第四節の3 早見優の『キッズ』

早見優の『キッズ』(八六年)松竹富士


 小泉今日子と同期の早見優も、この時期、犯罪映画に主演した。またもや奥山和由製作の『キッズ』である。脚本は塩田千種、監督は高橋正治。

 冒頭、夜の横須賀の歓楽街、米兵と商売女がたむろする通りから一軒の店に入ると、その地下で鹿内孝(原田知世の『セーラー服と機関銃』でもやくざとして活躍した)が、密造銃を数えている――というシーンから、すでに凡百のアイドル映画ではない趣だ。

 その密造銃、通称「キッズ」が盗まれたことから、定職もなくぶらぶらしている隆一(佐藤浩市)が、捜索を請け負う。彼が出入りしている家が、サキ(早見優)の住む米軍住宅だ。サキは、歌い手だった母が亡くなり、米軍の将校の父も本国へ帰ってしまい、バーのウェイトレスをして、弟・智(角田英介)を育てている。彼を大学へ行かせようと頑張っているのだが、智は、歳を食った『不良』の隆一に憧れ、怪しい所へ出入りしたりしている。その智が、実は銃を盗んだ犯人だった。学校でいじめられており、銃を持つことで強くなりたかったのだ。

 と、ここまででは、ヒーローでも不良でもないが、盗んだ銃を最初に撃ってみるのが、サキなのである。モデルガンか本物か試してみるためではあるが、その姿はりりしい。そしてまたサキは、弟にケジメをつけさせるため、横須賀でも危ないと言われる店へ、自らついていく。

 結局、銃の密売を仕切る矢野(小坂一也)によって、智も、思いが通じ始めた隆一も殺されてしまう。カタギとして懸命に生きてきたサキは、復讐に乗り込む。銃を持って家を出る早見優の姿は、緊迫感に満ちている。この辺が、少女ヒーロー映画に加えた由縁でもある。

 映像は、クレーンを多用し、引きの画を多く見せる。乱闘のシーンも、人が死ぬところも、冷静に、客観的に見ている。そこがこの映画の持ち味だろう。

 そして、ずっとパンツルックで働いていたサキが、隆一との思いが通じたとき、ワンピースのドレスを纏って酒場で歌う。そこへ彼の死が知らされ、ひとりの寒々しい部屋で、彼女は下着姿になり、着替えて出ていくのだが、そのときはまたパンツルックに戻っている。少女から女、そしてまた少女へ、という雰囲気が感じられる。フィジカルな表現である。

 早見優が英語が話せる、歌がうまい、という長所を、映画は物語にうまく織り込んで、きっちりとしたバイオレンス映画を作り上げた。


(この節、終わり)

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