第一節の8 『超少女REIKO』

●『超少女REIKO』(九一)東宝


 城戸賞準入賞作シナリオを、作者の大河原孝夫自身が監督した作品。大河原監督はもともと東宝の助監督であり、初の監督作となった。

 この映画を、私は封切り日の初回に観に行ったのだが、モギリ*のおばさんたちが、始まる前から「これはだめだね(興行的に)」と言っていたのを思い出す。また当時、映画評論家の野村正昭さんにうかがったのでは、映画の主演女優は、体格として下半身がしっかりしていないと成功しない、観月ありさは下半身が弱い――とのことだった。興味深いお話だ。

 実際に見てみると、映画の中で、九藤玲子こと観月ありさは、確かに立ち姿がどうも落ちつかない。そのせいか上半身から上のカットが目立つ。よって、動きが制限されている。

 ストーリーは、単純明快だ。ある高校*に幽霊騒ぎが二十六件巻き起こり、エスカレートして行く中、生徒会長・緒方志郎(大沢健)率いるESP研究会が発足するが、幽霊の相手ができるのは、一年生の玲子ひとりであり、そこから延々と、玲子と幽霊の戦いがくり広げられる、そういう話である。

 特撮面では、AKIRA壁*を実現しようとしたり野心的で、合成技術も見事なもので、文句はない。ホラー色も、サプライズシーンや特殊メイクによる亡霊の描写など、見るべきものがある。しかし、話が単純過ぎる。必要なシーンが足りない。ESP研究会員は、パソコン担当の新城高史(磯崎洋介)以外、能動的には何もしていないし、玲子にしたところで、驚くほど何もしていない。シナリオにあった校舎の大破壊シーンがないため、地道に霊を追うが、祓ってはいない。しかも、事件の影にいた『真犯人』を倒したのは、玲子ではない。

 一番の問題は事件の実相、ひとりの男子高校生を巡る女生徒たちの葛藤という主題が、なおざりにされているところにある。短いセリフでの説明はあるが、最低限のドラマは欲しかった。

 これで終わりか、と思われた大河原孝夫監督だが、その後、平成ゴジラシリーズを撮ることになる。それはそれで、よかった、と思う。


【注】


*モギリ――映画の入場券の半券を「モギる」人。つまり受け付け。

*ある高校――シナリオにも、「ある高校」としか書かれていない。

*AKIRA壁――大友克洋『AKIRA』で有名になった描写。人が『力』で壁にぶつかると、その人を中心に、壁が一定の円を描いてひびが入る。


(この項、おわり)

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