【新稿】第一節の3 『禁じられたマリコ』(Ⅰ)

『禁じられたマリコ』(八五年一一年~八六年一月)東宝・TBS


(注意:この項では、故あって『禁じられたマリコ』の全話と結末を明かしています)


 前置きがちょっと長いが、もともとTBSの火曜二一時枠のドラマが沸騰したのは、八三年二月の東宝制作『積木くずし』(八三)が由来だった。このドラマに主演した高部知子は、高い評価を得るが、その直後、一五歳にもかかわらず、裸で煙草をくわえていた写真が写真週刊誌に載り、一気にバッシングを受け、テレビから消える。それから先が、『高校聖夫婦』を経て『スチュワーデス物語』『不良少女とよばれて』と、大映テレビが絶頂を迎える。

 その後に来たのはさっきの高部知子のドラマ復帰作となる『転校少女Y』(八四年九月~一二月)*。文字通り高校に転校してきた少女が、バレーボールに打ち込むオリジナル作品だったが、人気はいまひとつだった。そこで火曜枠は再び大映テレビ作品となり、『少女に何が起こったか』で一気に平均視聴率二一・四%を叩き出し、続く『乳姉妹』も好評だった。

 そこへ再び食い込んできたのが東宝制作、岡田有希子主演の『禁じられたマリコ』である。このドラマについては、過去に二回は詳しく書いているので、適当にかいつまんでおこうか、と思ったのだが、後で書く理由で永久に封印されたので、この度、少し詳しく紹介しておくことにした。

 話は一九七一年、ロサンゼルスから始まる。ひとりの日本人幼女が部屋を見回すと、クリスマスツリーやおもちゃの木馬が宙に浮かび、飛び回り始める。手を叩いて喜ぶ幼女。しかしその夜、マリコは自分でも知らない男が銃殺される悪夢に襲われて、汗をかいて苦しむ。と、部屋中の家具やおもちゃが宙に舞い、がたがたと動き始める。ポルターガイスト*の能力を身につけた幼女、杉浦麻里子の仕業である。

 両親、杉浦元太郎(竜雷太)と加奈江(岩井友見)はその能力におびえながらも、麻里子を普通の女の子として育てようと決意する。すかさず、怪物(たぶんガーゴイル)の彫像、幽霊らしいとある少女の姿*、魔女狩りの絵などの無気味な写真が映る中、城達也のナレーションが入る。

「この世の中には、科学では解明できない、たくさんの不思議な現象がある。人はそれを、超常現象と言い、ある者は、悪魔の業だと怖れ、ある者は奇跡だ、超能力だとあがめる。……このドラマは、そうした超常現象に翻弄されながら、過酷な運命と闘い、ほんとうの幸せをつかんだひとりの少女の、愛と勇気の物語である」

 そこで映像は、高校生になった杉浦麻里子、即ち岡田有希子の笑顔のアップになるが、その笑顔がX線写真のように、モノクロで光と影が反転し、その目が妖しく光ったかと思うと、タイトル『禁じられたマリコ』の『マリコ』の文字が激しい炎によって表現される──と言うのが、出だしである。

 ここまでで五分強。一刻も早く本題に入ろう、という意気込みの感じられる、言ってしまえば大映テレビ的な出だしだが、それもそのはず、番組すべての脚本を書いた今井詔二は大映テレビ作品も多く書き、後には『仮面ライダー剣』など特撮番組も手がけている。

 ただ、若いアイドルの主演番組で、いきなり初アップのカットが、こういう無気味な映像でいいのか、という疑問は残る。毎度のことで申しわけないが、大林宣彦監督が角川映画『彼のオートバイ、彼女の島』で、関本郁夫*の脚本では最後に事故死するはずだったヒロイン、原田貴和子*を、「初出演なので、殺さないでやって欲しい」と言い、了承を得たのとは、大違いだ。

