8-14 まだしょげてるかい?
神代結歌が帰宅し、自室で制服から私服に着替えて自室を出ると、神代契が階段を上がってくるところだった。神代結歌は廊下で神代契が上がってくるまで待った。
「葦名君はまだしょげてるかい?」
契は侮蔑し立ち止まって背中で返答を待っている。結歌は契に言いたいことがある。
「葦名君は、お兄様が思っているような人ではありません。もう前を向いています」
「へえ~」
契は振り返ることなく答えた。
兄が立ち止まっているので、結歌は言葉を継ぐ。
「葦名君は、私たちの力を問い直しています。私たちの歌を神様が聞き届けるのではなく、未来を知る何者かが私たちの口を通して告げているのではないか。私たちは自由に歌を詠むことができないのではないか。そう問い直しています」
そして結歌は小さく息をのんだ。
「私は、葦名君は信頼できると考えています」
契はピクリとも動かない。
「じゃあ、そう言った言葉も何者かに言わされてるのかもしれないじゃないか。自分で自分の言葉は自分でしゃべっていないと言う人間の言葉を信じるなんて、結歌は馬鹿だね」
契が吐き捨てた言葉を聞き、結歌の胸中に、今までになかった、なにかがこみ上げてきた。その形を自覚したとき、言葉のつぶてとして契にぶつけずにはいられなかった。
「契兄様は、歌の力で新型コロナウイルス感染症を止めようと思ったことはないのですか?」
契が振り返った。
「その言葉、結歌に返すよ」
結歌は口を閉じた。契の言葉に筋が通っていることを悟ったから。
黙った結歌を見て、契はせせら笑う。
「俺と結歌は同じ力を持ってるんだ。自分が思いついたなら自分がやればいい。俺は自分の考えで自分が決めたことをやるよ。他人に頼むなんて笑えるね」
契は踵を返し、自室に入った。
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