第四節の4 NHK・ドラマ8版『七瀬ふたたび』
●『七瀬ふたたび』NHKドラマ8版
(ご注意・この項では、NHKドラマ8版『七瀬ふたたび』の詳細に触れています)
ドラマ8は、四五分枠のドラマシリーズであり、『七瀬ふたたび』は全一〇話で作られた。正味時間の現在までで最も長い『七瀬』である。
このドラマでは、七瀬には両親がいる。父親の火田精一郎(小日向文世)は、超能力を(ドラマでは「未知能力」と呼んでいる)研究していたが、ある日、研究をやめ、実験に参加した七瀬の記憶を封印し、名前も母の旧名に変えさせて逃がし、自分も姿を消したのだった。
倒れた母の葬儀の夜、七瀬はいきなり、人の心の声が聴こえるようになる。一方で、刑事の高村(市川亀次郎)は、若い女性の連続殺人を追っていたが、青年、恒介(塩谷瞬)に目をつける。こうして、事件は動きだす。
遺品を整理していた七瀬は、父が自殺したとの新聞記事を見つけるが、父の勤務先に、その記録はない。死の謎を抱えたまま、七瀬は列車に乗り、そこで、今までにくり返されてきた、列車事故から朗(原作ではノリオ)とふたりが逃れるシークエンスが広げられる。
七瀬は、勤めていた老人ホームに行くが、すでに列車の一件は、みんなに知られており、お年寄りたちも、おびえている。七瀬は老人ホームをやめて、生前の父を知っている大学准教授、漁藤子(水野美紀)に逢い、そのせいで藤子は七瀬がテレパスだと知る。
そうこうしているうちに、七瀬はマジシャンとして「クエスチョン」というバーに勤めている恒介と出逢い、また、気のいい友人、真弓瑠璃(柳原可奈子)に上京を勧められる。こうして、七瀬は恒介の働くバーでバイトを始め、そこへ、施設に送られそうになった朗も合流し、店長(北村総一朗)の養子となる。更に、店のバーテン、ヘンリーこと岸谷直人)は念動力、また漁も、自らがタイムトラベル能力を持つことを知り、超能力者集団となって、邪悪な超能力者、西尾正人(今井朋彦)、またその所属する超能力者集団、パクス・シエンティアと戦うことになる。
こうして見ていくと、今回の『七瀬』は異色作と言えるかもしれない。原作に忠実なのは、列車に三人が乗り合わせるところだけで、後は奔放なまでに、膨大な情報量のオリジナルなドラマが展開される。『魔夏少女』『家政婦のミタ』を書いた脚本家、伴一彦と、真柴あずさによる脚本は、しかし、サスペンスもサプライズもない(私が見る限りは、だが)。たとえば、高村刑事の追求を逃れるため、七瀬は真っ向から事実を知らせ、高村は納得する。藤子に高村は、「もともと、彼らの敵になったわけじゃない。事実が知りたいだけです」と知らせる。
このドラマ8版『七瀬』では、藤子が非常に大きな存在として描かれるのだが、そこで説明されるタイムトラベルの実相は、なかなかつかみにくい。また、今回は上位自我ではない(ついでに外国人でもない)ヘンリーは、殆ど活躍の場を失っている。
しかし、物語の芯は、他人の心に直接語りかけることのできる七瀬が、「なぜ、超能力が生まれたのか」、という大きな問題になっている。ラスト近く、七瀬はテレパシーで、人びとに話しかける。
「昔、未知能力(台詞のまま)が眠ったのは、未知能力に頼らなくても、お互いを理解できるようになったから。きっと、そう。でも、再び私たちが目醒めた。みんなが心を閉ざして、自分以外の人を分かろうとしなくなったから」。
これはこれで、超能力のひとつの解釈だろうが、私は、賛成しかねる。それは、人類史上、ことばなしにお互いを理解できる時代があった、とは思えないからだ。
しかし、そのように描くことを、否定するものではない。物語に希望を与えるのは、脚本家の良心であり、そこまでを否定してしまったら、人間の持つ善なる要素をも否定しかねない。
ただ、カタルシスを基本的に作らない作劇は、強いストレスをもたらすものであり、もう少し、途中でなんらかのカタルシスをもっと加えても、損はない、とは思う。フェリーで海へ落ちた女の子――このドラマでは少女になっている――を助けるシークエンスはあるものの、それはそれだけの話と、私には見えてしまう。そもそも、一行がフェリーに乗る必然性は、殆どないのだ。後付けの理由であり、必然性が感じられない。このドラマには、そういう箇所がいくつかある。
先に書いたように、このドラマは膨大な情報量を持っているので、私の読み違い、という可能性は捨てきれない。申しわけないとしか言いようがない。
(この節、つづく)
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