第三節の1 『セーラー服反逆同盟』

『セーラー服反逆同盟』(八六年一〇月~八七年三月)NTV・ユニオン映画


 不良路線に日本テレビも参入してきて、作られたのが『セーラー服反逆同盟』である。製作はユニオン映画。『ゆうひが丘の総理大臣』『子連れ狼』など、学園ものや時代劇で知られる老舗だが、残念ながら、そのスキルは活かされてはいない。

 そもそもこの番組、かなり無理が感じられた。毎回、裏のメンバーである中山美穂が赤いバラを投げてメインのメンバーを助けるのだが、スケジュールの都合か、彼女だけ別録りの使い回しなのだ。しかもこのバラ投げシーン、オープニングの映像にも使われているのだが、うまく投げられなくてバラがぼとっと落ち、思わず中山美穂が苦笑するNGカットが、かなり後まで使われているのである。それはないだろう。

 物語のほうも、落ちこぼればかりを集めて超管理教育を行っている荒廃した学園を、高坂ユミ(仙道敦子)*・弓削ルリ(山本理沙)*・渋川ケイ(後藤恭子)*の三人、プラス山縣ミホ(中山美穂)の女生徒が変えていこうとする――という魅力的な出だしにも関わらず、いつの間にかメインストーリーはそっちのけで、刺客の女教師(なぜか外人)や変質者のウェイターとの小規模な戦闘に終始する展開になってしまい、スケール感が喪われた。せっかく第一話で、ユミがヘリで転校してくるというつかみを作っておいて、これはない。

 しかし、問題はもっと本質的? な所にある。

 何が問題と言って、メインの少女三人は、夜になると白いセーラー服姿になって戦うのだが、そのセーラー服の裾が足下まであり、長すぎる。別に生徒指導をしたいわけではない。非常に動きにくく、鈍重に見えるのだ。そのため、アクションに冴えがない。

 こうした女性ヒーローのコスチュームでは、一般には見せパンと言われる、要するにテニスのアンダースコートのようなものを履いている。あるいはブルマを履く。現在なら、たぶんスパッツだろうが、現在の私は、そこには注意して見ていないのではっきりとは言えない。

 あまり下着の話をすると、セクハラだと思われかねないが、これは重要な問題なので聴いて欲しい。つまり、少女の虚構性だ。

 ミニスカートというのは、一見、活発に見えるが、その実、行動の自由を奪うという、きわめて矛盾した構造を持っている。階段の上り下りにも裾を気にしなければならないのは、常識だろう。気にして歩くと活発さは喪われる。ましてやアクションをや、だ。

 従って、「ミニスカートを履いて活発な少女」というのは、フィクシャスにしか存在しない。妖精に羽があるのと同じく、幻想の意匠なのだ。妖精が空を飛べるからと言って、羽がある必要はない。それと同じく、少女が活発だからと言って、裾が短い必要もない。

 では、ロングスカートにすればリアルになるのではないか、と思われるかもしれない。その回答が、『セーラー服反逆同盟』になる。リアルかも知れないが、絵にならないのだ。ここは、嘘でも、いや、嘘と確信して、丈をもっと短くすべきだった。

 アクションの冴えないヒーローものに、カタルシスはない。カタルシスのないヒーロー物は、ヒーロー物とは言いにくい(『Ⅰ』のような、苦いカタルシスというものもある)。

 この番組で、もう一つ足を引っ張っているのが、各エピソードの結末である。

『スケバン刑事』は、悪を「倒す」という映像ならではの絵を作ってみせた。『Ⅰ』では原則として相手を逮捕するだけだったが、『Ⅲ』になると、あたかもヨーヨーが悪人を斃したようにまで見える。しかし映像上では、実際に殺してはいない。これが虚構のカタルシスである。

 しかし、『セーラー服反逆同盟』には、日常と言う名の現実がまとわりついている。悪を倒したところで殺すわけにもいかないし、彼女らの戦いは秘密なので、警察も来ない。

 それで彼女らがどうするかというと、倒した悪人を、プラカードを付けて校門に縛り付けておく。そして、朝になると楽しそうに登校して来て、他の生徒と一緒に、みっともない悪人を笑っている。『ザ・ハングマン』*後期並みに、カタルシスがない。それどころか、悪の教師との対決が続いている中でも、教師も生徒達も、朝になると平和に登校してきているのである。緊張感のないことおびただしい。放課後のお遊び感が、どうしても抜けないのだ。

 要するに、現実的思考が虚構の成立を妨げたのが、この番組と言える。それはそうだ。少女ヒーローとは、そもそも、日常に存在するものではないからだ。

 しかし、一概に悪い点ばかりではない。母(奈美悦子)と娘(中山美穂)との相克というドラマを、一応とはいえ、バックボーンに背負っているのは、少女ヒーロー的ではある。また、主題歌は『IZUMI』と同じA-JARI で、これもいい曲だ。


 なお、毎度おなじみのウィキペディアでは、この作品は当初、一クール(十三本)の予定だったが、好評につき二三話に延長された、とある。熱心なファンも多いらしいので、お好きな方は、お好きな場所で語っていただければ幸い。


【注】


仙道敦子――緒方直人と結婚、引退。有名な出演作に、清涼飲料『サスケ』のCMがある。


山本理沙――須佐理沙子名義で大映テレビ作品に出演。


後藤恭子――アニメ映画『アリオン』のイメージガールでデビュー。


『ザ・ハングマン』―― 必殺シリーズの山内久司プロデューサーが、現代版必殺として作ったドラマ。悪を「倒す」方法がない(あるいはその気がない)ため、社会的な地位を奪うのが、しだいにエスカレートしていって、ギャグとしか思えない、さらし者にしてみせたりしていた。しかし、シリーズは意外なほど人気があったようで、七作、作られている。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る