8-3 友達を心配するのはいいが、変な影響されるんじゃないぞ

 その晩の葦名家。

 葦名律は父の葦名浩二と二人で食卓に座る。今日のおかずは生姜焼きときんぴらゴボウ。育ち盛りだから、と大きい方の生姜焼きを自分に盛ったのは律の役得だ。

 彼の表情はやや暗い。学校では見せていない影が差している。

 彼は箸を止めた。

「父さん、ちょっと話を聞いてくれる?」

 父は噛み切った肉を飲みこむと律の暗い表情を見た。

「ああ。言ってみなさい」

 律は箸を置く。

「最近、学校で変わった子と友達になったんだ。その子のお父さん、拝み屋って言うのかなあ、偉い人にまじないの言葉をかけてお金をもらうのが仕事みたいで、その子には変わったことを教えてるみたいだし、家が厳しいらしいんだ。それで悩みが多いみたいで。その子に、どう接したらいいと思う?」

 律は、その友達が異性であることは意図的に隠した。

 父はため息をついた。

「友達を心配するのはいいが、変な影響されるんじゃないぞ。他所様の家のことなんて、外から口出しできないものだしなぁ。拝み屋なんて、他人の足下を見る人間だ。人の弱みを見透かして、誰にも当てはまるようなことを言って金をせしめるんだ。まともな商売じゃない。まともに働いたことがあるのかどうか……」

 父の最後の言葉だけは変な決めつけが入っているようで、律は訂正したくなる。

「昔、銀行で企業向け融資を担当してたんだって。バブル崩壊の時に辞めたらしいけど」

 父は再びため息をついた。

「銀行勤めの経験を活かして拝み屋とは、楽することを選んだもんだ」

「銀行の経験って活きるの?」

「活きるぞ」

 驚いた律に父は即答する。

「銀行っていうのは、どんな会社が倒産するか、ちゃんと見てるんだ。その経験があれば、どの人の将来があるのか、ちゃんと分かるようになる。その経験を活かして、将来がある人間におべんちゃらを使って取り入るって寸法だろう。取り入られた人間がどうなるかは分からないがな。律が気にしている友達の父親は、何の仕事もしてない人間だ。言うことは聞かなくていい」

 律は父の言葉を簡単に飲み込めない。

「そういうもんなの?」

「そういうもんだ。友達には優しくしなさい。でも、変な話の誘いがあったら絶対に断るんだぞ。この話は、もういいか?」

「うん……」

 律が黙ったのを見てとった父は、箸をきんぴらゴボウに伸ばす。父がきんぴらゴボウを口に入れたのを見て、律は箸を手に取った。

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