第二節の4 三本の映画『エコエコアザラク』

●三本の映画『エコエコアザラク』(〇一~〇六年)


(ご注意・加藤夏希主演の『エコエコアザラク』、近野成美主演の『エコエコアザラクR-Page』『B-Page』のストーリーと結末について触れています)


 今世紀に入ってからの『エコエコアザラク』は、映画でも数本が作られている。

 まずは、〇一年四月の『EKO EKO AZARAK エコエコアザラク』(ギャガ・東映ビデオ・円谷映像)。ミサを演じたのは加藤夏希。かなり原作に近い顔立ちである。脚本は、八〇年代に『星空のむこうの国』の脚本や、数多くのジュニア小説、特にコバルト文庫で活躍した小林弘利、監督は、『ケータイ刑事』シリーズなどで活躍した鈴木浩介(俳優の鈴木浩介とは別人)。

 八王子の山中で起きた若者たちの惨殺事件から、ひとりだけ生還した少女・黒井ミサ(加藤夏希)は、事件の記憶を失っていた。彼女を疑う刑事たち(諏訪太朗、津田寛治)や、ミサを直観的に魔女と決め付け、執拗にいたぶるテレビディレクター・前田(遠藤憲一)によって、ミサは窮地に立たされる。

 一方で、イギリスにいるミサの父は、母を殺して自分も死んだらしいが、このエピソードがなぜ入っているのか、特に納得のいく説明はない。同級生の仁美(大谷みつほ)や、精神病医の田上(光石研)は、ミサを救おうとするが、暴走する前田は、行きずりの女子高生をミサに仕立て上げ、魔女としてテレビに出演させる。そのおかげで、一度はミサを信じてくれた同級生もまたパニックになり、ミサは学校を逃げ出し、仁美や田上、仲間のケンジ(高野八誠)らと共に、テレビ局へ向かう。そこで前田にサディスティックに挑発されたミサは、不意に事件の記憶、自分が本物の魔女であることを思い出す。

 刑事たちも詰めかけ、事件の関係者全員がスタジオ集まったとき、ミサは呪文を唱える。意味ありげなスタジオのドアのアップ。いよいよミサの力が発動……と思ったとき、映像はドアのアップから、いきなり街頭のテレビへと変わり、テレビ局で関係者全員が惨殺されたことが告げられ、ドラマは終わる。

 いやいや、そこまでいたぶったら、ミサが実際に映像上で惨劇を引きおこす、負のカタルシスでしょう? と思うのだが、ほんとうにこの作品では、クライマックスが肩すかしされてしまうのだ。これには参った。

 ただまあ、加藤夏希や遠藤憲一のファンなら、それなりには楽しめるのではないか。

 なお、この映画は、ウィキペディアでは『ビデオ映画』、とされ、他と分けているのだが、DVDのケース、また、Japanese Movie Datebase(日本映画のデータベースサイト)でも、れっきとした劇場用映画、となっている。


 続いては、〇六年の『エコエコアザラク R-Page』『B-Page』の二本立て。制作はエイベックスエンターテインメントと円谷エンターテインメント(旧・円谷映像)。

『エコエコアザラク』を描くとき、難しいのは、具体的な事件を描くことだ。テレビシリーズの面白さを味わった人間には、なぜ難しいのか分かりづらいのだが、少なくとも映画化された『エコエコアザラク』は、どれも、事件そのものが物足りない。人物に着目して言うと、ミサが想像以上に、何もしないまま終わることが多い。

 今回のミサ(近藤成美)も、黒魔術の結界が破れ、悪魔・エゼキエルが地上に降りたことを受けて、謎のリーダー(IZAM)を初めとする黒魔術集団によって、どこかの地方都市に遣わされるのだが、驚くほど何もしない。彼女だけではなく、一年前から、問題となっている神父(篠井英介)の死について追うジャーナリストの山内(やまのうち)隆も、なんとなくうろちょろしているだけで、ふっ、と気を抜くと、いなくなったことすら見過ごしてしまう。前編に当たる『R-Page』では、悪魔の降臨に関わったらしい修道女・成瀬梢(伊藤裕子)が破滅して終わり、後編の『B-Page』では、そもそものエゼキエルの正体について、まあまあ意外な結末が待っているのだが、その頃には、観客は本題への興味を失っているのではないか、という疑いがある。

 ミサを演じた近野成美は、あごがしっかりしているが、そう悪くはない。しかし、例えば後編に出る野村宏伸が、DVDソフトのキャスト紹介では「リョウの弁護士」となっているのが、映像のほうでは「医師」になっており、結果的にはそんなことどっちでもよくなっている。そういう混乱がある作品で、個人的には、これでいいのかなあ……と不安になる。

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