第四節の5 映画『七瀬ふたたび』

●映画『七瀬ふたたび』(一〇)


(ご注意・映画『七瀬ふたたび』の詳細と結末に触れています)


 芦名星主演の映画『七瀬ふたたび』は、二〇一〇年、筒井康隆作家生活五〇周年作品として作られた。オーディオコメンタリー(音声解説)によれば、映画は脚本から一〇年の時を経てようやく作られ、当初は筒井康隆が出演する予定だったが、体調などの問題で、出演しないことになった、という。

 NHKドラマ8版同様、この七瀬は、原作を大きく改変したストーリーになっている。

 物語の冒頭では、七瀬とノリオ(今井悠貴)とヘンリー(ダンテ・カーヴァー・*)はすでに北海道の七瀬の別荘に結集しており、また、この作品では岩渕了(田中圭)となっている画家の青年とも、すでに出逢っている。海外のカジノで一儲けした七瀬が帰ってくるところがファーストシーンだが、その帰ってきた空港で、七瀬は、超能力者を殲滅させようとする謎の集団の狙撃手に撃たれ、危うく難を逃れる。

 また、漁藤子(佐藤江梨子)ともすでに出逢っているのだが、このことは大きな意味を持つ。物語の最後に、七瀬たちはほぼ、殺されるが、藤子が必死の思いで時を遡ると、それはまだ、彼らが集結したばかりの、北海道へ向かうフェリーの船着き場なのである。即ち、七瀬たちは、その気になれば、北海道の山荘周辺で殺されずにすみ、平和のうちに、隠れ住むこともできるからだ。

 その平和なヴィジョンを感じて、それでもなお、七瀬は北海道へ行くことを決意する。それは、「立ち向かうべき、私たちの未来」だからだ。正体を一切現わさない謎の組織は、いずれは超能力者を滅ぼすのであり、それを阻止するのは自分たちしかいない、という覚悟を、七瀬は決めるのである。コメンタリーで小中和哉監督も言っているとおり、この七瀬は、最も漢【ルビ「おとこ」」】らしい七瀬となっている。ならば、大胆な改変も認められるべきだろう、と私は思う。

 本書は、いたずらにネタバレをしてどや顔をすることだけが目的ではないので、ストーリーの紹介は、この程度にしておく。小中和哉監督は、手書きのアニメーションや心の声をタイポグラフィで表わすなど、数々の実験的手段を用いて、短い時間(一〇五分)で『七瀬』の世界を新たに書き起こしている。一〇年の間に、脚本は伊藤和典に、協力として村井さだゆき、猪爪慎一を加えて鍛えられ、納得のいく佳作として仕上げられている。

 何度となく見たい『七瀬』であり、少女ヒーロー映像の代表作のひとつに加えられるべき作品と言えるだろう。

 なお、この映画のDVDには、「七瀬ふたたび プロローグ」として、中川翔子が監督をした、幼女時代の七瀬を描く短篇が加えられているが、そこには七瀬の母として、多岐川裕美が出演している。松浦亜弥の『スケバン刑事』で出演した斉藤由貴は、全く映画本編に寄与していないが、ここでの多岐川裕美は、作り手の敬意が感じられる起用のしかたであることを、伝えておく。


*ダンテ・カーヴァー――ソフトバンクのCMに、犬の息子役で出ている。


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