第四節の1 少年ドラマシリーズ『七瀬ふたたび』
●四節の一/少年ドラマシリーズ『七瀬ふたたび』(七九)NHK
。(ご注意:この項目では、NHK『七瀬ふたたび』の詳細なストーリーに触れています。現役で売れているDVDですので、くれぐれもご注意下さい)
なぜこのタイミングで、『七瀬ふたたび』が出てくるかなのだが、当初の予定では、テレ東版『七瀬ふたたび』だけを紹介するつもりだった。それが、絞ったとはいえ、挙げられるだけの作品群を精査しよう、という気持ちになったため、ここでは『七瀬ふたたび』を、全バージョン、紹介することになった。
筒井康隆が原作のドラマは、『時をかける少女』といい、本作の前に当たる『家族八景』といい、アニメ化された『パプリカ』といい、映像化回数が多く、この『七瀬ふたたび』も、五回、映像化されているのだが、その理由は、いずれも女性主人公の話であり、その女性が魅力的であることと、原作に忠実に描かれているのが、魅力なのかも知れない。
先に書いたように、『家族八景』の続編に当たる本作は、都会での生活に疲れて旅に出たテレパス・火田七瀬(多岐川裕美)が、旅に出た途中の列車が土砂崩れに巻きこまれて乗客が死ぬことを予知するところから始まる。その汽車には、同じように超能力を持つ画家、岩渕恒夫(堀内正美)と、少年ノリオ(新垣嘉啓)が乗り合わせており、三人は、前の駅で列車を降りる。七瀬は、車内の乗客にも汽車を降りるよう呼びかけようとするが、予知の通り、歯牙にもかけられず、最低限、自分たちの命を守ることしかできない。
こうして知り合った七瀬たちだが、超能力者は迫害される運命にある。テレパスである七瀬やノリオ、予知能力者の恒夫は、常人には力を知られないように、生きていくしかないのだ。
とりあえず、恒夫は北海道へ旅立ち、七瀬とノリオは東京へ行く。「ふたりの存在を不自然にしないためには、雑踏が必要だった」と、ご存じナレーションの神・芥川隆行が語るからそうなのだろう。七瀬は、とりあえず現金収入が欲しいため、バーのホステスとして働くが、そこで透視能力を持つ会社社長に出遭い、迫られる。それを助けるのが、黒人のウェイター、ヘンリー(アレクサンダー・イーズリー)で、彼は七瀬の命令を受けたときだけ、力を発揮する。七瀬はヘンリーの上位自我と呼ばれる存在なのだ。つまり『御主人様』、と言えば分かりやすいだろうか。
その会社社長をやっつけたため、七瀬はフリーの記者、山村(高橋長英)に目をつけられる。都会に居づらくなった七瀬たちはフェリーで北海道へ行くが、そのフェリーの中で、殺人未遂の事件に巻きこまれ、窮地に追い込まれたところを、タイム・トラベラーの漁(すなどり)藤子(村地弘美*)に助けられる。
やがて彼らは、北海道に安住の地を見つけるが……これ以上の話は、原作にほぼ忠実なので、せめて原作だけでも読んでいただきたいが、七瀬たちは、超能力者の存在を認めない、邪悪な集団に追いつめられる。
石堂淑朗の脚本は、非常にスマートなものである。記者の山村が、七瀬たちの存在を明るみに出そうとしたとき、恒夫は語る。
「どうしても分かってもらえないんですね。僕たちには、あなたが武器としているペンとカメラを奪うことは容易にできます。そんなことをしたくない」
このセリフで、山村は全てを悟り、カメラのフィルムを抜き、原稿を捨てる。そして七瀬たちの協力者として働くのだが、物語の最後で森に倒れていた山村は、ガソリンスタンドに停めていた車の許に戻ったとき、店員から、自分が一ヶ月間、気を失っていたらしいことを知る。山村は内心で呟く。
「あのできごとは、ほんとうにあったことなんだろうか。ほんとに七瀬って女の子は、いたんだろうか」
そこへ芥川隆行のナレーションが入る。
「これで、物語『七瀬ふたたび』は終わった。七瀬が三たび、諸君らの前に現われるかどうかは、誰も知らない。作者、筒井康隆を別にして」。
そこで物語は、すぱっ、と終わる。
このドラマが始まる二年前、本作の続編、『エディプスの恋人』が発表されているので、その気になれば、続きを知ることは可能だったのだが、当時の私は、そんなことには思いもよらず、ショッキングなラストシーンに茫然としていた記憶がある。
少女ヒーローというには、やや設定年齢の高いらしい(実際に語られたことはない)七瀬だが、少年ドラマシリーズ、フジテレビ『木曜の怪談』枠など、ジュブナイルのドラマ枠で光を放った、というかショックの大きかった本作は、敢えて紹介すべきものと考える。スタッフも、『少年ドラマシリーズ』の制作・黛叶、演出の佐藤和哉などが参加している本作を、少女ヒーロー作品とすることに、さほどの無理はないだろう。
時間軸が錯綜するのでためらわれるが、『スケバン刑事Ⅲ』で扱われた、運命共同体となった小集団が、自分たちのための「家族」を作ろうとする試みは、この七九年では、迫害と阻害しか得られなかった。恒夫は、山村に正体を明かしたときに言う。「あなたは世間の好奇心ってものを、軽く見過ぎているんじゃないですか」。
この、超能力者がその能力が故に不幸に陥る、という設定は、九二~九三年の『NIGHT HEAD*』や、宮部みゆき原作の『クロスファイア』(映画は〇〇年)などにも引きつがれる、超能力ものの定番とも言えるのだが、どれを見ても、ハッピーエンドになることは、できない。
長いこと、その理由を考えていたのだが、オラフ・ステープルドン『オッド・ジョン*』(三五)の昔から、超能力者集団は孤独だった。その系譜を……と書いたときに、ごく単純な答が出てきた。どんな人間であれ、他人に本心を読まれることを好みはしない(と、私は思う)。自分の頭の中でぐらいは、あるいは奔放な思考や妄想までも、自由に思い巡らせたいものであり、それを「本心」と呼ぶべきではないだろう、と思うのだ。
電車の中で、向かいに座っている女性の足がきれいでも、「きれいな足だなあ……」と思ったとして、それが相手に分かった場合、不快に思われないとも限らず、しかし、それは単純な思考のかけらに過ぎない。しかし、それを知られることは、決して望ましいものではない。
超能力者は、この『七瀬ふたたび』の中で言われているように、「普通の人たちとの断絶の辛さ」に縛られている。それが故に、切ない存在である。『七瀬ふたたび』は、そこに生まれる切なさ故に愛されている作品なのかもしれない。
なお、『七瀬ふたたび』は、全てがDVD化されており、このNHK版も三巻に収められている。
*村地弘美――龍角散のCMで、マドンナ役として評判になった、それこそ美少女。『横溝正史シリーズ』の『仮面舞踏会』にも出ている。
*『NIGHT HEAD』――豊川悦司、武田真治の、それぞれの出世作となった深夜ドラマ。超能力を持つ兄弟の、放浪と迫害を描く。脚本・演出/飯田譲治
*オラフ・ステープルドン『オッド・ジョン』――迫害された超能力者と権力との闘いを描く。日本での訳出は六七年。
(この節、つづく)
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