出身のデザイナー。『シルバー仮面』が有名。
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