第二節の5 二本の映画『スケバン刑事』

※松浦亜弥主演の『スケバン刑事』は、後の章で詳しく書きます。


★映画『スケバン刑事』八七年


『スケバン刑事Ⅱ』は、好評のあまり、脚本・橋本以蔵、土屋斗紀雄、監督・田中秀夫というテレビのスタッフで映画化された。それが、映画『スケバン刑事』である。やや混乱するが、『Ⅱ』の映画化なのである――と単純には言い切れないようにできている。

 なぜかと言うと、この映画には当時テレビで放映中の、『スケバン刑事Ⅲ』の浅香唯が、テレビ通りの三代目麻宮サキとして参加している。つまり、『Ⅲ』と時系列上同じ時期に起きている事件なのである。それはテレビにもフィードバックされている。『Ⅲ』の中に、浅香唯がほとんど出て来ず、残りの二人の姉妹で事件を片づける回があるのだが、最後に、ぼろぼろになった浅香唯が帰ってくる。このとき、浅香唯は映画で南野陽子にヨーヨーを届けに行っていたのだ!

 テレビの『花のあすか組!』でも、映画のあすか(つみきみほ)が出る回があるが*、映画との辻褄は合っていない。いかに『スケバン刑事』が「乗って」作られていたかが分かる。

 さて、物語のほうだ。テレビの『Ⅱ』はある程度、アイドルドラマの制約を受けた話だったが、ここでは全力で、甘さのないドラマを描いている。

 スケバン刑事を解任され、普通の女子高生になったサキ(南野陽子)は、ふとしたことから萩原和夫なる青年(坂上忍)に出会い、彼が脱走してきた絶海の孤島・地獄城の存在を知る。地獄城は、落ちこぼれの学生達を矯正する、という名目で軍事訓練を行い、テロリスト要員の兵士に仕立てていた。平和な生活を愛していたサキだが、学生達の人格、命までも踏みにじる地獄城の支配者・服部(伊武雅刀)に怒りを覚え、仲間と共に、学生を解放する戦いに赴く。

 この映画は、数人のチームが孤島の要塞を攻略するという、娯楽映画の典型のようなものになっているが、そこで重要なのは、いったんは戦いをやめた彼女らが、再び戦う動機付けだ。

 それは、作戦を練っているアジトの屋上で、夕陽を見ながら語られる。

お京「退屈だけはご免だぜ、そうだろう」

サキ「こがいな平和な時代に、うちら、むきになって、おかしかの」

お京「おかしかねえよ。今の時代、あたいらみたいなバカが少なすぎんのさ」

雪乃「今の平和な時代とは、ほんとうは見せかけだけかもしれませんことよ」

 これは、バブル以前の、世間が最も軟弱だった時代、ヒーローはアウトローでなければならなかった様子を示している。バカだからこそ、人が救えるのだ。

 もう一つ、これはテレビシリーズでも行われていたが、「桜の代紋の無化」が強く打ち出されている。スケバン刑事も、警察とは違う組織下にあるものの、所詮、国家権力を背負った存在である。このことに、スタッフが鈍感であっていいわけがない。不良である少女ヒーローが、水戸黄門であってはならないのである。

 斎藤由貴の『Ⅰ』では、この矛盾から来る情念が前に出ていたが、この映画では、南野陽子=サキのこんなセリフで、自らの権力を否定している。

「服部! この代紋は、おまんに青春を弄ばれた若者たち全ての、怒りの代紋じゃ! この代紋がある限り、おまんのまやかしの理想、必ずうち砕いちゃる!」

『スケバン刑事』が権力的だ、という批判が一部にあるが*、それが真面目に見た感想でないことは、分かっていただけるであろう。サキは暗闇指令に『武器』こそ供給されたものの、それがなくても、自らの、そして仲間達との力で、悪に立ち向かったのに違いないのだ。

 さて、南野陽子も、テレビを経て多少の立ち回りはできるようになった(前転もしている)が、やはり限界があるらしく、映画でも吹き替えが多用されている。ビデオで見るとあまり目立たないのだが、劇場で観たときは、映像が大きいため、この吹き替えがかなり露骨に分かってしまった。ただ、それを気にせず、アクションをどんどん入れているため、映画としては面白くなっている。

 その代わり、と言うのも何だが、本来ゲスト的な位置にある風間唯が、他のメンバーと一緒になって大活躍する。浅香唯がよく動くのは前に書いた通りだ。この映画は、相楽ハル子と浅香唯が、現実的な動きを進めている感がある。

 また、あまり動けない南野陽子の存在感を強めるため、ここでは、「究極のヨーヨー」というアイディアが出された。普通の戦闘用ヨーヨー(いや、何が普通なんだ、とも言えますが)の四倍の重量、十六倍の破壊力*を持つこのヨーヨーは、跳ね返ってくるときの衝撃を和らげるため、肩に特殊パッドを装備して使われ、それでも、投げすぎると自らの筋肉を破壊してしまう、という、いわば重兵器ヨーヨーである。これによって、南野陽子は苦痛に耐えながら、重いヨーヨーを必死で投げる、という緊迫感が生まれている。

