第2話蛍
小学生の頃でした。
夏休み、とある知り合いの家に、家族とお泊まりをしたんです。
喉かな田舎で、夜になると沢山の蛍が見れるとの事。
その家には私より六つ年上のお姉さんがいて、夜になったら蛍狩りに行こうと誘ってくれました。
夕食を済ませ、待ちに待った蛍狩りの時間です。
お姉さんに連れられ、私は蛍狩りへと出掛けました。
場所は家から歩いて二十分程度のところにありました。
暗くてよく分かりませんでしたが、近くに朽ちた鳥居と、崩れかけたお堂がありました。
そしてその前には荒れ放題の田んぼが広がっていました。
草は伸び放題で、もう何年も放置されているような田んぼです。
ですが……。
「ほら見て!」
お姉さんがそう言って指を指しました。
釣られて視線を向けると、そこには見たことも無いくらいの数の蛍が、辺り一面に飛んでいたんです。
虫網など使わずに手を広げて掴めば簡単に取れるくらいに。
私は無我夢中で田んぼの中に飛び込み蛍を追いかけました。
お姉さんも一緒になって蛍を追いかけます。
ですが、私の足は次第に止まりました。
何か変なんです。
蛍が……いえ、蛍ではなく……。
足元が。
蛍を追いかけ走り回っていると、何か足に当たるんです。
初めはゴミや石に躓いているんだと思いあまり気にしませんでした。
けれど妙に違和感を感じ、一度立ち止まったんです。
すると、
ガサガサと、明らかに足元で異音が聴こえ、私の足に何かがぶつかって来たんです。
何だろうと思いながらお姉さんに恐る恐る聞くと
「あっ、下見ないで」
と、おかしな事を言うんです。
なんで下見ちゃダメなのかと聞き返すと
「連れてかれるよ?」
とニッコリ笑いながら言うんです。
何に?
するとまた足元からガサガサと鳴るんです。
私はもう一歩もそこから動けませんでした。
「大丈夫!下さえ見なかったら、目さえ合わなかったら何もしてこないから。ほら、蛍!沢山捕まえたよ!」
そう言ってお姉さんは無邪気な顔で捕まえた蛍を私に見せて来るんです。
何だか怖くて堪らなくなった私はもう帰ろうと言って、お姉さんと一緒に田んぼを出ました。
田んぼから出た瞬間、一瞬でしたが小さな二足歩行の生き物が、草木の間に入って行くのが見えました。
あれ何?と尋ねると、
「ああ、あれは……ネズミかな……?」
と、お姉さんは笑って言っていました。
「蛍沢山捕まえたね」
お姉さんはニコニコしながらそう言って私に向かって両手を広げてきました。
お姉さんの手の平には、暗がりではっきりとは見えませんでしたが、沢山の蛍がすり潰されたような後が、くっきりと残っていたんです。
それを見て気持ち悪くなった私は、足早に家に戻り、その日は母の布団で一緒に寝かせてもらいました。
次の日、お姉さんが御両親にすごい剣幕で怒られていました。
微かに聞こえたのは以下の通りです。
「何で……あそこは……光一はそのせいで……足を……お前も……なりたいのか?……二度と……次は……お前も……」
「……連れていかれる」
あの言葉だけが、妙にくっきりと、私の耳に今も残っています。
以上、訳の分からないそれだけの話です。
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