第三節の2 『FiVE』

『FIVE』(九七年)日本テレビ


 正統な少女ヒーロー作品が後を絶って久しかった九七年、日本テレビ土曜九時枠に現れたのが、『FIVE』である。この枠は、『金田一少年の事件簿』の成功以来、SFやアクション、ミステリなど野心的な作品を送り出している。また、贅沢な作りにも見えた。例えば一回のエピソードで、萩原流行・増田恵子・石井喧一などが出演し、悪のイメージを高めている。

 人間不信に陥っているアサミ(ともさかりえ)を中心に、惚れっぽいナナカ(鈴木紗里奈)、いじめに会っていたパソコン通のカヨ(篠原ともえ)、薄幸のピアニスト・イヅミ(遠藤久美子)、メカに強いクールなマドカ(知念理奈)の少女五人の犯罪者が刑務所を脱獄し*、謎の男・淀橋(唐渡亮)に命じられて、巨大な敵・早乙女(篠井英介)と戦う。

 宣伝では、少女たちが毎回実行するミッションが、『スパイ大作戦』的である――ということだったのだが、実を言うと、それ自体はあまり面白くない。また、脚本を複数の人間が書いていて、相互に混乱があるため、番組全体としての不良魂は透徹していない。最終回に到っては、ラストの映像の意味が分からない*。ノヴェライズまで読んでみたが、現実なのか幻想なのか、解釈の材料がない。そういった不満はある。

 だが、第三話からは、脚本に待ってました! 橋本以蔵が参加した。ああ、分かってるな制作者は、と放映当時、私は思ったものだ。この話、由緒正しい不良少女もののバリエイションだからである。

 橋本以蔵は本領を発揮し、不良少女たちをこの上なくかっこよく見せてくれる。第三話では、落ちこぼれの若者を矯正するため(またか、とお思いでしょうが)サイコセラピーを施す、との名目で、実は若者たちを食い物にしている組織が登場する。敵の一人(峰岸徹)に近づいたナナカは、つい彼に惚れてしまう。と、アサミは呟く。

「男に惚れる、夢を捨てる、仲間を捨てる、最後に自分を捨てる。それが女の結末だよ」

 分かっていたはずなのに、つい愛に走ったナナカは、結果的に、峰岸徹を死なせてしまう。涙にくれる彼女に、淀橋は言う。

「悲しいか、ナナカ。今はその感情を味わえ。刑務所にいては、知ることができなかった悲しみだ。いつかその感情が、お前の勲章になる」

 そして第五話では、少年たちの自動車窃盗団が早乙女の餌食となる。少女たちは、少年と仲良くなり、特にマドカは、リーダーの青年に愛情を抱く。だが、実はその青年は早乙女の息子であり、しかも利用されているだけだった。目の前で、青年が拷問を受けるのを見るに耐えず、仲間たちの居場所を吐いてしまうマドカ。アサミは彼女の裏切りを知りながら、青年たちを国外へ逃がし、単身、マドカを救出に向かう。

 完全に、ヒーローと「助けられる女性」の役割は逆転している。『紅一点論』*の著者は、こういうものをどう思うだろうか。あるいは、『スケバン刑事』シリーズや『セーラー服反逆同盟』における男子生徒のマスコット化を。

 そして、早乙女と対面したアサミは、自分のトラウマとなった幼少時の、父にまつわる事件が、実は早乙女の陰謀だったことを知り、叫ぶ。

「自分の血を呪い、顔すら覚えていない父親を蔑んで生きてきた。自分に生きてる価値があるとどうしても思えなくて、自分には注がれなかった愛を否定した! (中略)おやじもあたしもクズじゃない! てめえの犯罪を暴き、てめえこそクズだって思い知らせてやる! その上で、這いつくばらせて撃ち殺す!」

 この魂の叫び、家族のアイデンティティは、『不良少女とよばれて』以来連綿と続く、少女ヒーローの本道を行くものだ。

 しつこいようだが、九〇年代、不良ドラマは「非行の礼賛につながる」という理由で、首都圏では再放送もされなくなった。その虚構性と、根底に流れる主題を感じ取れない、鈍感な大人の仕業である。

 だが『FIVE』に見るように、「売り」を変えてやれば、まだまだ少女ヒーロー作品は作れるのである。


 八〇年代には、映画でもいくつかの少女ヒーロー作品が作られた。いずれも、私のハートをがっちりとつかんだ作品である。次節から、順に紹介していこう。


【注】

*少女五人――実際には、ともさかりえは脱獄後に現われる。代わりに脱走に加わっていたのは、特別出演の榎本加奈子。

*『FIVE』のラストの意味――マドカを除いて全員が死んだはずが、唐橋の骨壺が空っぽになっていて、刑務所にいるマドカの独房の壁に穴が空いて、仲間たちが連れ出しに来る。まったく説明や伏線がないので、解釈のしようがない。宿敵との対決で倒れたアサミはともかく、イヅミは飛び降り自殺しているのに。

*『紅一点論』――ヒーロー番組で、女性キャラが添え物になっている、という「見解」を元に一冊を費やした、高名な学者の評論書。『スケバン刑事』の原作→映像、『セーラー服反逆同盟』に見られる、少年のマスコット化、果ては『美少女戦士セーラームーン』すら目にしていないようなので、お話にならない。


(この節、終わり)

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