第三節の3 TV『ねらわれた学園』

●テレ東版『ねらわれた学園』(九七年八月~九月)円谷映像


 村田和美が主演の『ねらわれた学園』は、テレビでも、テレビ東京系列で土曜深夜に放送された。メイン脚本家は『エコエコアザラク』の村井さだゆき氏であり、小中千昭氏なども参加している*。

 この壮大なドラマを、一項目で説明できる自信はないが、なんとか取り組んでみよう。

 物語は放課後の一里塚学園高校。居眠りしている西澤響子(三輪ひとみ*)から始まる。壁新聞では、高見沢みちる(馬渕英里何)が生徒会長に当選したこと、学校地下で(DVDのライナーでは学校付近で、となっている)で縄文遺跡が発掘されたことが示されている。

 新聞部のサイトに、谷山先生と響子の密会写真が掲載され、先生は休職処分になる。響子の親友、和美(村田和美)は抗議に押しかけるが、相手にされない。一方、関耕児(柏原収史)は、コイントスで七七回、表を出す。響子の一件で、和美と耕児が口論中、パソコンのモニタから怪しい光と共に、胎児のイメージがあふれ出し、ふたりは頭を抱える。異常が収まって、見ると新聞部のサイトで、響子の顔のモザイクが取れて、素顔が映っている。放課後のカラオケで、和美は響子に、不倫はよくない、と説くが、響子は取り合わない。

 その響子は、学園へ来ると、指先にシャーペンを立てることができる。他の生徒も、蛇口の水流を曲げたり、煙草にひとりでに火を点けたり、次々に怪現象を起こす。さらに響子は、世界史の時間に当てられるが、答をとめどなく語り始め、露骨に異様な様子を示す。

「九八年六月一〇日、一五のフィールドによる情報統制管理実験開始。九九年五月二八日、五ヶ国同時クーデター勃発。二〇〇〇年一二月三一日、粛清。二〇〇一年一月一日、暫定的世界政府樹立」。語り終えて、響子は微笑む。立ちすくむ和美。

 ……とまあ、これだけの内容が第一話に詰めこまれている。村井氏の脚本は、異様な状況を、説明なしにぶつけてくる特徴があるが、このテレ東版『ねらわれた学園』では、その異能が最大限、発揮されていると思う。

 その後、ストーリーは学園の異常さと響子の異常、そして高見沢みちるの異様な言動と、回を追うにつれて異様さが増していく。第三話では、掲示板に生徒会からの「お知らせ」が貼り出される。「7月1日付けをもって従来の校則は全て廃止されました。以降、本学園は自立共鳴システムによって運営されます」。

 和美はみちるに迫るが、常に無気味な微笑みをたたえたみちるは、得体の知れない力で、和美を圧迫する。話し合っているうちに、和美は汗まみれになり、鼻血を流す。微笑むみちる。「今のあなたの悩みとか迷いとか、いやな気分とか、そんなの全部、消えちゃうのにな。崇高にして深遠な、あの人の思考(聴取不能*)に触れさえすれば」。

 生徒たちは生気をなくし、異常な行動を取るばかりだ。教員たちも、怪しい言動をしている、と担任の岡嶋先生は語る。職員会議にみちるが出席し、岡嶋先生は排除されたのだ。その岡嶋も、異様な言動を始める。やがて、和美までがみちるの力に支配されたように見える。

 難解な物語は、しかし、やがてひとつの線へと収束する。事件の背後にいる京極の、あまりにも奇怪な正体と、高見沢みちるとの関係へと。私のノートでは、五ページにわたって記録したその結末は、今までの『ねらわれた学園』を圧倒するものだった。ここに記したいが、どう詰めても、著しくバランスを欠くので、割愛せざるを得ないことを、お許しいただきたい。ただ、いたずらに難解なだけではなく、全てのことに理由がある、とだけは言っておこう。

 ただ、単なる娯楽として見ると、次のような会話を楽しめねばならないことを、お断わりしておく。


みちる「でもなんでだろう。あと一歩で臨界値超えるはずだったのに。和美の力って何?」

和美「私の力じゃないよ。分からない? 小数点二十位以下の誤差が、ストレンジャートラクターを生むんだよ」

みちる「思い出すべきだった。進化はいつも、偶然に支配されてたんだもんね」


 和美は主役であっても、ヒーローというわけではない、とも言えるのだが、この作品、そして『ねらわれた学園』全体は、本書に掲載すべき価値がある、と思うのだ。このテレ東版も、できれば二度、三度と見ていただきたい作品である。話が「濃い」のだ。

 作品の密度に筆が追いつかなかったことを、ここにお詫びするが、最後にひとつ、この作品が「ノリノリ」で取られた証拠を残しておこう。第三話で、和美たちが地下へ行こうと階段を降りていると、踊り場に、なんの説明もなく男の子が立っていて、和美たちはそれに気づいていない、というカットがあるのだ。これはスタッフの遊びだったのだが、作品の異様なムードと相まって、テレビ局には「オバケですか?」と、問い合わせの電話が多数寄せられた、という。この作品が、SFというよりホラーに近いものであることを示すエピソードだと思うのだが、いかがだろうか。


『ねらわれた学園』は、本書に収録したものの他に、角川映画によるアニメ版があるが、今回は、言及する余裕がなかった。アニメの中で少女ヒーロー映像を探ると、私の能力では到底、追いつかないのである。これもまた、お許しいただきたい。



*村井さだゆき「氏」――一緒に仕事をした人は呼び捨てにするのに抵抗があるので(テレビアニメ『吸血姫美夕』)、「氏」をつけた。小中千昭氏も。

*西澤響子――『ねらわれた学園』での彼女は、杏子と響子のふたつの表記がある。ここではできるだけ、それぞれの作品に当たってみたが、悔しいことに、曖昧のままだった。原作では響子。

*三輪ひとみ――『D坂の殺人事件』の小林芳雄少年や、数多いホラー映画に出演した。

*聴取不能――この『ねらわれた学園』では、数箇所、聴き取れない箇所がある。私の能力不足によるものか、セリフが難しすぎるのかは、いまのところ不明。


(この節、おわり)

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