第一節の7 『禁じられたマリコ』(Ⅴ)
『禁じられたマリコ』(つづき)
長いストーリー紹介が終わった(お疲れさまです)。
まあそういうわけで『禁じられたマリコ』は、形の上ではハッピーエンドで終わる。
しかし既に書いた通り、雪山で復活して現われた麻里子は、一ショット、微笑が入るだけで、後はまるで人格破壊を尽くしたかのように、無表情に立ち尽くしているのだ。
この説明がバランスを崩して長くなったのも、そこに至る過程を知っていただきたい、という希望もあってのことなのだが……。
これが大映テレビなら、どんなに強引な手を使っても、麻里子を幸せそうに描くだろう。そして実際、今井詔二の脚本通りならば(脚本が入手できないので分からないが)、麻里子はナレーションの通り、明るく幸せそうに微笑むはずなのだ。
だが、そうは行かなかった。なぜ?
以下は、『映画秘宝・夕焼けTV番長』に私が書いたものの修正稿の一部である。
麻里子のポルターガイスト現象の発現は、回を追うごとに丹念に描かれていき、パイロキネシス、物体破壊、テレキネシスなどがリアルに描かれた。当時のビデオ合成は、フィルム画質とマッチせず、テレキネシスで浮かぶ木馬などは、正直、かなり浮いていたが、それをカバーするように、例えば麻里子が悲しむと薔薇の花がしおれる、といったきめ細かい描写もあった。
岡田有希子の演技もめきめきと向上し、抑えきれずに超能力が発動してしまう瞬間の恐怖の表情、人格破壊を起こしたときの無気味な無表情もぞっとするものだった。
ただ、ただですよ。シリーズ全話を見ても、麻里子が微笑むのは元太郎たちを心配させまいとする作り笑顔とか、そういうもので、彼女自身が幸せに微笑むショットは、ほとんどない。数取り器で数えようかと思ったほどだ。
岡田有希子が俳優デビューして、初のシリーズ主演作品が、これでいいのだろうか。
ドラマのできはいい。「東宝のSFTVドラマでは最高だ」とは大先輩のことばだが、作劇も、役者も真剣そのものだ。唯一、峰岸徹だけが妙な帽子に黒ずくめの怪しげな刑事、という役を怪演していたが、それらしい見せ場もある。たぶんこの人は、こういうドラマをどう演じるべきか、分かっていたのだろう。
しかし、何度も言うようだが、麻里子は最後まで、幸せそうには見えないのだ。
同じ文中で、私はこうも書いている。
麻里子は、やはり、死んだ──そうとしか、私には、思えなかった。
最近はインターネットというものがあるので、調べてみると、私と同じように麻里子の死を感じたのか、誰かの書いたものを引き写したのか、『麻里子は死んだ』、という断定の記事が散見される。
だが、私が書いたのは、『そうとしか、私には、思えなかった』、もう一回書くが『そうとしか思えなかった』という文章であり、麻里子は簡単に、死んだと決めつけられるものではないのだ。
みんなが(たぶん私も)そう思い込むのは、このドラマが終了して間もなく、岡田有希子が謎の飛び降り自殺を遂げてしまい、その後追いで若者の連続自殺が続いたことと、岡田有希子の遺族の意向とで、ドラマの再放送がされなくなった、ということが頭にすり込まれて、両者を結びつけるに至った、後追いの印象なのではないか──というのが、二〇二一年の私の結論である。
ただ、本稿を書くために、もちろん『禁じられたマリコ』を全話見直してみたが、麻里子があまりにも可哀想、という印象を、持たざるを得なかった。
やがて映像が風化して、あるいはどこかで復活しても削除される可能性も考えて、ここに詳しく書いたが、このドラマを応援することは、逆に死者を鞭打つことになるのかもしれない……。
(この項、終わり)
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