第三節の1 『ねらわれた学園』前史

●『ねらわれた学園』前史


(ご注意・新田恵利主演の月曜ドラマランド『ねらわれた学園』の結末を明かしています)


 この章はテレビ東京版に時系列を合わせているため、『エコエコアザラク』の次は『ねらわれた学園』になる。

『ねらわれた学園』は、もともと関耕児が主役の話で、最初に映像化された、NHK少年ドラマシリーズ『未来からの挑戦』*(七七)では、関耕児が主人公となっているのだが、先に触れた角川映画『ねらわれた学園』(八一)から先は、同級生の楠本和美(角川版では薬師丸ひろ子)が主役となっている。これも角川=大林の先駆けである。なお、『未来からの挑戦』は、一部だが復元されたDVDソフトが出ている。

『ねらわれた学園』の、そもそもの主題は、ファシズムへの抵抗である。眉村卓の原作では、具体的には耕児の父の、次の台詞で表わされる。


「ちがうね」

 父は一語一語くぎるようにいった。いつになく、鋭い目になっていた。「取り締まるものと取り締まられるもの、正しいものとそうでないものを、どういう基準で決めるんだね? こういうことは、ひとりでにエスカレートする。生徒たちはいまのところ、そのパトロールなるものが、正しい側に立っているように考えているのだろうが、やがて、正義の名のもとに、いろんなことがおこなわれるようになる。みんなはそのたびに、まあこの程度まではしかたがないと一歩ずつ譲歩し、あるときはっと気がつくと、身動きできなくなっているんだ。それが、ファッショというものだ。耕児たちの学校は、いまその道をたどりはじめている。やがて、お互い同士が警戒しあい、信じあえなくなるような状態がくるかもしれない。その意味で……私は危険だと思うね」(角川文庫より)


 これが現在の世相に通ずることは、誰にも否定できない、いや、否定してはいけないことなのだ。未来社会を良くする、という名目の許、学園をファシズムで支配しようとする高見沢みちる、その背後にいる未来人・京極と、耕児・和美ら自由を守る者との闘いのドラマなのだ。

『未来からの挑戦』以降、このテーマは薬師丸ひろ子版、原田知世版、そして、ここに紹介する新田恵利版のドラマに受け継がれている。ここでは、まず、あまり語られることのない新田恵利版を紹介しておこう。


 新田恵利版の『ねらわれた学園』(八七年、フジテレビ・東宝)は、いわゆる月曜テレビランドの一本のせいか、ウィキペディアにも詳しい記述はない。しかし、このドラマの企画は亀山千広(後にフジテレビ社長を務めた)、石原隆の『踊る大捜査線』コンビ、監督が『禁じられたマリコ』の萩原鐡太郎ということで、信じてもらえないほど、生真面目に作られている。

 ドラマの初めから、和美(新田恵利)や耕児(津川俊之)の通うセイリョウ学園*は、高見沢みちる(藤代美奈子*)の率いる生徒会パトロールによって、厳しい規律の締めつけに遭っている。そんな中、冒頭五分ほどで、和美の超能力*は発動し、みちるは未来から来た京極(京本政樹)と、学園を改造すべく話し合っている。いい滑り出しだ。

 原作にある程度忠実なのは、このドラマでは、和美はここぞというときにしか超能力が使えず、また、ラストのみちるとの対決でも、勝つことはない。その代わりに耕児が行動力を発揮して、生徒たちを団結させていく。ひとりひとりでは、みちるの超能力に屈してしまうが、みんなが一緒に闘えば、みちるにも裁き切れない、という、ファシズムへの抵抗として考えれば、至ってまっとうな物語である。

 結局、京極は学園支配を諦めるが、「我々が狙う学園はいくらでもある」、と捨てぜりふを残し、みちると共に消える。ラストシーンでは、和美は、他の学校の制服を着たみちるとすれ違う。余韻が残る結末である。

 新田恵利は、想像されるほど大根ではないが、女優として大きく出られるほどの演技力はない。または学業と仕事の両立で多忙だったのか、あまり前面には出ていない。そのせいか、たとえば和美の妹には、萩原監督の『禁じられたマリコ』や、『V・マドンナ大戦争』で脇役を務めた今野りえが配されるなど、少女ヒーローの観点から見ても、おもしろい作品になっている、と私は思う。

 版権の問題などがあるのかもしれないが、ぜひ再放送して欲しい作品だ。


【注】


*『未来からの挑戦』――原作は眉村卓の『ねらわれた学園』と『地獄の才能』。

*セイリョウ学園―― 聴き取った限り、『星稜学園』辺りが妥当かもしれないが、今までのところ、確定する証拠は見つかっていない。

*藤代美奈子―― 前に説明した通り、『スケバン刑事 風間三姉妹の逆襲』などに出演している。『太陽にほえろ』への出演歴もある。

*超能力――番組内でそう呼ばれているのでそれに従う。


(この節、つづく)

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