 戦いが終わり、地獄城は破壊される。そのとき初めて警察が動く。これは『燃えよドラゴン』を連想させるが、迎えに出た連絡役の西脇に、南野陽子は何も言わず、静かに去っていく。「今度こそ、さらばだ」と言う西脇。

 だが、果たしてほんとうに、そうなのだろうか。麻宮サキは、やはり、アウトローであり、カタギの道を歩むことはできない――私には、そう見えた。

 原作者・和田慎二は、『スケバン刑事』は『Ⅱ』こそが『スケバン刑事』であり、他の、特に『Ⅲ』はそうではない、という見識を持っていたが、そのような見方のため、この映画に特別出演している。


『スケバン刑事Ⅲ』の劇場版(八六)は、橋本以蔵が単独で脚本を校き、映画『スケバン刑事』と同じ、田中秀夫監督で映画化された。

 ここで橋本以蔵は、テレビの設定を踏襲せず、全く新しい物語を校いている。正確に言うと、テレビの物語の後日談なのだが、どうやら、テレビの伝奇色には乗れなかったのではないか。五社英雄の後継者を持って任ずる橋本以蔵は、どこまでも任侠の人なのである。

 映画よりやや近未来、司法省は青少年治安局を発足させ、学生刑事による青少年の取り締まりを行っていた。果心居士との戦いを終えた唯もその一人として活動していたが、学生刑事達のあまりの獰猛さに疑問を覚える。誰しもが思春期に行うような、ちょっとした悪さは、確かに罪かもしれないが、その罪を犯した者を、過激に叩きのめす学生刑事。その武器は、ヨーヨーから三つの刃が飛び出したものである。つまり、明らかに殺傷力を持つ武器なのだ。

 現在の、少年犯罪が凶悪化した、とされる世相(*!)で、この設定がどこまで理解されるかは分からない。それを当たり前に思う人もいるかもしれない。しかし、最初から武力を前提とした権力は、正しいとは言えないだろう。

 同じように思った唯は、ライブハウスで麻薬の密売を行っている『番外連合』の取り締まりに出動したとき、他の学生刑事が無差別に青年たちを叩きのめし、小さな子どもにまで手をかけようとしたのを見て、それに逆らい、学生刑事を辞める。

「この代紋は、学生を守るはずのものじゃった!」

 代紋の権力の無化、再びである。この映画は、前作にも増して、権力との戦いを前面に押し出している。他の学生刑事のヨーヨーが、見るからに殺傷力のあるものなのに対し、唯だけが「普通」のヨーヨーを使っているのが象徴的だ。

 そのヨーヨーを捨て、故郷の九州に帰った唯は、のびのびと暮らしている。だが、青少年治安局を率いるエリート官僚・関根蔵人(京本政樹)の陰謀が進み、暗闇指令も拘束されたた。真相を探ろうとした般若は秘密のデータが校き込まれたフロッピーディスクを結花、由真に託して死ぬ。ふたりは戦うことを決め、九州から唯を呼ぶ。それまで私服だった姉妹たちが、戦闘に入るとセーラー服に着替えるのが、いかにも少女ヒーローらしい。

 戦いに懐疑的だった唯だが、阿川瞳子(藤代美奈子)*率いる学生刑事達に襲われ、否応なしに戦わざるを得なくなる。逃げる内に、唯は坂東京助(豊原功補)*をリーダーとする番外連合と知り合う。彼らは社会から落ちこぼれた若者達で、廃校のような場所に住まいし、自立した生活を送っていた。密売している麻薬も、実は単なる栄養剤で、金を稼ぐ方便だったのだ。だが関根は、学生刑事を使ってテロ行為を行い、国家を転覆させようとしており、その罪を番外連合になすりつけていた。こうして唯は、番外連合と共に戦うことになる。

 唯は関根の乗ったセスナをヨーヨーで墜落させて事件を終わらせ、姉妹と共に九州へ、再び帰る。爽やかな後味の残る佳作である。


*小高恵美――テレビ『花のあすか組!』のあすか。その後、『ゴジラVSビオランテ』から『ゴジラVSデストロイア』に到るまで、ゴジラの心が読める超能力者・三枝未希を演じる。

*『スケバン刑事』が権力的――例えば寺脇研の批評。本人が文部官僚であることには、責任を取らないらしい。

*四倍の重量、十六倍の破壊力――一般に、力は質量の二乗に比例するので、これでいいのだ。

*少年犯罪が凶悪化した世相――実は、これは単なる印象による感想で、現代は例えば『ALWAYS 三丁目の夕日』でほのぼのと描かれる昭和三十年代と比べても、少年犯罪は激減している。正しく言うなら、少年犯罪がより注目されるようになった、とでも言うべきであろう。

*藤代美奈子―― 前述の東宝シンデレラ第一回審査員特別賞受賞。硬質な美人。

*豊原功輔――『ゴジラVSビオランテ』と『ゴジラVSキングギドラ』に、それぞれ違う役で出ているのは興味深い。『エコエコアザラク』の小中千昭脚本、『魔夏少女』の吉田秋生演出のドラマ、『乱歩 ――妖しき女たち――』(九四)では、四話オムニバスにそれぞれ違う役で出演(怪人二十面相を含む)、器用な所を見せている。


(この節、続く)


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