第三章 科学と魔術の間に 第一節の1『タイム・トラベラー』
■第三章 科学と魔術の間に
充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない。
アーサー・C・クラーク*
八〇年代と共に、少女ヒーロー史は終わりを告げた――ように、一旦は思った。
しかし九〇年代後半、少女たちが主人公の映像作品が、次々に現われた。
その系譜での代表作、『エコエコアザラク』が黒魔術を使う少女の物語であることは象徴的だ。事実、九〇年代に入ってからの少女ヒーローは、多くは魔術、あるいは高度に発達した科学に裏打ちされたが故に、かえって魔術的に見える神秘さを身にまとって立ち現れるのだから。
一旦、時計を大きく巻き戻し、この文脈での少女ヒーロー作品を網羅していこう。
*アーサー・C・クラーク――あまりにも有名なこの言葉は、クラークの『未来のプロフィル』に出てくる、とウィキペディアにも載っているが、訳書には出てこない。映画監督など、幅広い活躍をされている、堺三保さんのお話では、改訂版には載っているが、それは邦訳されていないだろう、とのことだった。同じクラークの『楽園の日々』(早川文庫)にあるはずだ、というので取り寄せたところ、該当する文言が「第三法則」の章に詳しい解説と共に載っていると確認した。
●一節の1/『タイム・トラベラー』(七二年一月~二月)NHK
「イヤボーン」と呼ばれる作品群がある。平凡な少女が、ある日、超能力に目醒め、それが抑えられずに「イヤッ!」と叫ぶと、周囲の物や人が「ボーン!」と爆発する、というパターンを指したものだそうだ。
私は長いこと、このパターンの原点を、スティーブン・キングの処女作『キャリー』だと思いこんでいたのだが、『キャリー』の原作が書かれたのは、一九七四年のことである。それ以前に、日本のテレビドラマでは、すでに「イヤボーン」に近いパターンで作られた物があったのを思い出した。それが七二年、筒井康隆『時をかける少女』が原作の、NHK少年ドラマシリーズ第一作、『タイム・トラベラー』である。
このドラマのインパクトは、今でも語りつがれるほど強烈だった。第一回の放映は一月一日。つまり元日である。ぬるい正月特番のバラエティでも見ようか、という所に、いきなり真っ暗な部屋の中で、謎の男(城達也)が世界の怪奇現象を紹介する無気味な映像に、少年少女は、思わず引きこまれて行った。そして、主人公・芳山和子(浅野真弓)は、ラベンダーの匂いをかぐと、悲鳴を上げ、回転しながら暗黒の空間へ溶けていく……というのが、タイムスリップの描写なのである。ちょうどその頃使われるようになったクロマキーというビデオの特殊効果だったが、当時の若い視聴者には、ほんとうに人間が溶けていくような無気味さを叩きこんだ。
ストーリーも、後年、同じ原作で大ヒットした『時をかける少女』(原田知世版)とは違って、超能力をミステリアスに描き、戦争の悪夢までを取り込んだ、硬派とでも言うべき、内容のしっかりしたドラマである(脚本・石山透)。また、未来人ケン・ソゴルを演じた木下清の、当時日本では見たことのないほどの美青年ぶりもドラマに花を添えた。
このドラマは爆発的人気を得たが、当時、ビデオを保存しておく発想がなかったため、再放送はされなかった。よく、ビデオテープが高くて、使い回していた、という話が広まっているが、実際には、テレビドラマは一回性のもので、再度放映するために取っておく、という発想がそもそもなかった、あるいは版権が難しいので保存できなかった、というのが真相らしい。
その代わり、今度は同じ石山透のオリジナル脚本により、『続 タイム・トラベラー』が放映されたが、話の質は決して落ちてはおらず*、またしても好評を得た。
それから三〇年近く経って、『タイム・トラベラー』は、視聴者がかろうじて、一部の回をビデオ録画していたため、それを元に復元され、DVD化された。多くの回ではないが、ファンにとってはたまらないソフトである。
『時をかける少女』の映像化は、この少年ドラマシリーズ版、原田知世版の他に、南野陽子を始めとする各ヴァージョンがあるが(あとがき参照)、戦闘映像という本校の縛りがあり、紙数も予定を大幅に超えているため、割愛せざるを得なかった。失礼。
*『続 タイム・トラベラー』――あまりの好評に、筒井康隆の許可を得て、石山透が小説『続・時をかける少女』(鶴校房)を校き下ろしたほどである。
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