第五節 不良ドラマの衰退

 八〇年代も後半に入ると、テレビにおける不良ドラマは、急速に衰退していった。

『少女コマンドーIZUMI』が不発に終わった東映は、枠が月曜に移って、再び三人の不良が戦う『花のあすか組!』を作っており、根強いファンもいるのだが、私には認めがたい。認めがたい、というのはあくまで私個人が、作品と直接に向き合ったときのことで、ファンを否定するつもりなど、最初からない。好きな人が、好き具合を語ればいいのだ。

 このドラマで私が冷めたのは、開巻間もなく、あすか(小高恵美)の親友・サチが全中裏によって殺され、それがあすかの原動力になっていることだ。『スケバン刑事』シリーズでも、若者が殺される描写がなかったとは言わない。しかし細心の注意を払い、特に少女を「殺す」描写はなかったはずだ。斉藤由貴ら=麻宮サキの不良時代が描かれないように、のっけから重すぎる描写を出してしまっては、安心して楽しむことはできないのだ。

 また、話を学生間の権力闘争に絞ったことも、本作ではマイナスに働いている。全中裏もさることながら、あすか自身が「あすか組」を名乗り(メンバーはひとりだが)、「天下を取る」、と言っている。それはヒーローではなく、単なる組織暴力に過ぎない。また、あすかが「独立スケバン連合」という、名前からして矛盾している代物を組織しようとしている抗争劇の、どこに理念があるだろうか。

 番組を見ていると、たびたびテコ入れを図っている節が見受けられるが、それは成功したとは言えなかった。

 こうして、『スケバン刑事』の系譜は、ひとまず終わりを告げた。


 一方、大映テレビは、やはりアイドルの杉浦幸が、不良との二重人格少女を演じる『ヤヌスの鏡』を作ったが、幼少時の体験から、火を見るとぎんぎんの不良に変わる、ファンタスティックな変身物になってしまった。何しろ、バスの中で交通事故の火を見たとたん、演出上ではなく、実際に不良姿に変身するのだ。『不良少女とよばれて』の、伊藤麻衣子の変貌と比べて、逆に説得力に欠ける。また杉浦幸の演技力不足から、不良のときの台詞は吹き替えになる、という問題なども発生して、この路線は衰退に向かった。『プロゴルファー祈子』の不振も痛い。

 なお、映画『花のあすか組!』については、第五章で、たっぷりと紙数を費やして語ることにする。


 このように、作品上の問題も多々あったのだが、私は、少女ヒーロー映像が衰退した直接の原因は、別のところにあると思っている。即ち、八〇年代後半からの、バブル景気である。

 実のところ私は、バブル景気を悪くは言えないのだ。この現象は、ジュニア文庫(いまで言うライトノベル)のブームも生んだ。その余禄で、私は全く無名で新人賞も取っていないのに、小説家としてデビューできた*。悪く言ったらばちが当たるかもしれない。

 しかしながら、このバブル景気は、それまで社会が、そして少女ヒーロー作品が模索していた、価値観の検討、家族の再構成といった真摯な問題を吹き飛ばしてしまった。何しろ女子大生はおろか女子高生ですらブランド商品が買える(と言われた)時代の到来である。世間が浮き足立つのも無理はない。ただその中で、この拝金主義的な傾向に疑問を持つ人もいた。私のように、本が出たものの、まだレジ打ちのバイトで暮らさざるを得なかった人間も、いた。しかしバブルの前後で、社会の、人生の価値に関する考え方が変わった、と私は感じてやまない。

 そして、バブルが崩壊した後、建て前というものは、完全に社会から姿を消した。我慢も、忍耐もどこにもない。正義も、価値観も。特に最近は、「それどころではない」という世情であり、人間の尊厳と真っ向から向き合ったドラマは、忌避さえされているかのように見える。

 その中でも、少女ヒーロー作品は、その様相を変えながら、さまざまな形でしぶとく生き延びている。それは私にとって、勇気を与えてくれるものだ。

 次章からは九〇年以降の、少女ヒーローの正統な子孫をご紹介しよう。


*小説家としてデビュー――現在では、小説家は殆どの場合、何かの新人賞を獲らない限りデビューできない。


(第二章、終わり)

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