 しかし物語はさくさく進む。「1985年 東京」のテロップの許、元太郎一家はレストラン・チェーンのオーナーとして、日本に戻ってくる。その歓迎のホームパーティーの中、麻里子は二階の自室に侵入した高木竜一(三上博史)に触れたとたん、見知らぬ男が射殺される映像(モノクロになっている)を見て、同時にポルターガイスト現象を起こし、部屋をめちゃめちゃにしてしまう。

「私、病気かも知れない……」

 不安を感じた麻里子は、転校した高校の図書館で超常現象について調べている内、やはり超常現象を研究する教師・光井邦彦(広岡瞬*)と出逢い、仲よくなるが、それを目撃した女生徒、前田美也子(生田智子*)に嫉妬され、嫌がらせを受ける。痛めつけられて、また力が発動、スコップが宙に浮き、美也子を襲おうとした所を、竜一に助けられる。

 竜一や元太郎の態度に不信を感じた麻里子は、戸籍を取り、自分が養子だと知る。実の父は、高木正彦(潮哲也*)と言うジャーナリストで、麻薬の密売組織の正体を暴こうとしたが、刑事に射殺されたのだ……と高木の仲間、蓮見(南原宏治*)が告げる。蓮見は竜一たちを使い、正彦が遺した、組織の犯罪の証拠となるマイクロカセットテープ*を探させていたのだ。

 一方、家に帰った美也子は、父・前田耕一郎(中尾彬)に麻里子の話をする。耕一郎は、並々ならぬ興味を示す。

 夜、麻里子は、すでに血がつながっていないと分かった両親を前に、それでもけなげに明るくふるまう。だが、部屋へ戻ると、組織の男にナイフで襲われる*。力の発動を感じた麻里子は、心の声で叫ぶ。「お願い、出ないで!」。しかし力は発動してしまい、アイロンが男を襲う。逃げた男は、竜一たちに拉致される。

 警察が呼ばれて、冗談のようなとぼけた帽子をかぶった刑事・黒木(峰岸徹)がねちこく絡んで来るが、麻里子は元太郎のことを考えて、真相は明かさない。

「いつまでも、お義父さんの子どもでいたいから……」。

 元太郎は、妻と麻里子を連れてアメリカへ帰ろうとするが、麻里子は嫌がり、逃げ出す。夜の街で偶然にも光井に出逢い、思わず泣きながらすがりつく。だが、それを偶然にも、通りかかった車の中から美也子が見ていた……。


 これが、『禁じられたマリコ』、第一話のあらすじである。これでもいろいろ削っているのだが、この調子で十二話書いていたのでは、紙数がいくらあっても足りたものではない。とりあえず、次回からはピッチを速くして、ご紹介しよう。

 ただ、物語の濃さは分かっていただけるとありがたい──。


(この項、続く)



*『転校少女Y』──この作品は、『科学忍者隊ガッチャマン』などのアニメ作品でも有名な脚本家、酒井あきよしが全話(第一話のみ上條逸雄との共作)脚本を書いている。

*ポルターガイスト現象──手を触れていないのに、物の移動、何かをた叩く音の発生、発光、そして発火などが起こる現象。

*幽霊らしい少女──露骨な合成写真だが、なぜか伊藤かずえに似ている。

*関本郁夫──東映生え抜きの脚本家・映画監督だが、九三年には『スクールウォーズ・HERO』(松竹)という映画を撮っている。

*原田貴和子──原田知世の実姉。大林宣彦監督の『漂流教室』にも出演している。代表作に『私をスキーに連れてって』など。

*広岡瞬──石野真子と結婚した(数年後に離婚)のをきっかけに、実業家に転身、成功を収めている。

*生田智子──サッカー選手、中山雅史と結婚し、以後も女優を続けている。

*潮哲也──『怪傑ライオン丸』に主演。現在は引退している。

*南原宏治──癖のある俳優で、悪役も目立つが、後で紹介する、つみきみほ助演の映画『櫻の園』では、実直な教師・中村を演じている。

*ナイフで襲われる──念のために調べてみたが、当時、すでにセコムはあったようだが、この家は加入していないらしい。


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